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 平成16年版 犯罪白書 第5編/第3章/第2節/2 

2 高齢受刑者

 社会全体の高齢化に伴って,受刑者の高齢化も進行している。以下では,高齢受刑者の特質及び処遇方策について見ることとする。なお,一般的には,65歳以上の者を「高齢者」とすることが多いが,過去の統計資料には65歳という年齢区分が存在しないものが少なくない。そこで,ここでは60歳以上の者を「高齢者」とした上,統計資料を入手し得た範囲内で,65歳以上の年齢層に関する数値をも併記することとする。

(1) 高齢受刑者の収容動向

 5-3-2-12図は,昭和48年以降における高齢新受刑者数の推移を見たものである(本節1の5-3-2-2図も参照。)。60歳以上の新受刑者は,昭和48年には341人(1.3%)であったのに対し,平成15年には2,929人(9.3%。なお,65歳以上の者は1,351人,4.3%。)と大幅に増加している。
 また,5-3-2-13図は,年末在所受刑者の年齢層別構成比の推移を見たものである。60歳以上の年末在所受刑者は,昭和48年には613人(1.6%)であったのに対し,平成15年には6,683人(11.0%)となっており,高齢化が大きく進行していることが分かる。

5-3-2-12図 高齢新受刑者数の推移

5-3-2-13図 年末在所受刑者の年齢層別構成比の推移

 5-3-2-14図は,入手し得た最新の統計数値に基づき,日本,フランス,ドイツ,英国及び米国の5か国における受刑者の年齢層別構成比を比較したものである。フランス,ドイツ及び英国においては,60歳以上の者が2.6〜3.6%,米国においては55歳以上の者が3.1%であるのに対し,我が国では60歳以上の者が11.0%を占めており,受刑者の高齢化が進行しているだけでなく,その程度が5か国の中でも最も高いことが分かる。
 また,5-3-2-15表は,前記5か国の一般人口に占める高齢者(60歳以上)の比率を見たものである。2000年における我が国の高齢者比率は,ドイツとほぼ同じであり,フランス及び英国と比較してもさほど大きな開きはない。それにもかかわらず,我が国に高齢受刑者が著しく多い理由としては,1970年時点で既に相当程度に高齢化が進行していた他の4か国と比較して,当時の我が国の年齢構成は最も若く,その後,30年の間に急速に社会の高齢化が進行したことが関係しているとも考えられる。

5-3-2-14図 5か国における成人受刑者の年齢層別構成比

5-3-2-15表 5か国における高齢者(60歳以上)人口の比率

(2) 高齢受刑者の特質

ア 罪名及び最高齢

 5-3-2-16図は,新受刑者の罪名別構成比の推移を,60歳以上と59歳以下に分けて示したものである。
 高齢新受刑者は,若い層と比べて覚せい剤取締法違反が少なく,窃盗及び詐欺が非常に多い。また,平成15年における新受刑者について,主要罪名別に最高齢を見ると,窃盗89歳,詐欺83歳,覚せい剤取締法違反79歳,道路交通法違反79歳,殺人85歳,強盗78歳,傷害83歳,横領・背任78歳,住居侵入84歳,放火85歳となっている(法務省大臣官房司法法制部の資料による。)。

5-3-2-16図 新受刑者の罪名別構成比の推移(年齢層別)

 5-3-2-17表は,平成15年における新受刑者について,年齢層及び初入・再入別に,人数の多い罪名を上位5位まで示したものである。
 高齢の再入者では,窃盗と詐欺の比率が高く,両罪名の比率を合計すると,60歳以上では60.6%,65歳以上では63.3%と,6割以上を窃盗と詐欺が占めている。また,高齢の初入者では,道路交通法違反が1割を超えていること,覚せい剤取締法違反が5位以内に入っていないこと,殺人が上位に入っていることなどが特徴的である。高齢受刑者と一口にいっても,若いころから服役を繰り返しながら老境に入った者,高齢になって初めて服役することとなった悪質運転者,初犯者でありながら重大な犯罪を行ったために服役に至った者など種々のパターンがあることがうかがわれる。

5-3-2-17表 新受刑者の主要罪名(年齢層及び初入・再入別)

イ 入所度数

 5-3-2-18図は,新受刑者の入所度数別構成比の推移を,60歳以上と59歳以下に分けて示したものである。多数回にわたる入所歴を有する者の年齢がある程度高くなるのは当然ともいえるが,その点を考慮しても,高齢新受刑者は,若い層と比べて再入者の比率が高く,特に「6度〜9度」及び「10度以上」という多重累犯者の比率が非常に高い。

5-3-2-18図 新受刑者の入所度数別構成比の推移(年齢層別)

ウ 刑期

 5-3-2-19図は,平成15年における懲役新受刑者について,年齢層別に刑期の分布を見たものである。高齢受刑者で,刑期1年以下の者の比率がわずかに高いことを除けば,多重累犯者の比率に差があるにもかかわらず,刑期の分布については年齢による大きな違いは見られない。

5-3-2-19図 懲役新受刑者の年齢層別刑期分布

(3) 高齢受刑者の処遇

 高齢受刑者には,年齢に応じて心身に衰えが現れてくるほか,両親が他界していて帰住先がない,将来の人生設計を描くことが難しいなど,家族や社会に対する関係において若い世代とは異なる特徴があり,各行刑施設においては,これらを考慮した処遇上の配慮を行っている。

ア 高齢受刑者の分類と収容

 現在の分類処遇制度では,年齢が高いということのみを理由とする特別の分類級は設けられておらず,加齢に伴う身体機能の衰退,疾病等がある場合に収容分類級P級(身体上の疾患又は障害のある者)と判定される可能性があるにとどまる。平成15年の出所受刑者2万8,170人について,出所時の収容分類級を見ると,P級の比率は,出所時59歳以下の層では0.9%,60歳以上では3.5%,65歳以上では5.2%と,年齢が高くなるに従って高くなっている(法務省大臣官房司法法制部の資料による。)。
 P級受刑者は,医療刑務所又は医療重点施設に収容されるが,それ以外の者は,それぞれの収容分類級に応じた行刑施設に収容され,処遇分類級に応じた処遇を受ける。処遇分類級の中にもT級(専門的治療処遇を必要とする者),S級(特別な養護的処遇を必要とする者)といった分類があり,平成15年の出所受刑者2万8,170人について出所時の処遇分類級を見ると,出所時59歳以下の層では,T級が1.0%,S級が1.3%であるのに対し,60歳以上ではT級2.6%,S級6.5%,65歳以上では,T級3.3%,S級11.0%となっている(法務省大臣官房司法法制部の資料による。)。

イ 高齢受刑者に対する処遇上の配慮

 以上のとおり,年齢が高くなるにつれ,P級,T級,S級等の判定を受ける受刑者が増えていくが,このような分類判定を受けていない高齢者についても,健康の維持・管理には特に注意が払われており,また,心身の衰えや社会関係の特殊性に応じた様々な配慮がなされている。
 この点については,従前から,例えば,[1]刑務作業時間を短縮する,[2]刑務作業の種類として紙細工などの軽作業を課する,[3]保温のために衣類・寝具の貸与を増やし,また,湯たんぽ,眼鏡等を貸与する,[4]各種疾病の早期発見に努めるとともに,発見後の医療措置の万全を期するなどの措置が行われている。
 さらに,高齢化とともに,[1]基礎体力が低下して歩行,食事等の日常的な動作全般にわたって介助を必要とする者,[2]知的能力・理解力の衰えのために刑務作業や日常生活上の指示・指導に多大の時間と労力を要する者,[3]動作が緩慢なために食事,運動,所内の移動等について,一般の動作時間に合わせた行動が困難な者などが増加するため,高齢受刑者のグループを作り,その適性に応じた処遇を工夫する施設が増えている。このような処遇は,一般に「養護的処遇」と呼ばれ,その内容は施設ごとに一様ではないが,高齢受刑者を集めて軽作業中心の作業を行わせる「養護工場」を設けたり,高齢受刑者専用の収容区画を設け,手すりの設置,段差の解消などのいわゆるバリアフリー環境を整備するほか,高齢受刑者を対象に,健康管理,運動,年金,介護,生活保護等の話題などを採り上げる処遇類型別指導を導入している施設もある。処遇類型別指導については,本章第3節4(2)で改めて採り上げる。

(4) 高齢受刑者の出所状況

 5-3-2-20図は,平成8年以降における出所受刑者について,年齢層別の仮出獄率の推移を見たものである。
 年齢層が高くなるほど仮出獄率が低くなり,出所時70歳以上の受刑者は,約7割が満期まで服役してから出所している。その要因としては,高齢受刑者の中には,服役の回数が多い者や,釈放後の帰住先や就職先の確保に困難があるなど,社会復帰の条件の整わない者が少なくないこと等が考えられる。各行刑施設では,入所後早い時期から,更生保護施設を含めた引受人の設定について指導を行うとともに,保護観察所においても環境調整に努めているが,特に,高齢の多重累犯者については,出所後の環境を整えるのが難しいのが実情である。

5-3-2-20図 年齢層別仮出獄率の推移

(5) 小括

 各行刑施設では,高齢受刑者の心身の状況に配慮した処遇を行っている。それは,受刑者の特性に応じた処遇の考え方に沿うものであり,必要かつ適切なことである。
 他方,高齢受刑者にも様々な者があり,中には,社会復帰の環境が整わないまま服役・出所を繰り返す者もいる。犯罪を繰り返す高齢者に対する抜本的な方策を見いだすことは容易ではないが,刑務所が老人ホームに類似した役割を担わざるを得なくなるような事態は回避しなければならず,これらの者に対する施策は,社会の高齢化の進展とともに,今後ますます重要となるであろう。