1 仮出獄者 麻薬取締法違反者の仮出獄の状況については,すでに前項において述べたので,ここでは麻薬取締法違反の仮出獄者がどのような人たちであるかを知るために,これを仮出獄者総数と比較してながめてみよう。 対象者の国籍は,昭和三五年の統計によると,日本人三九八人に対して外国人八四人(一七・四%)で,同年の仮出獄総人員中外国人の占める割合が五・〇%であるのに比べると,麻薬取締法違反者には明らかに外国人が多く,この犯罪の特異性を示している。 次に男女別にみると,昭和三五年の統計では,麻薬犯罪者においては女子がその二二・二%を占め,仮出獄総人員中に占める女子の割合二・二%より著しく高く,これもこの種対象者の特異性の一つといえよう。 年齢別では,二〇才以上三〇才未満が四八・五%,三〇才以上四〇才未満が三七・九%で,仮出獄者全体の年齢分布において,前者が五一・八%,後者が三〇・三%であるのに比べると,三〇才以上四〇才未満の者の占める割合は麻薬犯罪者の方が高い。その他の年齢層については,それほど大きな違いはない。 処分前歴のない者および保護観察に付された経験のない者の占める割合をみると,麻薬犯罪者では前歴のない者が二三・六%,保護観察に付されたことのない者が五五・一%で,仮出獄総人員における前者の比率が一七・七%,後者が四〇・二%であるのに比べると,麻薬犯罪者の方が前歴のない者が多いことがわかる。 居住地を明確に示す統計はないが,保護観察事件の受理時係属庁の状況から推定すると,昭和三五年に東京,横浜,大阪,神戸の四保護観察所に係属したものが事件総数の七二・七%に達し,居住地が特定地域に集中していることがうかがわれる。また帰住時の生活形態についてみると,「同一世帯の親族と同居」している者の多いことは,仮出獄者全体の傾向と一致するが,他の仮出獄者の場合に比べ,「その他の親族宅」または「知人宅」に居住している者の多いこと,および配偶者のある者の占める率の高いことが特徴の一つとなっている。 次にこれら麻薬犯罪仮出獄者の保護観察状況をみよう。まずその保護観察終了時における成績をみると,昭和三五年には期間満了者は終了総人員中九八・四%を占めているが,そのうち保護観察の成績が「良」および「稍良」の者が期間満了者中に占める率は,それぞれ六・四%および一一・六%であり,全事件のそれが一二・四%および一三・一%であるのに比べると成績は良くない。しかし,同じく成績「不良」および所在不明のまま期間満了した者は,三・二%および四・三%であり,また仮出獄を取り消されて保護観察を終った者は終了総人員中〇・七%にとどまっている。すなわち統計上麻薬犯罪者の保護観察の成績は,必ずしも他に比して特に不良であるとは認められないが,既に述べたように,仮出獄の期間が他の事件の場合より短いことを考慮に入れると,右の成績をそのまま受け入れることはできない。 矯正施設釈放直後における保護観察所への出頭の重要性については,前に触れたとおりであるが,麻薬犯罪仮出獄者と仮出獄者総数との出頭状況を比較してみると,前者の出頭率は九〇・七%,後者のそれは九三・二%で,両者間に大きな差はない。 次に帰住地の生活条件をみよう。麻薬犯罪者の場合,帰住地の生活形態が「同一世帯の親族と同居」している者および「その他の親族と同居」している者であるのが大部分を占め(七五・八%)ており,このような,通常良好な受入れ保護者と思われる場所に居住していながら,再犯する者が決して少なくなく,その再犯の七割が麻薬に関連した犯罪行為によるものであることは,麻薬のもつ特有の魅力と,その魅力に引き付けられる特有の性格,さらに巧妙な麻薬の密売組織とのつながり等がその原因として考えられるとともに,居住条件がこのような性格の者にとっては,安住できない何かをもっているのではないかと疑わせるものがある。なお,麻薬犯罪者の居住地の生活条件が,単身,知人方,更生保護会等である場合,再犯率は非常に高いが,これについては,仮釈放の審理および保護観察実施において,さらにいっそうの考慮を払う必要があろう。 最後に,再犯者について再犯刑言渡しまでの期間をみると,その期間が一年以下の者が六割以上である。再犯刑言渡しまでの期間が一年以下であるから,犯行はそれよりもかなり早い時期に行なわれているのであり,麻薬犯罪者の再犯速度の早さがうかがわれるのである。
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