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 平成20年版 犯罪白書 第7編/第4章/第1節/1 

第4章 高齢の受刑者及び保護観察対象者

第1節 高齢受刑者の処遇の実情

1 高齢受刑者の処遇の概要

 高齢受刑者には,加齢による体力の減退,疾病率の高さ,新しい技術・能力を身に付けることの困難さ,帰住先のない者が多いといった問題があり,各刑事施設においては,これらを考慮した処遇上の配慮を行っている。
 例えば,従前から,刑務作業時間を短縮すること,刑務作業の種類として紙細工などの軽作業を課すること,保温のために衣類・寝具の貸与を増やし,また,湯たんぽ,眼鏡等を貸与すること,各種疾病の早期発見に努めるとともに,発見後の医療措置に万全を期すなどの措置が採られてきたところである。さらに,高齢化とともに,基礎体力が低下して歩行,食事等の日常的な動作全般にわたって介助を必要とする者,知的能力・理解力の衰えのために刑務作業や日常生活上の指示・指導に多くの時間と労力を要する者,動作が緩慢なために食事,運動,所内の移動等について,一般の動作時間に合わせた行動が困難な者などが増加するため,それらの高齢受刑者の適性に応じた処遇を工夫する施設が増えている。このような処遇は,一般に「養護的処遇」と呼ばれ,その内容は施設ごとに一様ではないが,高齢受刑者を集めて軽作業中心の作業を行わせる「養護工場」を設けたり,高齢受刑者専用の収容区画を設け,手すりの設置,段差の解消などのいわゆるバリアフリー環境を整備した施設もある。
 新たな試みとして,喜連川社会復帰促進センターでは,高齢受刑者に対し,民間会社作成のドリルを用いて計算,文字のなぞり書き,パズル等を行わせたり,高齢者向けのスポーツプログラムやフラワーアレンジメントを通して自己回復を図るプログラム等を受けさせたりすることなどにより,高齢受刑者の社会適応能力や身体機能を向上させ,改善更生の意欲を喚起し,円滑な社会復帰を促すことを目指している。同センターには,精神又は身体に障害を有する受刑者を収容する特化ユニットが設けられ,特化ユニットの収容棟と工場間を結ぶ通路は段差がなく,バリアフリーになっているほか,障害者専用浴室が備え付けられている。さらに,特化ユニットには,庭園型運動場が設置され,高齢受刑者や身体能力の低下により一般の運動ができない受刑者でも軽い運動やリハビリのための散歩ができるスペースが設けられている。
 平成20年度には,歩行など日常生活に支障がある高齢受刑者の処遇を改善するため,広島刑務所,高松刑務所及び大分刑務所において,手すり,エレベーター等を備えたバリアフリーの専用棟の建設に着手している。
 また,高齢受刑者の中には,釈放後,直ちに病院への入院や福祉の支援を必要とする者もおり,釈放に当たっては,刑事施設において,病院や福祉機関との連携,調整を行っているが,特に調整を要する受刑者を多く収容する一部の刑事施設には,福祉に関する相談援助の専門家である精神保健福祉士や社会福祉士が非常勤職員として配置されている。
 精神保健福祉士及び社会福祉士は,精神上若しくは身体上の障害を有する受刑者の社会復帰に関する相談,助言及び指導を行うほか,これらの受刑者の受入先となる病院や福祉施設の開拓,また,これらの施設への受入調整について,効果的な援助を行うことを目的として配置されているものであるが,高齢受刑者の増加に伴い,これら専門家の活用や関係機関との連携,調整の必要性はますます高まるものと考えられる。