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 昭和38年版 犯罪白書 第四編/第三章/二/9 

9 麻薬受刑者の入所後の状況

 入所時の分類調査の判定結果によると,麻薬受刑者の知能程度,精神診断の面では,一般受刑者と比較して,とくに目だつような特徴は見られない。知能指数の段階別にみると,普通域(IQ九〇-一〇九)の者が全受刑者の平均より若干低く,準普通および限界域(IQ七〇-八九)の者がいくらか多い程度である。各群別にみると,このばあいも使用密売者に知能指数の低い者が比較的多いといえるようである。精神診断の面からみると,IV-27表に示すとおり,精神病質と診断されたものが全受刑者の比率をいくらか上回っているが,その他の項目ではいずれも低くなっている。(この傾向は診断未了の除外者を除いても変わらない。)この結果から,麻薬受刑者には性格に問題のある者が多少多いことは認められるが,これをもって麻薬受刑者の特徴であるとはいえないであろう。

IV-27表 麻薬関係受刑者の精神診断別人員

 施設内での反則の状況はIV-28表のとおりであるが,この場合も使用密売者が他の二群よりも反則者の率が高く,とくに抗命,暴行等の粗暴な反則がかなり多いことが目だっている。また怠役,談話等の消極的,逃避的な反則が密売者に少なく,わずかではあるが使用関係者に多い傾向もみられるようである。

IV-28表 麻薬関係受刑者の反則状況

 以上の結果を総合してみると,一口に麻薬受刑者といっても,それには資質的にも罪質的にも,あるいはまたその生活史の上からみても,種々の異質的な分子が含まれており,いわば玉石混こうの状態で,その特質を一概に論ずることは不可能であるといえよう。しかし麻薬受刑者の中で,密売専門の者と使用者と使用密売の者とを比較してみると,その間にかなり大きな差異が見られ,一般に使用関係者の方により多くの問題点が見られ,なかんずく使用密売者には因難な問題をもったものが最も多数含まれているといってよいであろう。要するに麻薬受刑者の中で,最も問題なのは使用密売者であり,しかもかれらは密売者であるよりも先にまず使用者であるということは,さらに現在の単なる使用者も,このまま放置すれば,やがては使用密売者の群に移行するであろうことなどが,推測できると思われる。