前の項目 次の項目 目次 図表目次 年版選択 | |
|
1 裁判員制度の概要 裁判員制度は,広く国民が刑事裁判の過程に参加し,裁判の内容に国民の健全な社会常識がより反映されるようになることによって,司法に対する国民の理解と支持が深まり,長期的に見て,司法がより強固な国民的基盤を得ることを目指し,裁判員法により創設された制度である。(1)対象事件等 裁判員裁判の対象となる事件は,死刑又は無期の懲役・禁錮に当たる罪に係る事件(1号事件)及び法定合議事件(死刑又は無期若しくは短期1年以上の懲役・禁錮に当たる罪(強盗等を除く。))であって,故意の犯罪行為により被害者を死亡させた罪に係る事件(2号事件)であり,国民の関心が高いと考えられる重大事犯である。ただし,被告人の言動等により,裁判員やその親族等に危害が加えられるなどのおそれがあって,そのために裁判員等が畏怖し,裁判員の職務の遂行ができないなどと認められる場合には,対象事件から除外される。なお,対象事件には当たらない事件であっても,対象事件と併合された場合には,対象事件となる。 (2)公判前整理手続 裁判員裁判対象事件は,第一回公判期日前に,必ず公判前整理手続に付され,そこで,裁判所は,争点を整理した上,証拠の採否や取調べ順序を決定し,具体的な審理計画を立てることで,集中的・計画的な審理が行われる。 (3)裁判員の選任等 裁判員の選任までの流れは,6-2-1図のとおりである。 6-2-1図 裁判員選任手続の流れ まず,地方裁判所ごとに,選挙人名簿に登録された者の中から,毎年,くじで選定された裁判員候補者名簿が作成される。そして,事件ごとに,裁判員候補者名簿の中から,くじで裁判員候補者を選定し,選任手続のため裁判所に呼び出す。裁判所は,非公開の手続で,一定の欠格事由等に該当する者,一定の辞退事由に該当して辞退を認められた者及び検察官又は被告人から理由を示さない不選任請求をされた者を除外した後,裁判員6人(例外的に4人の場合もある。)をくじ等で選任する。なお,辞退事由としては,[1]年齢が70歳以上である,[2]地方公共団体の議会の議員である,[3]学生又は生徒である,[4]過去5年以内に裁判員(補充裁判員)又は検察審査員(補充員)を務めた,[5]過去1年以内に裁判員候補者として選任手続期日に出頭した,[6]一定のやむを得ない理由があって裁判員の職務を行うことや裁判所に行くことが困難であること等が裁判員法上規定されている。審判の期間その他の事情を考慮して,必要な場合には,裁判員の員数に不足が生じることに備えて,補充裁判員が置かれる。 裁判員,補充裁判員及び裁判員候補者として裁判所に出頭した者に対しては,一定の日当や交通費等が支払われる。 (4)審理及び評決 裁判員裁判の審理は,連日的な開廷により行われる。検察官,弁護人等は,裁判員がその職責を十分に果たすことができるよう,分かりやすい審理の実現に努めなければならない。裁判長は,評議において,必要な法令に関する説明を丁寧に行い,評議を整理し,裁判員が発言する機会を十分に設けるように努めなければならない。 裁判員裁判では,有罪・無罪の判決等に係る事実の認定,法令の適用及び刑の量定について,裁判官3人及び裁判員6人(一定の場合,裁判官1人及び裁判員4人)の合議体において評議を行い,裁判官及び裁判員の双方の意見を含む合議体の員数の過半数の意見により評決する(裁判官及び裁判員の双方の意見が含まれなければならないので,例えば,裁判員が全員一致で有罪の意見であっても,裁判官全員が反対の意見であれば,有罪の評決をすることはできない。)。裁判員は,自ら関与する判断に必要な事項については,裁判長に告げて,被告人や証人等に対して質問をすることができる。他方,法令の解釈,訴訟手続に関する判断等については,裁判官のみによる評議により判断し,裁判員はそれに従うことになるが,裁判員の意見を聴くことが有用な場合もあり,裁判官は,裁判員にその評議の傍聴を許し,意見を聴くことができる。 (5)部分判決 同一の被告人に対する複数の事件が併合審理される場合には,裁判員の負担を軽減するため,併合事件の一部を区分し,区分した事件ごとに,併合事件全体を担当する裁判員とは別に裁判員を選任して審理を行い,各事件の有罪・無罪のみを判断する部分判決をし,この部分判決を踏まえ,併合事件全体について,これを担当する裁判員が,裁判官と共に,刑の量定の評決を行うなどして,終局の判決を言い渡すことができる。 (6)裁判員の守秘義務と裁判員保護のための措置 裁判員及び補充裁判員(以下「裁判員等」という。)には,評議の経過,裁判官・裁判員の意見等,その他職務上知り得た秘密を漏らしてはならない義務があり,秘密を漏らした場合は,処罰の対象となる。裁判員等としての職務終了後も,同様である。 裁判員等の保護のための措置として,職場での不利益な取扱いの禁止,裁判員等を特定するに足りる情報の非公開,裁判員等に対する接触の規制等が定められている。 なお,最高裁判所は,毎年,対象事件の取扱状況,裁判員等の選任状況その他裁判員法の実施状況に関する資料を公表し,また,政府は,裁判員法の施行の3年後に,施行の状況について検討を加え,必要があると認めるときは,所要の措置を講ずるものとされている。 |