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麻薬犯罪の取締りの強化にともない,矯正施設に収容されている麻薬受刑者の数がしだいに増加しつつあることは当然予想されるところであるが,最近五年間の推移をみるとIV-17表のとおりである。本表は麻薬取締法違反の罪名で収容されている受刑者の,各年一二月末日現在の在所人員と,年間新たに入所した新受刑者数とを対照したものであるが,いずれの場合も,昭和三三年にかなり急激な増加を示し,その後昭和三五年まであまり大きな変化がなく,昭和三六年に至って再び大幅な上昇を示している。その増加率を昭和三二年を一〇〇とした指数で表わすと,昭和三六年では,新受刑者数で一七七,一二月末日現在の収容人員数で一八九となり,約二倍近くの増加ということができる。次に麻薬受刑者が総受刑者の中で占める比率を新受刑者数で調べてみると,昭和三二年では一・三%であるのに対し,昭和三六年では二・九%と,比率の上では二倍以上の増加を示していることになるが,これは新受刑者の総数が年々減少している結果である。
IV-17表 麻薬取締法違反受刑者の最近5年間の推移(昭和32〜36年) 次に麻薬受刑者の刑期別人員の最近五年間の推移をみるとIV-18表のとおりで,昭和三二年には懲役六月以上一年未満の者が五三・一%で最も多く,次に懲役一年以上二年未満の二六・六%であるのに対して,昭和三六年では逆に懲役一年以上二年未満が四六・一%で一位となり,懲役六月以上一年未満は三七・〇%で二位に下がっている。その間の推移をながめると,懲役六月以上一年未満と,同じく一年以上二年未満との間を境にして,一般に刑期の短い者が漸減しているのに対して,刑期の長い者が増加の傾向にあるといえよう。このような傾向は,麻薬犯罪者に対する科刑がきびしくなりつつある現われであると,一応見られないこともないが,同じ麻薬取締法違反者でも,単なる麻薬使用者と密売関係者,あるいは初犯者と累犯者との間には,その量刑上かなりの開きがあり,いうまでもなく前者に軽く後者に重いのであるが,本表では使用者と密売者との区別が不明のため,あるいは麻薬受刑者の中で密売関係者の占める割合が年々増加しつつあるため,一般に刑期の長い者が多くなったとも考えられ,一概に断定することはできない。しかしいずれにしても,一般に刑期の長い者が増加の傾向にあることは否定できない。IV-18表 麻薬取締法違反新受刑者の刑期別人員(昭和32〜36年) 麻薬受刑者の初犯者と累犯者の比率は,昭和三六年の新受刑者では累犯者が六二・九%で,全受刑者の累犯者の比率五六・九%より若干多いが,最近五年間の比率を対照してもほとんど異同がなく,とくに累犯者が増加している傾向は見られない。次のIV-19表は,麻薬受刑者の年齢別分布の最近五年間の比較であるが,これには若干の傾向的な動きが見られるようである。この表を二〇才代およびそれ以下の若年層と,三〇才以上の高年層とに大別してみると,若年層ではその比率がわずかではあるが,年々上昇傾向を示しているのに対して,高年層ではいずれも減少の傾向にあるといえよう。とくに二〇才未満の少年受刑者が昭和三三年までは見られなかったものが,昭和三四年からわずかながら出現しはじめていることは注意すべき現象である。 IV-19表 麻薬取締法違反新受刑者の年齢別人員(昭和32〜36年) 麻薬受刑者を国籍別にみると,朝鮮,中国その他の外国人の占める比率が高いことは当然予想されるところであるが,IV-20表に示すとおり,昭和三二年では二五・七%と全体の四分の一を占めている。(全受刑者に対する外国人の比率は,昭和三六年新受刑者では五・四%である。)ところが,その後この比率はしだいに低下して,昭和三六年には一二・七%と二分の一に下がり,一見いちじるしく減少したようにみえるが,その実人員数でみると,外国人は昭和二三年の一五九名に対して昭和三六年は一三九名で,二〇名減っているにすぎない。一方,日本人受刑者は昭和二三年の四六〇名に対して昭和三六年は九五七名で,約五〇〇名の増加を示している。要するに,外国人受刑者の占める比率の減少は,日本人受刑者の増加による結果であるとみなすこともできようか。IV-20表 麻薬取締法違反新受刑者の国籍別人員(昭和32〜36年) その他学歴,職業,生活程度,家族関係等については,年度別の対照においても,一般受刑者と比較して,ほとんど差異がみられないので省略する。なお昭和三六年に入所した麻薬受刑者のうち,再入受刑者六八四名(うち女子五六名)について,前刑時の罪名を調査すると,同じ麻薬取締法違反の罪名の者が三〇〇名(うち女子三九名)で全体の四三・八%(女子六九・六%)を占め,次は窃盗の三〇・一%(女子二一・四%),その他の刑法犯は一九・七%(女子一・八%),その他の特別法犯は六・三%(女子七・二%)となり,同じ麻薬犯罪の再犯者がもっとも多く,とくに女子だけについてみると七〇%近くの高率を示していることがわかる。 |