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 平成15年版 犯罪白書 第5編/第2章/第1節 

第2章 最近における凶悪犯罪の概況

第1節 凶悪犯罪の認知件数・検挙件数・検挙人員の動向

 犯罪白書における凶悪犯罪は,殺人と強盗に二分され,強盗には,刑法で言う強盗(事後強盗を含む。)のほか,強盗致傷,強盗致死(強盗殺人を含む。),強盗強姦(強盗強姦致死を含む。)の各類型が含まれる。殺人と強盗(総数),強盗致傷,強盗致死,強盗強姦のそれぞれについて,認知件数,検挙件数,検挙人員,検挙率の昭和21年から平成14年に至る57年間にわたる推移を見たものが,5―2―1―1図である。
 殺人の認知件数は,昭和21年から29年まで増加した後徐々に減少してきたが,平成3年ころから横ばいないし微増傾向にある。検挙件数,検挙人員も同様の動向を示しており,検挙件数と検挙人員との間にそれほどの乖離はないことから,単独犯が多い傾向があることがうかがえる(第3章第2節2(2)参照)。検挙率は,終戦後の混乱期を除けば,ほとんど94%以上を維持しており,極めて高い水準にある。
 強盗(総数)の認知件数は,終戦直後の混乱期には1万件前後にも上ったが,その後徐々に減少を続け,昭和50年代から60年代にかけては横ばいないし微減傾向にあったものの,平成2年から増加傾向に転じ,8年以降は顕著な増加傾向を示すに至り,14年には,7年の認知件数の約3倍に達している。検挙件数と検挙人員もほぼ同様の動向を示しているが,11年ころからは認知件数と検挙件数,検挙人員との間の差が広がっている。急激な認知件数の増加に検挙が追いつけない事態が生じていることがうかがわれる。また,殺人に比して,検挙人員が検挙件数より相当数上回る傾向があり,このことは強盗に共犯事件が相当数含まれていることを示唆している(第3章第2節2(2)参照)。検挙率は,平成10年ころまで80%前後の高い水準にあったが,その後の認知件数の激増により,13年には50%を割る事態に至ったものの,14年は50%を超え,上昇の兆しが現れている。
 強盗致死(強盗殺人を含む。)は,法定刑も死刑又は無期懲役と極めて重い犯罪であるが,認知件数を見ると,終戦後の混乱期から急激に減少し,昭和40年代後半からはほぼ横ばいの状態にあったものの,平成8年から増加し始めている。検挙件数と検挙人員の動向もほぼ同様の傾向を示しているが,近年特に検挙人員が検挙件数を上回る傾向が現れてきており,共犯事件が多くなりつつあることがうかがわれる。検挙率は強盗致死の認知件数自体が非常に少ないため年によって変動があるが,80%前後以上とかなり高い水準を維持している。
 強盗致傷は,法定刑が無期懲役又は懲役7年以上の有期懲役と相当に重い犯罪であるが,認知件数は,昭和30年をピークとして徐々に減少し,50年代からはほぼ横ばいとなったものの,平成3年から増加に転じ,8年からは顕著な増加傾向を示すに至り,14年には,7年の認知件数の約3.2倍に達している。検挙件数と検挙人員の動向も認知件数の動向にほぼ連動しているが,検挙人員が検挙件数を大きく上回っている傾向があるのは強盗(総数)の動きと同様であり,強盗致傷には共犯事件が相当に多いことを物語っている。検挙率は,強盗(総数)とほぼ同じ動向を示している。
 強盗強姦は,強盗がその機会に強姦行為も行うという極めて卑劣で悪質な犯罪だけに強盗致死傷と同じ重い法定刑が定められている犯罪であり,終戦後から減少傾向が続いてきたが,平成8年から増加傾向に転じて,14年には7年の認知件数の2.4倍に達している。検挙件数と検挙人員も同様の動向を示しているが,昭和47年以降はほとんどの年で検挙件数が検挙人員を上回るという他の強盗類型にない傾向が顕著に現れている。これは,複数の強盗強姦事件を行う常習的犯罪者が少なからず含まれていることによるものと思われる。検挙率は,常習的犯罪者を検挙することにより大きく結果が変わることが予想されるため,変動も大きいが,ほぼ60〜80%前後の高い水準を維持してきている。

5―2―1―1図 殺人・強盗の認知件数・検挙件数・検挙人員・検挙率の推移