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 平成20年版 犯罪白書 第7編/第2章/第3節 

第3節 裁判

 高齢者の起訴人員の増加を背景に,裁判で有罪判決の言渡しを受ける高齢者の数も大幅に増加している。地方裁判所における年齢層別有罪人員の推移(最近10年間)は,7-2-3-1図のとおりである。

7-2-3-1図 地方裁判所における年齢層別有罪人員の推移

 平成10年以降,地方裁判所における有罪人員の総数は,16年までは増加していたが,17年以降3年連続で減少し,年齢層別では,20〜29歳の層が16年から,30〜49歳の層が17年から,50〜64歳の層が18年からそれぞれ減少に転じているのに対し,高齢者層のみは一貫して増加し続けている。終局時年齢が65歳以上であった高齢者の地方裁判所における有罪人員は,11年には1,593人であったが,19年には3,732人と約2.3倍に増加し,その間の有罪人員の高齢人口比も,7.5から13.6と6.1ポイント上昇しており,その増加・上昇率は,他の年齢層と比べて著しい。また,総有罪人員中の高齢者比も,11年には2.6%であったものが,19年には5.4%と2.8ポイント上昇している(最高裁判所事務総局の資料及び総務省統計局の人口資料による。)。
 主要罪名別の地方裁判所における高齢者の有罪人員を平成11年と19年とで比べると,殺人は75人から80人とそれほど増えていないが,傷害は66人から192人,暴行は0人から26人,窃盗は272人から869人,覚せい剤取締法違反は85人から132人と,いずれも大幅に増加している(最高裁判所事務総局の資料による。)。
 次に,高齢者の科刑状況について見ていくこととする。7-2-3-2図は,全年齢層及び高齢者層別に,地方裁判所において死刑,無期懲役・禁錮刑又は有期懲役・禁錮刑のうち実刑の判決を言い渡された者の科刑状況の推移(最近10年間)を科刑内容別構成比により表したものである。

7-2-3-2図 地方裁判所における科刑状況の推移

 平成10年から19年までの間,全年齢層の科刑内容別構成比は,10年を超える刑を言い渡された者の比率がやや上昇しているものの,それほど大きな変化は見られない。これに対し,高齢者層では,2年未満の比較的短期の刑を言い渡された者の比率がやや上昇し,2年以上5年以下の刑を言い渡された者の比率がやや低下している。
 以下,罪名別に科刑状況を見ていくこととする。
 7-2-3-3図は,全年齢層及び高齢者層別に,地方裁判所において窃盗により実刑の判決を言い渡された者の科刑状況の推移(最近10年間)を見たものである。
 窃盗については,全年齢層の科刑状況と比べ,高齢者層では,2年未満の比較的短い刑期を言い渡された者の比率が低く,2年以上の比較的長い刑期を言い渡された者の比率が高い傾向が見られる。事案軽微な者は起訴までの段階で刑事手続から外されることが多く,懲役刑の対象となるのは相応に悪質な者であるところ,高齢になるほど,再犯を繰り返すなどの悪質な者の占める割合が高くなるためであろうと思われる。ただ,最近10年間の推移を見ると,高齢者層において,次第に比較的短い刑期の者の比率が上昇する一方,比較的長い刑期の者の比率が低下し,平成19年には,全年齢層と比べてそれほど著しい差異はない科刑状況となっている。

7-2-3-3図 地方裁判所における窃盗の科刑状況の推移

 7-2-3-4〜6図は,殺人,傷害及び覚せい剤取締法違反について,全年齢層及び高齢者層別に,最近10年間に地方裁判所において実刑の判決を言い渡された者の科刑状況を見たものである。

7-2-3-4図 地方裁判所における殺人の科刑状況

 殺人については,全年齢層の科刑状況と比べ,高齢者層では,10年以下の刑期を言い渡された者の比率が高く,これを超える長期の刑を言い渡された者の比率が低い傾向が見られる。

7-2-3-5図 地方裁判所における傷害の科刑状況

 傷害については,全年齢層と高齢者層とを比べて,科刑状況に顕著な差は見られない。

7-2-3-6図 地方裁判所における覚せい剤取締法違反の科刑状況

 覚せい剤取締法違反については,全年齢層の科刑状況と比べ,高齢者層では,2年未満の比較的短い刑期を言い渡された者の比率が低く,2年以上の比較的長い刑期を言い渡された者の比率が高い傾向が顕著に見られる。常習性が高い犯罪であり,高齢になるほど,再犯を繰り返すなどの悪質な者の占める割合が高くなるためであろうと思われる。
 次に,高齢者の罪名別執行猶予率を見ることとする。平成19年の地方裁判所における罪名別・年齢層別有期刑(懲役・禁錮)言渡人員及び執行猶予率は,7-2-3-7表のとおりである。

7-2-3-7表 地方裁判所における罪名別・年齢層別有期刑(懲役・禁錮)言渡人員・執行猶予率

 平成19年の地方裁判所における終局時年齢が20歳以上の者の全体の執行猶予率は59.0%であり,高齢者の執行猶予率(57.8%)は,これとほぼ変わらず,20〜29歳の層の執行猶予率(69.1%)よりも11.3ポイント低い。
 高齢犯罪者については,自助努力だけでは改善更生が困難で,保護観察による指導・援助が必要となる場面も多いのではないかと考えられるところであるが,執行猶予に保護観察を付した比率についても,高齢者層では,20〜29歳の層と比べて低く,平成19年で比較すると,20〜29歳の層では10.5%(執行猶予人員1万2,259人中1,282人)であったのに対し,高齢者では6.6%(同2,107人中140人)にすぎなかった(最高裁判所事務総局の資料による。)。
 罪名別に見ると,高齢者については,殺人や強盗の執行猶予率が,他の年齢層と比較すると際立って高い。傷害や器物損壊についても,高齢者の執行猶予率が他の年齢層と比べて高い傾向がある。ただ,同じ粗暴犯であっても,比較的軽微な犯罪である暴行や脅迫については,他の年齢層と比べて高齢者の執行猶予率が高いとはいえない。
 これに対し,窃盗,詐欺,横領といった財産犯では,年齢層が上がるに従って執行猶予率が低くなる傾向が顕著に見られる。窃盗については,年齢層が上がるほど,盗犯等の防止及び処分に関する法律による加重類型(常習累犯窃盗及び常習特殊窃盗)の占める割合が高くなる傾向が顕著であり,平成19年においては,20〜29歳の層では1.5%(窃盗による有期懲役人員3,366人中52人),30〜49歳の層では13.1%(同5,137人中672人),50〜64歳の層では23.5%(同2,794人中657人),高齢者層では31.5% (同857人中270人)を同類型が占めている。同年に窃盗で懲役刑の言渡しを受けた高齢者のうち,常習累犯窃盗は267人(31.2%)で,いずれも実刑である(最高裁判所事務総局の資料による。)。
 また,覚せい剤取締法違反についても,年齢層が上がるに従って執行猶予率が低くなる傾向が顕著である。性犯罪や放火については,年齢層の別による特徴はそれほど見られない。