前の項目   次の項目        目次   図表目次   年版選択
 平成16年版 犯罪白書 第5編/第3章/第1節/5 

5 収容動向のシミュレーション

 法務総合研究所では,将来における既決の収容動向についてシミュレーションを行った。具体的には,「新受刑者の刑期の分布」,「受刑者の仮出獄率」及び「仮出獄者の刑の執行率」が現状のまま変化しないと仮定した上で,[1]新受刑者数が平成15年と同じ水準のまま維持された場合,[2]今後,新受刑者数が年間1,000人ずつ増加した場合,[3]今後,新受刑者数が年間2,000人ずつ増加した場合のそれぞれについて,平成16年から19年までの既決の年末収容人員がどのように推移するかを試算したものである(計算方法の詳細については,コラム参照。)。
 5-3-1-15図は以上の結果を図示したものである。平成19年における既決の年末収容人員は,[1]今後,新受刑者数が増加しない場合には6万6,306人,[2]毎年1,000人ずつ増加した場合には7万1,845人,[3]毎年2,000人ずつ増加した場合には7万7,383人になると計算された。

5-3-1-15図 収容動向のシミュレーション(既決の年末収容人員)

 前記[1]のとおり,新受刑者数及びその刑期分布が変化しない場合であっても,当面,年末収容人員が増加するとの計算結果が得られたが,このうち,新受刑者数については,平成5年以降増加傾向にあり,特に最近5年間では毎年おおむね1,000人ないし3,000人の増加を示している上(5-3-2-1図巻末資料2-6参照),将来の新受刑者数に影響すると考えられる一般刑法犯検挙人員(1-1-1-1図巻末資料1-1参照),公判請求人員(2-2-4-1図5-3-1-7図巻末資料2-2参照)等も増加を続けており,これらを考慮ると,今後も新受刑者数が増加を続けることを想定しておく必要がある。
 また,このシミュレーションでは,前提として,新受刑者の刑期分布が変化しないと仮定しているが,新受刑者の刑期は,近年長期化する傾向にあり(5-3-2-6図本節4参照),この傾向を加味すると,収容人員は,上記の計算結果よりも更に増加することとなる。なお,行刑施設全体の収容動向を検討するに当たっては,以上において取り上げた既決のほか,未決の収容動向も考慮に入れる必要がある。近年における未決拘禁者の1日平均収容人員を見ると,平成13年が1万1,323人,14年が1万1,694人,15年が1万2,052人と年々増加している上(巻末資料2-5参照),未決拘禁者の人員に影響する勾留請求人員も12万1,696人,12万9,345人,13万8,900人と増加を続けている(検察統計年報による。)。
収容動向の計算方法
1.基本的考え方
 収容動向の計算は,(1)既存受刑者の出所状況(現在収容されている受刑者が,今後どの程度の期間服役して出所し,減少していくか),(2)今後の新受刑者数(今後どの程度の数の新受刑者が入所してくるか),(3)今後の新受刑者の出所状況(今後入所してくる新受刑者が,どの程度の期間服役して出所し,減少していくか),という3項目に分けて行った。その際,各項目については,以下のような考え方又は想定によっている。
2.既存受刑者の出所状況
(1)既存受刑者の出所状況を求めるには,基準時点における受刑者数([1])が,各年ごとに何人ずつ減少していくのか([2])の計算をする必要がある。
 受刑者は,それぞれ刑期の長さが異なる上,満期出所する者と仮出獄する者とがあり,かつ,仮出獄が認められた場合の刑の執行率が刑期の長短によって異なることから,前記[2]の計算をするには,基準時点における受刑者の刑期分布([3])を把握した上,これに刑期区分ごとの執行率([4])を加味して行う必要がある(その際,満期出所者は,執行率が100%であるものとして計算を行った。)。
(2)今回のシミュレーションにおいては,平成15年年末を基準時点として採用し,同年末現在における既決の収容人員を[1]の基準値として用いた。
(3)また,基準時点における受刑者の刑期の分布[3]については,法務省矯正局の資料により,平成16年5月10日現在における在所受刑者全員の執行刑期を調査した上,その分布が15年年末現在とほぼ等しいものと考えて,これを用いた。
 ここで「執行刑期」とは,裁判所によって宣告された言渡し刑期から未決勾留等の通算日数を控除したものをいう。受刑者が実際に服役するのは言渡し刑期ではなく執行刑期であるから,計算に当たっては執行刑期を用いるべきであるが,矯正統計に計上されている年末収容人員の刑期は言渡し刑期であることから,今回のシミュレーションにおいては,前記のとおり,基準時点に比較的近い平成16年5月10日時点において全数調査を実施して,執行刑期の分布を把握したものである。
(4)受刑者の刑期区分ごとの執行率[4]については,法務省大臣官房司法法制部の資料により,最近3年間(平成13年から15年まで)における全出所受刑者についての実際の分布を把握し,これを用いた。
3.今後の新受刑者数
 今後の新受刑者数については,「平成15年の水準が維持される」,「年間1,000人ずつ増加する」,「年間2,000人ずつ増加する」という三つの場合を想定し,その数値を使用した。
4.今後の新受刑者の出所状況
(1)今後の新受刑者の出所状況を求めるには,その執行刑期の分布([5])を把握した上,刑期区分ごとの執行率([6])に従って,その人員が各年ごとに何人出所していくのかを計算する必要がある。
(2)ここで問題となるのは,新受刑者の執行刑期の分布をどのようにして把握するかである(矯正統計に計上されている新受刑者の刑期は,執行刑期ではなく言渡し刑期であるから,これを用いるべきではない。)。
 この点については,統計的手法によって,「近年における新受刑者の執行刑期の分布」を推定するという方法を採った。すなわち,ある一定時点における既存受刑者の執行刑期の分布は,新受刑者の執行刑期の分布が経年的に積み重なることによって生じるものであるから,そのことに着目し,前記2(3)において把握した平成16年5月10日現在における全受刑者の執行刑期の分布をもとに,「近年における新受刑者の執行刑期の分布」を逆算して推定した(なお,その際,最近5年間(11年から15年)における年末収容人員の数値に対し,最小二乗法を用いた最適化を行っている。)。その上で,当該分布は,今後数年間変化しないものと仮定し,これを16年から19年における新受刑者の執行刑期の分布[5]として用いた。
(3)刑期区分ごとの執行率[6]については,新受刑者の執行刑期の分布と同じく,今後数年間変化しないものと仮定し,前記2(4)で調査した実際の分布を用いた。
5.年末収容人員の算出
 前記の方法により,既存受刑者及び新受刑者のそれぞれについて,各年末における人員を求め,これらを合算して,各年末における既決の収容人員の値とした。
 なお,既決の年末収容人員には,少数の労役場留置者が含まれているが,計算を単純化するために,すべて受刑者であるとみなして計算を行った。