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 平成15年版 犯罪白書 第5編/第6章/第2節/2 

2 少年院における処遇

(1) 概況

 5―6―2―5図は,殺人・強盗の処遇区分別少年院新収容者の推移を見たものである。殺人については新収容者数が少ないとはいえ,長期処遇対象者は平成7年以降おおむね増加傾向にある。強盗については8年から長期処遇対象者が増加傾向にあり,7年の3.6倍に増加している。長期処遇を要する複雑又は深刻な問題性を抱えた少年が多くなっていることがうかがわれる。

(2) 保護処分歴者

 強盗による少年院新収容者中,保護処分歴がある者の比率を見たのが,5―6―2―6図である。保護観察歴あり,少年院歴ありとする者の比率は,増減を繰り返しながら,全体としては低下傾向にあり,保護処分歴のない少年がいきなり強盗を行い最初から少年院に収容される事案が増加していることがうかがわれる。

5―6―2―5図 殺人・強盗処遇区分別少年院新収容者の推移

5―6―2―6図 強盗による少年院新収容者中保護処分歴を有する者の比率の推移

(3) 少年院における処遇の動向

 少年院の運営については,昭和52年6月から,現行法制の下で,個々の少年の特質や問題を考慮し,その教育上の必要性に対応する処遇課程等(処遇課程等については第4編第2章第4節1を参照)を設け,処遇の個別化の推進が図られてきている。その一環として,平成9年9月には,[1]処遇期間を少年の個別的必要度に応じてより一層弾力化させる運用の見直しが図られたほか,[2]「非行の重大性等により少年の持つ問題性が極めて複雑・深刻であるため,その矯正と社会復帰を図る上で特別の処遇を必要とする少年」を対象とした処遇課程の細分(G3)が新設されている。さらに,近時における被害者保護ないしは被害者支援に対する社会的要請の高まりや,平成12年に成立した改正少年法の趣旨をも踏まえ,被害者の視点を取り入れた矯正教育の充実化,保護者に対する働き掛けの積極化が図られてきている。以下,少年院における被害者の視点を取り入れた教育を取り上げ,次いでG3対象者に対する処遇の概況に触れることとする。

ア 少年院における被害者の視点を取り入れた教育の実施

 被害者の視点を取り入れた教育の実施としては,例えば,しょく罪意識にかかる指導が挙げられる。被害者の立場やその感情への想像力や共感を欠いたまま,事犯に至った少年に対して,個別面接や内観指導,被害者との関係を想定したロールレタリング(役割交換書簡法),被害者の手記等を教材とした集団討議など様々な技法を用い,個別指導と集団指導とを適宜組み合わせ,その内省を促し,しょく罪意識のかん養を図る指導を実施しているところである(本章第4節1を参照)。例えば,ロールレタリングについては,全国の少年院のうち52施設で,集団討議は49施設で,内観指導は33施設で,それぞれ実施されている(法務省矯正局の資料による。)。
 ところで,被害者の視点を取り入れた教育を実施するとき,被害者を死に至らしめるような重大事犯にかかわった少年の場合は,こうした現実に直面すること自体が,少年にとって大きな困難を伴う場合がある。そのため,少年の精神状態等を見極めながら徐々に指導を深めていくというような,長期的な視野に立った注意深いアプローチが求められる場合が少なくない。加えて,心からのしょく罪意識を喚起するには,少年の内に,自他を含めて,生きていることへの肯定的な感情をはぐくみ,生命の尊厳を実感させるような働き掛けを行うことが必要である。こうした心の在り様の根源にかかわる働き掛けにおいては,一定の処遇方法等に従うことで早急に効果を上げるといったことは望み難いが,それぞれの少年の特性や教育上の必要性,施設の環境条件等に応じて,様々な取組がなされている。

イ G3対象者に対する処遇の概況

 G3対象者に対する処遇は,一人一人の少年の改善更生と社会復帰を図るため,最も効果的な処遇を重点とした処遇を行うことが処遇方針の一つに掲げられている。処遇期間は原則として2年を超えて設定するとされており,処遇の個別化と処遇期間の弾力化の徹底が図られている。処遇内容では,[1]生命の尊さを認識させ,豊かな人間性を育てるための処遇内容を積極的に盛り込む,[2]非行の重大性を自ら深く認識させ,被害者及びその家族等に対する謝罪の気持ちを育てるために,生活指導の一環としてのしょく罪指導を積極的に行う,[3]心理療法等の有効な処遇技法を活用するとともに,継続的に面接,相談,助言を行い,少年の持つ問題性の解決や共感性,責任感,思いやりの気持ちの育成に努める,などとして,生命尊重及びしょく罪指導並びに資質上の問題に対する治療的指導に重点を置いている。また,保護環境についても,[4]保護機関との綿密な連携に努め,帰住先の社会感情等も十分に考慮した保護関係調整指導を積極的に行い,円滑な社会復帰を図る,など重点的な指導の実施を定めている。
 少年院のうち,生活訓練課程を設けている施設の一部が,G3対象者に対応した処遇課程の細分を設けている。少年院新収容者のうち,G3対象者の人員は,平成9年は10月6日以降で1人,10年7人,11年3人,12年8人,13年3人と,10人未満で推移してきたが,14年は,16人(男子13人,女子3人)と,これまでの最多となった(矯正統計年報による。)。