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平成24年版 犯罪白書 第7編/第1章

第7編 刑務所出所者等の社会復帰支援
第1章 はじめに

刑務所出所者等の再犯防止と改善更生は,我が国の刑事政策における現下の最重要課題である。犯罪対策閣僚会議が策定した「犯罪に強い社会の実現のための行動計画2008」では,「犯罪者を生まない社会の構築」を重点課題の一つとして掲げ,刑務所出所者等の再犯防止の施策を推進することとし,同閣僚会議の下に設置された「再犯防止対策ワーキングチーム」(平成22年12月設置)は,23年7月,短期的に集中して取り組むべき施策として,「刑務所出所者等の再犯防止に向けた当面の取組」を策定し,これに沿った施策が実施されてきた。しかしながら,刑務所出所者等の再犯を効果的に防止するためには,長期にわたり広範な取組を社会全体の理解の下で継続することが求められることから,24年7月,同閣僚会議は,より総合的かつ体系的な再犯防止対策として,発展的に再構築を図るべく,今後10年間における刑務所出所者等の再犯防止に向けた「再犯防止に向けた総合対策」を策定し,官民一体となった各種再犯防止対策をより一層充実・強化することとした。

再犯防止と改善更生には,まず,犯罪者や非行少年が自らの罪を真摯に反省し,これを償い,更生を決意することが重要である。そして,それぞれが犯罪や非行に至った原因や背景を踏まえ,自ら抱える問題を解決し,これを克服していかなければならない。こうした課題に対応するため,矯正施設においては,受刑者・少年院在院者に対する矯正処遇等・矯正教育が実施され,保護観察対象者等については,保護観察所による指導監督や補導援護等が実施されている。そして,近年では,例えば,刑事施設・少年院における薬物事犯者や性犯罪者等に対する特別改善指導,保護観察所における専門的処遇プログラム等を,外部の専門家や民間団体の援助を得ながら充実させるなど,それぞれの特性や問題性に対応した処遇が充実,強化されてきている。

一方,刑務所出所者等の再犯については,仕事や住居や相談相手がない状況で引き起こされているケースが多く,不安定な就労や居住状況が再犯リスクとなることは,近年の犯罪白書で繰り返し指摘してきたとおりである。例えば,平成19年版犯罪白書によれば,刑事施設を仮釈放された者のうち,保護観察が終了した時点で無職であった者の比率は,窃盗,殺人,覚せい剤取締法違反等の主な罪名では,いずれも30%前後かそれ以下であったのに対し,保護観察期間満了前に仮釈放が取り消された者では,無職者の比率がいずれも50%以上,財産犯に限ると80%以上の高率であった。また,平成21年版犯罪白書によれば,初めて執行猶予となった窃盗事犯者では,安定就労者と比べて無職者の再犯率が約15pt高く,家族等と同居している者と比べて単身で住居不定又はホームレスの者の再犯率が約12pt高いなど,不安定な就労状況及び居住状況が再犯要因となっていること,初めて執行猶予となった覚せい剤事犯者でも,同様に不安定な居住状況や就労状況が再犯要因となっていることが明らかにされている。

これに関連し,かつては仮釈放率が50%台後半であったものの,ここ数年では,満期釈放者の割合が50%前後で推移し(2-5-1-1図参照),そのうち適当な帰住先がないまま釈放となっている者が多く(7-2-2-1図参照),さらに,刑務所への再入者に占める無職者の割合も非常に高い状況にある(4-6-3-6図参照)。また,高齢者の仮釈放率は,出所受刑者全体と比べて約20pt低く(4-4-2-4図参照),その背景に,適当な帰住先のない者が多くなっていることがあると推測される。

こうした実態等を踏まえると,施設内処遇から社会内処遇への継続性と一貫性を保ちつつ改善更生を促し,刑務所出所者等の仕事や住居等の生活基盤を整えて円滑な社会生活への移行を促進することが社会復帰への鍵となり,安定した就労と住居の確保や福祉等の支援が再犯防止対策の重要な柱となると考えられる。

ところで,就労や住居の確保等を通じた社会復帰支援の目的は,矯正や更生保護の機関だけで達成し得ないことは自明であり,地域社会の理解と協力を得て,様々な立場の人々が協働的な取組を推進することが有効である。就労支援における雇用主,住居確保におけるアパート等の提供者といった民間の協力者を始めとして,職業訓練,職業紹介,住居あっせん,福祉的なサポート等の種々の場面で,関係する公的な機関や民間団体が,それぞれの専門性やノウハウを生かして連携することでより効果的な支援が可能となる。また,多様な問題・ニーズに柔軟に対応できる民間ならではの多様な支援が提供されることも重要である。このような支援を通じて刑務所出所者等に責任ある社会の一員としての役割を与えて地域に受け入れ,その「居場所」と「出番」を確保して社会に包摂することができれば,円滑な社会復帰と再犯防止は促進され,国民生活の安心・安全の実現の要請にもかない,国民の利益に資することになろう。

我が国の更生保護の歴史は,古くは民間篤志家による釈放者保護に始まり,第二次世界大戦後に現在の更生保護制度が成立してからは,国の更生保護機関がその実施者としてこれを引き継ぐ形で,民間と緊密に連携しながら発展してきたものである。社会の中で長くその主要な担い手となってきた保護司や更生保護施設は,今も矯正施設や保護観察所等のパートナーとして欠くことのできない存在であり,様々な取組が進む刑務所出所者等の社会復帰支援において,その役割はますます重要なものとなっている。他方,最近では,就労支援や住居確保等に向けた取組を中心とする近年の施策の進展ともあいまって,保護司や更生保護施設だけでなく,様々な公的機関や民間団体の関与,参加,協力が活発化し,官民協働の在り方も多様化してきているが,その実情は必ずしも広く一般に知られているとはいえない。

そこで,本年版犯罪白書では,「刑務所出所者等の社会復帰支援」と題し,特に「居場所」と「出番」の確保の中核となる住居確保等及び就労に焦点を当てることとした。本編では,第2編及び第3編等で矯正処遇や保護観察における処遇の全体像が示されていることを踏まえて,主に,就労支援,住居確保等のための取組の中で,民間団体や様々な機関の関与・連携によって展開している処遇の実情を紹介するととともに,保護司及び受刑者・少年院在院者の意識調査結果を通じて,刑務所出所者等が安定した就労や住居等を確保するに当たって直面する課題と必要とする支援内容等を明らかにし,官民一体となった社会復帰支援の現状を理解し,刑務所出所者等の社会復帰支援の在り方を考えるための資料を提供することを目指した。

本編の構成は,次のとおりである。

まず,第2章において,就労支援,住居確保等のための取組及び保護司を始めとする社会復帰支援における民間等の取組の実情を広く紹介する。

次に,第3章において,保護司及び受刑者・少年院在院者の意識調査結果を分析し,刑務所出所者等が社会復帰で直面する課題と必要とする支援を明らかにするほか,保護司活動における課題等を紹介する。

以上を踏まえ,第4章において,刑務所出所者等の就労,住居確保等に向けた取組等における現状と課題を総括する。


7-1-1図 犯罪者・非行少年の処遇と社会復帰支援の取組
7-1-1図 犯罪者・非行少年の処遇と社会復帰支援の取組