2 保護観察付執行猶予者 既述のように,麻薬取締法違反で保護観察付執行猶予の処分をうけた者は,仮出獄者に次いで多数である。しかもこの場合は,仮出獄者とは違って,かなり長期にわたって,保護観察が行なわれるから,保護観察活動の経過をより詳しくは握できる。以下仮出獄者の場合に準じて,対象者の状況および保護観察の現況をみることにする。 国籍,性別,年齢,処分前歴については,仮出獄の場合と著しく異なった傾向はみられない。国籍においては,外国人が保護観察付執行猶予者全員の八・〇%を占め男女別では,女子が一一八・九%を占めている。しかも女子の麻薬犯罪者は仮出獄の場合と比べてもなお高い比率を示している。年齢別にみると,二〇才以上三〇才未満の者が六四・六%,三〇才以上四〇才未満の者が一八・一%で,仮出獄の場合に比べると,三〇才未満の者の占める率が高いのが目だっている。また処分前歴をみると,麻薬犯罪者の場合は,保護観察付執行猶予者総数に比べて,前歴のない者の占める率が低い。 次に,仮出獄者の例にならって,居住関係をみるため事件係属保護観察所の受理状況をみると,仮出獄者の場合と同様,麻薬犯罪による保護観察付執行猶予者の七割以上が東京,横浜,大阪,神戸の各保護観察所に集中している。また保護観察開始当初の生活形態をみると,「同一世帯の親族と同居」している者および「その他の親族と同居」している者とを合わせると,総数の八八・一%を占めており,さらに配偶者のある者の多いことも仮出獄の場合と同様である。 次に保護観察の状況であるが,まずその保護観察終了時における成績をみると,昭和三五年には期間満了者中,成績「良」および「稍良」の者は,それぞれ一六・七%と一二・五%で,仮出獄者の場合よりは良いた,保護観察付執行猶予者の総数における率(二二・五%と一五・〇%)と比べるとかなり悪い。その上,成績「不良」または所在不明のまま保護観察期間を満了した者が四〇%をこえ,さらに執行猶予の取消により保護観察を終了した者が,終了総人員の五〇・〇%にあたる高率を占めていることは注目に価する。 以下保護観察の状況を,仮出獄者の場合に準じて,やや立ち入って検討してみよう。 保護観察付執行猶予の言渡しがなされた直後,保護観察所へ出頭させることの重要性は,仮出獄者の場合と同様である。しかし一般に,保護観察付執行猶予者は仮出獄者に比し不出頭者がかなり多いが,特に麻薬犯罪者の場合は一般の場合よりもさらに不出頭者が多く,その割合は総数の五〇%をこえている。また出頭,不出頭と再犯との関係をみると,不出頭者の再犯率は五三・四%で出頭者の再犯率五〇・五%より高い。 住居地における生活条件については,仮出獄者の場合よりも,さらに親族と同居の者が多いのに,その半数が再犯をしているのであって,そこには仮出獄者の場合と同じ再犯誘因が伏在しているように思われる。 次に所在不明者の状況をみると,法務総合研究所が需査した結果によれば,所在不明者総数のうち保護観察開始当初からの所在不明者は一〇%,開始後一月以内は四%で,六月以内の全所在不明者は二二・五%にも達している。 再犯者について,再逮捕までの期間をみると,再犯者の四〇%あまりが半年以内に再逮捕されており,ここでも再犯速度の早いことが明らbにされている。再犯罪名についてみると,麻薬取締法違反による再犯が四五%にものぼっており,麻薬犯罪者の更生の至難さを示している。 保護観察付執行猶予者で,成績良好な者については,刑法第二五条の二第二項による保護観察の仮解除の措置がとられることがあるが,麻薬犯罪者について仮解除件数をみると,昭和三五年に一件,昭和三六年に四件あっただけで,その数はきわめて少ない。 以上,麻薬犯罪者の保護観察の状況について,さ少の解明を試みたのであるが,いまだその実態を十分に明らかにする資料に乏しく,多くは今後の研究にまたねばならない。
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