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 平成12年版 犯罪白書 第3編/第2章/第1節 

第2章 非行少年の処遇

第1節 処遇の概要

 III-21図は,非行少年に対する処遇の流れを示したものである。

III-21図 非行少年処遇の流れ

 警察等は,犯罪少年(交通反則金納付事件に係るものを除く。)を検挙した場合,罰金以下の刑に当たる犯罪については,事件を直接家庭裁判所に送致し,それ以外の犯罪については,検察官に送致する(犯罪少年,触法少年及び虞犯少年の概念については,本編第1章参照。)。犯罪少年の事件送致を受けた検察官は,捜査を遂げた上,犯罪の嫌疑があると認めるとき,又は犯罪の嫌疑がない場合でも虞犯等で家庭裁判所の審判に付すべき事由があると認めるときは,処遇意見を付けて,事件を家庭裁判所に送致する。
 なお,検察官は,やむを得ない場合でなければ勾留を請求することはできないものとされており,裁判官は,少年を勾留する場合には,少年鑑別所に拘禁することができるとされている。また,検察官は,裁判官に対して,勾留の請求に代えて観護の措置を請求することができ,裁判官が発する令状によって,少年は少年鑑別所に収容される。
 触法少年及び14歳未満の虞犯少年については,児童福祉法上の措置が優先される。保護者のない児童又は保護者に監護させることが不適当であると認める児童を発見した者は,これを都道府県の福祉事務所又は児童相談所に通告しなければならないとされており,家庭裁判所は,都道府県知事又は児童相談所長から送致を受けたときに限り,これらの少年を審判に付することができる。
 14歳以上の虞犯少年については,原則として,これを発見した者が家庭裁判所に通告しなければならないとされている。警察官又は保護者は,この虞犯少年が18歳未満であり,かつ,直接これを家庭裁判所に送致し,又は通告するよりも,まず児童福祉法による措置にゆだねるのが適当であると認めるときは,その少年を直接児童相談所に通告することができる。
 事件を受理した家庭裁判所は,家庭裁判所調査官に命じて,少年,保護者又は関係人の行状,経歴,素質,環境等について,少年,保護者又は参考人の取調べその他必要な調査を行わせるほか,審判を行うため必要があるときは,観護の措置の決定により,少年を少年鑑別所に送致してその身柄を一定期間収容し,資質鑑別を求めることができる。少年鑑別所に収容する期間は,原則として2週間を超えることはできず,特に継続の必要があるときは,1回に限り更新することができるが,通じて4週間を超えることはできない。少年鑑別所は,医学,心理学,教育学,社会学その他の専門知識に基づき,少年の資質鑑別を行い,その結果は家庭裁判所に提出される。
 家庭裁判所は,調査の結果,審判に付することができず,又は審判に付することが相当でないと認めるときは,審判不開始決定をして事件を終局させ,また,審判を開始するのが相当と認めるときは,審判開始の決定をする。審判の結果,保護処分に付することができず,又は保護処分に付する必要がないと認めるときは,不処分の決定をしなければならない。
 家庭裁判所における審判は,非公開で行われる。審判期日には,少年,保護者及び付添人を呼び出し,原則として家庭裁判所調査官を出席させるほか,審判の席に,少年の親族,教員,その他相当と認める者に在席を許すこともある。また,保護観察官,保護司及び少年鑑別所に勤務する法務教官・法務技官は,裁判官の許可を得て意見を述べることもできるが,検察官は立ち会うことができない。
 少年及び保護者は,家庭裁判所の許可を受けて,弁護士以外の者を付添人に選任することができるが,弁護士を付添人に選任するには,家庭裁判所の許可を要しない。また,保護者は自ら,家庭裁判所の許可を受けて,付添人となることができる。
 家庭裁判所は,審判の結果,保護処分に付することを相当と認める場合には,保護観察,児童自立支援施設・児童養護施設送致,少年院送致のいずれかの決定を行う。
 なお,家庭裁判所は,保護処分を決定するため必要があると認めるときは,相当の期間,家庭裁判所調査官に少年を直接観察させる試験観察に付することができる。
 保護処分の決定に対しては,決定に影響を及ぼす法令の違反,重大な事実の誤認又は処分の著しい不当を理由とするときに限り,少年,その法定代理人又は付添人から抗告することができる(ただし,付添人は,選任者である保護者の明示した意思に反して,抗告することはできない。)。
 家庭裁判所は,調査又は審判の結果,児童福祉法の規定による措置を相当と認めるときは,事件を知事又は児童相談所長に送致し,死刑,懲役又は禁錮に当たる罪の事件について,刑事処分を相当と認めるときは,事件を検察官に送致する(ただし送致時16歳未満の少年については,検察官に送致することができない。)。後者は逆送とも呼ばれ,送致を受けた検察官は,原則として公訴を提起しなければならないとされている。
 起訴された少年に対するその後の処遇の流れは成人の場合と同様であるが,犯行時18歳未満の者に対しては,死刑をもって処断すべきときは無期刑を科し,また,無期刑をもって処断すべきときは10年以上15年以下において懲役又は禁錮を科すること,少年に対して長期3年以上の有期の懲役又は禁錮をもって処断すべきときは,その刑の範囲内において不定期刑(刑の短期と長期を定める。)を言い渡すことなどの特則がある。また,2月以上の懲役に処せられた18歳未満の者については,それ以外の受刑者とは区別して収容することとされている。
 家庭裁判所の決定により保護観察に付された少年は,原則として,20歳に達するまで,保護観察官及び保護司の指導監督を受け,改善更生のために必要な補導援護を受けるが,その期間中に行状が安定し,再犯のおそれがなくなったと認められた場合は,保護観察の解除等の措置が執られる。
 児童自立支援施設・児童養護施設送致となった少年は,児童福祉法による施設である児童自立支援施設(不良行為をなし,又はなすおそれのある児童等に必要な指導を行い,その自立を支援することを目的とする施設をいう。)又は児童養護施設(保護者がいない児童,虐待されている児童等を養護し,その自立を支援することを目的とする施設をいう。)に収容される。
 少年院送致となった少年は,初等,中等,特別又は医療のいずれかの種別の少年院にそれぞれ収容され,矯正教育を受けつつ更生への道を歩み,仮退院が許可され出院した後には,保護観察に付される。
 このほか保護観察に付される少年としては,刑の執行を猶予されて保護観察に付された少年及び少年刑務所等の行刑施設で刑の執行を受け仮出獄した少年が該当する。
 なお,少年審判における事実認定手続の一層の適正化を図るため,平成11年3月,裁定合議制度の導入,検察官及び弁護士たる付添人が関与した審理の導入,観護措置期間の延長等を内容とする「少年法等の一部を改正する法律案」が国会に提出され,継続審査となっていたが,12年6月の衆議院の解散により廃案となった。