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 平成20年版 犯罪白書 第7編/第3章/第2節/4 

4 殺人

(1)調査対象者
第2章第1節2及び第2節2で見たように,結果が重大な殺人事犯(殺人又は強盗殺人(未遂を含む。)をいう。以下,本項において同じ。)に及んだ者(以下,本項において「高齢殺人事犯者」という。)の検挙人員・起訴人員は増加傾向にあるものの,実数自体は少なく,平成19年に東京地方検察庁(本庁のみ)が受理し,起訴した高齢殺人事犯は,わずか2件にとどまった。そのため,殺人については,10〜19年の間に東京地方検察庁(本庁のみ)が受理し,東京地方裁判所において有罪とされたもので,資料の収集が可能であった高齢殺人事犯者全員(50人)を対象とした。
 分析に当たっては,高齢殺人事犯者の特徴を見出すため
本節冒頭の1で説明した,平成19年に新規事件受理した高齢犯罪者(以下,本項において「19年受理高齢犯罪者全体」という。)との属性に関する比較
新規事件受理時65歳未満の殺人事犯者(以下,本項において「非高齢殺人事犯者」という。)との本件の犯行態様に関する比較
親族を殺害した者(以下,本編において「親族殺(事犯者)」という。)と親族以外の者を殺害した者(以下,本編において「親族以外殺(事犯者)」という。)の属性及び本件犯行態様に関する比較
 を行うこととした。
 非高齢殺人事犯者の調査対象の選定に当たっては,高齢殺人事犯者が50人であったため,比較対照する非高齢殺人事犯者も,平成19年及び18年中に東京地方裁判所において有罪に処せられた65歳未満の者のうち,宣告日の新しい者から順に50人を選定し,調査の対象とした。
 このように,高齢殺人事犯者と,19年受理高齢犯罪者全体及び非高齢殺人事犯者とは,事件の暦年がそれぞれ異なるが,およその高齢殺人事犯者の特徴を知るために比較対照を行った。
(2)高齢殺人事犯者の事例
 高齢殺人事犯者の事例のうち,典型的なものを5例紹介する。
 [1] 介護疲れ,経済不安により夫殺害を企てた事案
 
69歳女子。前科・前歴なし。70歳代の認知症の夫の介護に疲れ,本件直前に退職。減収による経済不安もあり,ゴムひもとふろしきを用いて夫殺害を企てたが,途中で断念。懲役2年6月執行猶予3年。
 [2] 病気と多額の負債を苦にした無理心中の事案
 
67歳男子。前科・前歴なし。体調不良の上に,自営業の不振による1,000万円の借入金があり, 50歳代の内妻も持病を抱え,将来を悲観。内妻の提案により無理心中を決意し,同女を刺殺したが,自殺は未遂に終わった。懲役3年。
 [3] 退職後に居場所を失い,家族への不満を募らせた事案
 
66歳男子。罰金前科1犯(35年前の業務上過失傷害)。長い単身赴任歴の間に深酒が身に付き,定年退職後に自宅に戻ったものの家庭内での居場所がなく,公園徘徊,競馬,飲酒に走り,本人のことを心配した60歳代の妻が,アルコール依存症として医者に相談しようとしたところ,立腹して切り付けた。未遂に終わったが,事件後,妻とは離婚。懲役3年。
 [4] 飲酒時に自尊心を傷付けられて激高した事案
 
70歳男子。前科・前歴なし。40歳代の隣人を自宅に招いて飲酒していた際,同人が,以前本人が稼動していたいわゆる飯場の人間を差別するような発言をしたため,過去の自分を否定されたように感じて憤激し,刺殺した。懲役10年。
 [5] 少年時から犯罪を重ねてきた事案
 
67歳男子。前科10犯,受刑歴複数回。少年時から窃盗や粗暴事犯を重ねてきたが,直近前科は16年前(傷害)。土木作業員の仕事を辞め,所持金を競馬で使い果たし,簡易宿泊所を出て路上生活を送っていたところ,ホームレスに身の上話を聞かせていた際,同人がうるさがって本人を罵倒したため激高し,カッターナイフで首を切り裂いて殺害した。懲役10年。
(3) 属性の比較
ア 調査対象者の罪名及び男女比
 高齢殺人事犯者の罪名の内訳は,殺人が45人(うち未遂18人),強盗殺人が5人(うち未遂2人)であった。男女別に見ると,男子が41人,女子が9人であり,強盗殺人に係るものはすべて男子によるものであった。
 一方,非高齢殺人事犯者の罪名の内訳は,殺人が46人(うち未遂23人),強盗殺人が2人(うち未遂1人),殺人幇助が2人(いずれも未遂)であった。男女別に見ると,男子が40人,女子が10人で,強盗殺人は男女各1人,殺人幇助はいずれも男子によるものであった。
 なお,高齢殺人事犯者のうち,親族殺が28人,親族以外殺が22人であり,ことに女子は9人全員が親族殺であった。非高齢殺人事犯者では,親族殺が13人,親族以外殺が37人で,親族殺のうち6人が女子であった。
イ 前科
 (ア)前科・前歴・受刑歴
 7-3-2-41図は,前科の有無及び回数の構成比を見たものである。高齢殺人事犯者は,19年受理高齢犯罪者全体と比べ,「前科なし」の者の比率が高く,11犯以上の者の比率は低いなど,前科は総じて少ない傾向にあった(最多は18犯)。
 ただ,前科の数は,親族殺と親族以外殺とで大きく異なり,親族殺の者については8割強が「前科なし」であったが(最多は4犯),親族以外殺では,「前科なし」は27.3%にとどまっている。また,親族以外殺は,19年受理高齢犯罪者全体よりも「前科なし」の比率が低かった。強盗殺人5人について見ると,「前科なし」は1人で,前科1犯が2人,4犯及び5犯が各1人であった。
 なお,女子の高齢殺人事犯者には,万引きによる起訴猶予歴が1回ある者が1人いたが,すべて「前科なし」であった。

7-3-2-41図 殺人事犯者の前科の有無別構成比

19年受理高齢犯罪者全体では,「受刑歴なし」が64.4%,「1回」が7.1%,「2回以上」が28.5%であるのに対し,高齢殺人事犯者では,それぞれ82.0%,2.0%,16.0%であった。
 (イ)有前科者の初回前科確定時の年齢
 高齢殺人事犯者の有前科者20人は,19年受理高齢犯罪者全体と比較すると,初回前科確定時の年齢が低く,初回前科が少年時の者が,19年受理高齢犯罪者全体では3.6%と少なかったのに比し,高齢殺人事犯者では15.0%となっていた。また,前科のすべては65歳未満時のものであり,高齢者になってから初回前科が確定した者はいなかった。
 (ウ)再犯期間
 7-3-2-42図は,有前科者について直近前科確定日から本件犯行日までの期間(以下,本項において「再犯期間」という。)を示したものである。高齢殺人事犯者は再犯期間が20年以上の者が7割を占めており,19年受理高齢犯罪者全体と比べて長い傾向が認められた。前科1,2犯の者及び親族殺の者の有前科者の再犯期間はすべて20年以上,また,強盗殺人事犯者のうち前科5犯の者を除いた3人の再犯期間はいずれも25年以上であった。同じ殺人事犯者であっても,再犯期間5年未満の者が,高齢殺人事犯者では1割(2人)であったのに対し,非高齢殺人事犯者の場合は,過半数(15人)を占めていた。高齢殺人事犯者の中に,本件犯行時に執行猶予中であった者や仮釈放中であった者はいなかった。

7-3-2-42図 殺人事犯者の再犯期間別構成比

ウ 生活状況等
 (ア)居住状況等
  A 居住状況
19年受理高齢犯罪者全体では,本件時に住居不定であった者が6.8%,ホームレス生活を送っていた者が12.3%いたのに対し,高齢殺人事犯者に住居不定者はおらず,ホームレスは1人(2.0%)のみであった。高齢殺人事犯者のうち親族殺の者は,全員自宅に居住していた。
  B 同居状況
 7-3-2-43図は,本件時の同居状況を示したものである。親族殺の者は,当然のことながら,親族と同居していた者が多かった。親族以外殺の者は,19年受理高齢犯罪者全体と傾向が類似しており,その過半数が単身であった。親族以外殺の者を更に前科がなかった者及び1回の者(10人)と,それ以上の者(12人)とに分けて見ると,単身の比率が,それぞれ30.0%,75.0%となり,複数の前科を有する者に単身生活者の比率が高い傾向が認められた。親族以外殺の者の60.0%は,親族との音信が途絶えていた。

7-3-2-43図 高齢殺人事犯者の同居者別構成比

  C 婚姻状況
 高齢殺人事犯者の本件時の未婚率は26.0%であり,19年受理高齢犯罪者全体(23.2%)と比較すると,わずかな差であったが,親族殺と親族以外殺とを対比すると,親族殺では14.3%,親族以外殺では40.9%と,顕著な差があった。親族殺の者の78.6%が本件時「配偶者あり」であったのに対し,親族以外殺では「配偶者あり」は27.3%のみで,「離別(死別は除く。)」の方が31.8%と大きな割合を占めていた。親族以外殺の者において,前科数別に「配偶者あり」の比率を見ると,「前科なし」及び1犯の者では50.0%であったのに対し,前科2犯以上の者では8.3%であった。
  D 親族以外の者との交流状況
 本件時に親族以外の者との交流があった者の比率(不詳の者を除く。)を見ると,19年受理高齢犯罪者全体では68.2%であったのに対し,高齢殺人事犯者では90.2%と高かった。親族殺事犯者で親族以外の者との交流が認められなかったのは,男子に1人いたのみであった。
 (イ)経済状況
  A 収入源
 7-3-2-44図は,本件時の収入源を見たものである。

7-3-2-44図 高齢殺人事犯者の収入源

 高齢殺人事犯者と19年受理高齢犯罪者全体とでは,収入源に関する項目ごとの分布について傾向が類似していたが,高齢殺人事犯者を親族殺と親族以外殺に分けて見ると,親族以外殺では生活保護受給者が多いのに対し,親族殺では年金受給者が多かった。
  B 借入金
 高齢殺人事犯者では,「借入金あり」の占める比率が19年受理高齢犯罪者全体と比べて高く,その額も高い傾向にあった。親族殺と親族以外殺の間では,「借入金あり」の占める比率に大きな差はなかったが,1,000万円を超える額の者の占める比率は,それぞれ12.5%,5.9%となっており,親族殺の方が高かった。
 (ウ)生活安定性
  A 就労状況
 親族殺と親族以外殺で比較すると,「就労安定期あり」の占める比率が,前者では100%,後者では54.5%と大きな差があった。親族以外殺について,「前科なし」及び1犯の者と,2犯以上の者とに分けて「就労安定期あり」の占める比率を見ると,前者は80.0%,後者は33.3%であった。
  B 健康状態
 高齢殺人事犯者,親族殺及び親族以外殺のいずれのグループにおいても,「疾患・障害あり」の占める比率が5割強と,19年受理高齢犯罪者全体の場合と同様の比率であった。
  C 問題行動歴
 7-3-2-45図は,高齢殺人事犯者の問題行動歴の有無を見たものである。女子の高齢殺人事犯者には,問題行動歴が認められた者はいなかった。アルコール依存歴のある者は,親族殺の7.1%(男子親族殺の10.5%)に認められたが,親族以外殺の中にはいなかった。逆に,覚せい剤依存歴及び暴力団関係歴のある者は,親族以外殺の一部に認められたが,男子親族殺にはいなかった。

7-3-2-45図 高齢殺人事犯者の問題行動歴の有無

  D 最終学歴
 最終学歴が高卒以上の占める比率が,親族以外殺では13.6%であったのに対し,親族殺では42.9%であり,親族殺の17.9%は大卒以上であった。親族殺を更に男女別で見ると,女子の過半数が高卒,男子の4分の1強が大卒以上であり,親族殺では,19年受理高齢犯罪者全体と比べ,学歴の高い者の比率が高かった。
(4)本件態様等の比較
ア 被害者との関係
 7-3-2-46図のとおり,高齢殺人事犯者の被害者(複数いる場合は被害が最も重篤な者)は,過半数(56.0%)が加害者の親族であった。高齢女子の加害者に関しては,全員が親族殺であり,男子については,親族殺は46.3%であった。強盗殺人に係る被害者は,すべて親族以外であった。親族以外殺及び女子の加害者の場合では,被害者の9割近くが男性であったのに対し,男子による親族殺では,被害者の7割以上が女性であった。また,高齢殺人事犯者全体においては,被害者の4割以上(42.0%)が65歳以上の高齢者であった。
 他方,非高齢殺人事犯者の被害者は,約4分の3(74.0%)が親族以外であり,高齢殺人事犯者の場合と比べて加害者と面識のない者の比率が高かった。加害者を男女別に見ると,男子の17.5%,女子の60.0%が親族殺であった。強盗殺人,殺人幇助事犯の被害者は,いずれも親族以外であった。高齢の被害者は,約1割であった。

7-3-2-46図 殺人事犯者の被害者との関係別構成比

イ 犯行の手段等
 (ア)凶器の種類
 7-3-2-47図は,本件時に使用された凶器の種類を示したものである。非高齢者の親族以外殺では4分の1以上(10人)が銃を使用していた。高齢殺人事犯者に銃使用者はおらず,親族以外殺の9割近くが刃物を使用していたのに対し,親族殺では刃物を使用した者は約4割にとどまった。高齢女子親族殺の刃物使用者は少なく,8割近くが鈍器やひも等を使用していた。

7-3-2-47図 殺人事犯者の凶器の種類別構成比

 (イ)本件時の飲酒の影響
 7-3-2-48図は,本件時の飲酒の影響を見たものである。親族殺で飲酒の影響を受けていた者は1割に満たなかったが,親族以外殺では約4割の者が飲酒の影響を受けていた。親族以外殺のうち,強盗殺人の5ケースはすべて「飲酒なし」であり,これを除くと,過半数の52.9%が飲酒の影響を受けていた。

7-3-2-48図 高齢殺人事犯者の飲酒の影響別構成比

 (ウ)既遂率
 親族殺の方が親族以外殺より既遂率が高く,親族以外殺では45.5%(強盗殺人事犯に限れば60.0%),親族殺では71.4%(男子に限れば78.9%)が既遂であった。なお,既遂の比率については,非高齢殺人事犯者においても,親族以外殺は37.8%,親族殺は76.9%と,同様の傾向が認められた。
 (エ)共犯関係
 非高齢殺人事犯者においては,8人(5件)が共犯事件であり,そのうち7人(4件)が組織的犯行に加わったものであったが,高齢殺人事犯者においては,共犯者がいたのは女子の1人のみであり,組織的犯行はなかった。本件時に暴力団関係のあった高齢殺人事犯者が2人(非高齢者は6人)おり,2人とも,暴力団幹部としてのプライドが本件の動機・原因になっていたが,組織的犯行ではなかった。
ウ 動機・原因等
 (ア)動機・原因
 7-3-2-49図は,本件犯行の動機・原因を示したものである。図[1]を見ると,高齢殺人事犯者において比率が高かったのは,親族以外殺では,順に「激情・憤怒」,「報復・怨恨」,親族殺では,順に「将来を悲観」,「介護疲れ」であった。強盗殺人に係るものでは,動機・原因に「激情・憤怒」,「報復・怨恨」はなく,「債務返済」が4人,「生活困窮」が2人と,経済的動機に偏った特徴があったため,強盗殺人を除いたケースに限定すると,親族以外殺のうち8割以上に「激情・憤怒」,5割以上に「報復・怨恨」が認められた。
 高齢親族殺事犯者について男女別に示した図[3]を見てみると,「激情・憤怒」と「介護疲れ」に大きな差が認められ,前者は男子,後者は女子の方が圧倒的に多かった。
 他方,非高齢殺人事犯者の動機・原因について,図[2]を見ると,親族殺・親族以外殺のいずれにおいても,「激情・憤怒」が最も多く,「報復・怨恨」がそれに続いていた。
 経済的動機では,高齢殺人事犯者に「生活困窮」,「債務返済」が多かったのに対し,非高齢殺人事犯者の場合は「その他利欲」が多かった。「痴情」は,高齢殺人事犯者では低率であったが,非高齢殺人事犯者については,親族殺・親族以外殺のいずれでもやや高い比率が認められた。親族以外殺では組織絡みの犯行動機(「服従迎合」,「職業的犯罪」,「抗争・リンチ」)も目立った。
 なお,各事例の詳細を見たところ,高齢女子による親族殺事犯9件のうち,7人(77.8%)の被害者に疾病が認められ,子殺しの被害者3人は全員何らかの精神疾患を持っていた。高齢男子による子殺し事犯6件では,半数の被害者に精神疾患が認められた。また,非高齢者の親族殺13人について見ると,親や配偶者からの叱責や暴行に対する抵抗が比較的多く,新しいパートナーとの関係において子供が邪魔になったものや,配偶者に対する嫉妬等,高齢親族殺事犯者には見られない動機も複数認められるなど,高齢親族殺の動機・原因とはかなり内容が異なっていた。高齢殺人事犯者は非高齢殺人事犯者と比べ,本件前後に自殺を図った者が多く,高齢親族殺の者では半数近くに自殺企図が認められた。

7-3-2-49図 殺人事犯者の犯行動機・原因

 (イ)犯行の背景
 7-3-2-50図は,犯行の背景にあると考えられる高齢者特有の思考等について見たものである。比率が高かった項目は,親族以外殺では順に「頑固・偏狭な態度」,「自尊心・プライド」,親族殺では順に「経済的不安」,「頑固・偏狭な態度」であった。両者の間で10ポイント以上の差があった項目を挙げると,親族以外殺の方が高かったのが「頑固・偏狭な態度」,「自尊心・プライド」,「疎外感・被差別感」,親族殺の方が高かったのが「経済的不安」,「健康不安」,「問題の抱え込み」であった。さらに,親族殺について男女別に見たところ,「疎外感・被差別感」,「自尊心・プライド」は男子にしか認められず,「問題の抱え込み」は女子の方が比率が高かった。

7-3-2-50図 高齢殺人事犯者の犯行の背景

エ 裁判内容
 7-3-2-51図は,裁判内容を示したものである。高齢殺人事犯者,非高齢殺人事犯者のいずれにおいても,親族殺の方が量刑が軽い傾向にあり,中でも高齢女子に係る親族殺では半数近くが執行猶予付の判決であった。高齢殺人事犯者で無期刑を言い渡された4人のうち3人は強盗殺人の既遂事犯者,残りの1人は前科数が高齢殺人事犯者中最多の暴力団幹部であった。親族殺に関して非高齢殺人事犯者と高齢殺人事犯者とを比較すると,非高齢殺人事犯者の方が量刑が重い傾向が認められた。

7-3-2-51図 殺人事犯者の裁判内容別構成比

(5)まとめ
 高齢殺人事犯者においては,親族殺の比率がやや高く,親族殺の者には前科・前歴のない者が多かった。高齢親族以外殺の者には有前科者が多かったが,その内訳を見ると,若い時期から犯罪行為に及んでいる者が多いものの,以後継続的に犯罪を重ねてきているわけではなく,本件が数十年ぶりの犯罪という者が多かった。総じて,犯罪性の進んでいる者は少なかった。
 高齢親族殺事犯者については,犯罪とは無縁の社会生活を送ってきた者が,高齢になり,減収や多額の負債等による経済的困窮,あるいは自身や家族の体調不良等の問題を複数抱えるようになり,不安や疲労が高じた末,自らにとって負担となっている者を排除して楽になろうとしたケース(事例[1])や,将来を悲観して無理心中を図ったケース(事例[2]),離職して共に過ごす時間の増えた家族との関係がうまくいかず,やり切れない思いを爆発させたケース(事例[3])が複数認められた。また,親族以外の者との交流を有する者がほとんどであったにもかかわらず,「問題の抱え込み」が見られた者が約4割おり,困難なことや不安があっても,人に相談できずに一人で思い悩んでいた様子がうかがえた。親族殺の既遂率は,高齢・非高齢を問わず,親族以外殺と比べて高く,高齢親族殺では本件時に「飲酒なし」であった者がほとんどであり,偶発的犯行より思い悩んだ末の犯行が多いことがうかがわれた。
 一方,高齢親族以外殺事犯者については,非高齢者と比べ,経済的にひっ迫した末の犯行や,以前から交流のあった者とのトラブルに起因する犯行が多かった。また,高齢者ならではのプライドに起因すると推察されるケースも散見された(事例[4])が,健康不安に起因するケースは,疾病り患率が親族殺における比率とほぼ同じであったにもかかわらず,ほとんど見られなかった。高齢親族以外殺の一部には,前科を多数有する者もおり,それらについては,前科の数の少ない者と比べて不安定な生活を送っている者が多かった(事例[5])。
 高齢親族以外殺のうち,強盗殺人事犯者には,「激情・憤怒」が動機となっていた者も本件時飲酒していた者もおらず,計画的犯行が多いように見受けられるのに対し,強盗殺人以外の殺人事犯者では,8割以上の者の動機に「激情・憤怒」が含まれ,本件時飲酒の影響を受けていた者が過半数いるなど,傷害・暴行事犯と共通する特徴も多かった(本節第3項参照)。ただし,高齢親族以外殺の場合は,傷害・暴行と比べると,「面識なし」の被害者の比率が低い一方で,「報復・怨恨」が動機に含まれていた者の比率が高くなっており,このことからすると,傷害・暴行ほどには偶発性・突発性は高くなく,以前から被害者に対して抱いていた不満や怒りを噴出させた犯行が多いものと推察された。