3 受刑者処遇における新たな処遇制度
(1)受刑者処遇の新たな展開
刑事収容施設法は,受刑者の改善更生及び円滑な社会復帰を図ることを受刑者処遇の基本理念とした上,処遇の個別化の原則を採ることを明らかにした。この原則の下,個々の受刑者の資質及び環境に応じ,その者にとって最も適切な処遇が行われる。また,受刑者処遇の中核として,「作業」,「改善指導」及び「教科指導」から成る矯正処遇という概念を新たに導入した。刑事収容施設法は,作業,改善指導及び教科指導の矯正処遇について,刑執行開始時及び釈放前の指導とともに,受刑者がこれを受けることを義務付けており,矯正処遇は,法制度上も明確に位置付けられた。
(2)新たな処遇制度
処遇の個別化の原則に基づき,受刑者ごとに作成される処遇要領(本章第2節1参照)に従い,矯正処遇が実施されるとともに,受刑者の改善更生のための処遇プログラムについても,新たな制度が導入されるなど,受刑者処遇の一層の充実強化が図られた。
ア 特別改善指導
改善指導として,一般改善指導と特別改善指導が新たに設けられた(本章第2節3参照)。
特別改善指導では,[1]「薬物依存離脱指導」(薬物使用に係る自分の問題を理解させた上で,再使用に至らないための具体的な方法を考えさせる等),[2]「暴力団離脱指導」(警察機関との連携の下,暴力団の反社会性を認識させる指導等を行い,離脱意志の醸成を図る等),[3]「性犯罪再犯防止指導」(性犯罪につながる自己の問題性を認識させ,再犯しないための具体的な方法を習得させる等,第7編第5章第2節3参照),[4]「被害者の視点を取り入れた教育」(罪の大きさや被害者等の心情等を認識させるなどし,被害者等に誠意を持って対応するための方法を考えさせる等),[5]「交通安全指導」(運転者の責任と義務を自覚させ,罪の重さを認識させる等)及び[6]「就労支援指導」(就労生活に必要な基本的スキルとマナーの習得等を図り,出所後の就労に向けての取組を具体化させる等)の6類型が実施されている。
なお,平成19年度において,全国の刑事施設のうち,特別改善指導を実施している施設は,[1]「薬物依存離脱指導」72施設,[2]「暴力団離脱指導」35施設,[3]「性犯罪再犯防止指導」20施設,[4]「被害者の視点を取り入れた教育」73施設,[5]「交通安全指導」46施設及び[6]「就労支援指導」42施設である(法務省矯正局の資料による。)。
イ 外部通勤作業
外部通勤作業は,開放的施設において処遇を受けているなど,一定の要件を備えた懲役受刑者又は禁錮受刑者について円滑な社会復帰を図るために行われる(本章第2節2参照)。
これにより,刑事施設内の作業に就くだけでは取得できない技能を取得したり,一般社会の中で正しい人間関係を築く方法を学ぶなどの効果が期待される。
ウ 外出・外泊
外出・外泊は,開放的施設において処遇を受けているなど一定の要件を備えた受刑者が,一定の用務等を行う必要がある場合に,刑事施設の職員の同行なしに,一時的に刑事施設の外に出ることを許可する制度である。外出は日帰り,外泊は7日以内とされている。一定の用務には,釈放後の住居又は就業先の確保,家族関係の維持・調整のために外部の者と時間をかけて話合いをする必要がある場合,保護司その他の更生保護に関係のある者を訪問する必要がある場合等がある。
これにより,釈放後の生活に円滑に移行するための準備を行う機会が与えられることとなり,受刑者の社会復帰に資することが期待される。
エ 制限の緩和と優遇措置
監獄法の下で行われていた累進処遇制度が廃止され,代わりに,制限の緩和と優遇措置の制度が導入された。
制限の緩和とは,受刑者に自発性や自律性を身に付けさせるため,受刑者の生活や行動に対する制限を受刑成績に応じて少しずつ緩やかなものにしていく制度である。平成19年4月10日現在,全国の刑事施設において,開放的な処遇が可能な制限区分第一種の人員は595人であった(法務省矯正局の資料による。)。
優遇措置とは,改善更生に向けた更なる努力を促すため,比較的短期間の受刑態度に応じて,外部交通の回数を増加させたり,自弁使用できる物品の範囲を広げるなどの措置を講じ,まじめに受刑生活を送っている受刑者により良い待遇を与える制度である。
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