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平成22年版 犯罪白書 第7編/第4章/第2節

第2節 重大事犯に関する処遇の充実

(1)若年者に対する処遇の重要性

重大事犯者は,一般刑法犯全体と比べ,前科を有する者が多い(7‐1‐1‐13図参照)が,調査対象者について,前科を有する者の最初の前科時の年齢を見ると,いずれの罪名でも,20歳代の前半に最初の前科を有している者の比率が高い(7‐2‐3‐2‐9図参照)。一般的に,前科を有している者(その後に犯罪を犯したか否かを問わない。)は,最初の前科時の年齢で区分すると,年齢が低い者の人員が多いが,それを考慮しても,特に,強盗,殺人及び強姦では,有前科者のうち,20歳代の前半に最初の前科を有している者の比率が極端に高い。このことは,有前科者の中でも,若年時から前科を有する者は,強盗等の重大事犯に及ぶおそれがより大きいことを示している。また,20歳代の前半に最初の前科を有している重大事犯者は,それ以外の有前科者と比べ,前科数が多い者の比率が高くなるのは当然であるが,そのことを考慮しても,6犯以上の前科を有している者が顕著に多く(7‐2‐3‐2‐10図<1>参照),若年時から前科を有する者には,その後も犯罪を繰り返し,重大事犯に及ぶに至る者が相当数いることが示唆されている。

他方,20歳代の前半に最初の前科を有している重大事犯者は,再犯率が高い(7‐2‐3‐2‐10図<2>参照)。少年時に保護処分歴を有する重大事犯者も同様である(7‐2‐3‐2‐12図参照)。

これらのことを踏まえると,これまでの犯罪白書でも述べてきたところであるが,ここでも,若年の犯罪者に対する処遇の重要性を強調したい。若年者は,可塑性に富み,社会復帰のための環境も整いやすいのであるから,犯罪傾向を改善するための処遇を適切に行い,早期に可能な限り再犯の芽を摘むことが,重大事犯の発生を防止するという意味でも効果的である。

(2)重大事犯者の問題性を改善するための処遇の充実

重大事犯者は,一般的に,規範意識の欠如が顕著であり,他人の生命・身体を尊重する意識が希薄で,被害者に与える被害の重大さに思いが至らないなど,大きな資質上の問題を抱えている。重大事犯者の改善更生を図るためには,何よりも,こうした資質上の問題を除去・改善する処遇を行うことが不可欠である。

こうした処遇として,第3章で紹介したように,現在,矯正や更生保護の段階で,「被害者の視点を取り入れた教育」,「しょく罪指導プログラム」,「暴力防止プログラム」,「性犯罪再犯防止指導」,「性犯罪者処遇プログラム」等に基づく指導が行われているが,これらの処遇は,始められてから間がなく,効果の検証を重ねながら,その結果を踏まえて,必要な改善を加え,充実強化を図っていくことが必要である。さらに,重大事犯者には,飲酒の問題が背景となっている者や家庭内暴力が高じて傷害致死等の犯行に至る者もいるので,心理学等の専門的知識を活用して,飲酒行動を改善し,家庭内暴力を防止するための処遇のプログラムを開発することも必要であろう。

また,殺人及び強盗では暴力団構成員等による犯行の比率が高いなど,暴力団構成員等による犯行は,依然として,治安維持の上で大きな問題であり,暴力団離脱指導(第2編第4章第3節3項(2)参照)や「暴力団関係」の類型に認定された者に対する類型別処遇(同編第5章第2節2項(3)イ参照)の役割も重要である。

(3)社会復帰支援策の充実

重大事犯者の処遇においては,資質の問題の改善が肝要であるが,その社会復帰を促進し,再犯を防止するためには,住居と就労による生活基盤が確保されるようにすることも重要である。

他方で,重大事犯者は,受刑が長期間に及ぶことが少なくないこともあり,就労が容易でなく,また,出所までに,家族の気持ちの変化や高齢化等により,家族のもとに帰住することができなくなることもあるなど,社会復帰のための条件に厳しいものがある。その典型は,短期再犯者である。第2章第3節3項(2)で見たとおり,重大事犯者には,刑事施設を出所した後,住居も職もないまま,生活に窮し,1か月未満という極めて短期間で,財産犯の再犯に及び,あるいは刑務所に戻ろうと考えて傷害等の再犯に及ぶ者がいる。こうした短期再犯者は,多数というわけではないが,出所から短期間で再犯に及ぶことを繰り返し,重大再犯に及ぶ者もいるなど,到底軽視できない問題である。

このように,重大事犯者の社会復帰のための条件には厳しいものがあり,生活基盤が確保されるようにするためには,より充実した効果的な措置が必要である。そうした観点から,受刑者に対する職業訓練や特別改善指導として実施されている就労支援指導の充実を図るとともに,出所後の就労の確保に向けて,法務省と厚生労働省の連携で実施されている刑務所出所者等総合的就労支援対策(第2編第4章第3節2項(6),同編第5章第2節2項(5)参照)による支援を民間のノウハウも活用してより効果的に実施することは極めて重要である。また,生活環境の調整(第3章第1節3項(1)参照)や更生緊急保護(第2編第5章第3節1項参照)の充実も課題であるが,これらの措置が機能するためには,頼るべき親族等がいない受刑者の更生保護施設での受入れの拡大,協力雇用主の開拓・拡大などを始め,社会の協力を得ることが必要であり,そのための取組を強化することも求められる。さらに,平成21年度から,保護観察所では,高齢又は障害により自立困難で住居もない受刑者が社会福祉施設に入所することなどができるようにする生活環境の調整も行っている(同章第1節参照)が,その充実も課題である。

(4)適切な社会内処遇の必要性

重大事犯による出所者の10年内の累積再入率は,いずれの罪名でも,仮釈放者は,満期釈放者に比べて顕著に低い(7‐1‐3‐3図参照)。また,調査対象者について,強盗による仮釈放者の仮釈放期間別の再犯状況を見ると,仮釈放期間が短い者ほど,再犯率が高い傾向があり(7‐2‐3‐2‐18図参照),強盗以外の罪名でも,おおむね同様の傾向が見られる。

このことは,仮釈放の許否が再犯リスクをおおむね的確に見極めてなされていること,仮釈放者に対する保護観察の処遇が再犯の防止に機能していることをうかがわせるが,他方で,再犯リスクが大きく,そのため仮釈放が許されず,許されるとしても,その期間が短期間である者は,保護観察による指導監督・補導援護の必要性が高いというべきであり,これに対する対策についても,検討することが必要であるように思われる。

(5)国民の理解・協力の促進

(3)で述べたとおり,重大事犯者を含む犯罪者の社会復帰を促進するためには,社会の協力を得ることが不可欠である。

平成21年12月に内閣府が実施した基本的法制度に関する世論調査の結果によると,更生保護制度の意義は,7割弱の国民に理解されているものの,「犯罪を犯した人の立ち直りを支援し,再犯を防止する活動に協力したい気持ちはあるか」との問いに対しては,「ない」と回答した者(51%)が「ある」と回答した者(42%)を上回るなど,犯罪者の社会復帰に対する具体的な協力を得ることは容易ではない現状もある。

国民に,重大事犯者の社会復帰について一層の理解・協力を求めるためには,効果的な犯罪者処遇の実現に向け不断の取組を重ねるのはもとより,犯罪者の再犯の状況を含め,処遇の実情を分かりやすく説明することも求められている。