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 昭和38年版 犯罪白書 第四編/第二章/一/2 

2 取締機関

(1) 麻薬取締官(麻薬取締法第五四条) 麻薬取締官は全国で定員一五〇人であり,全国八か所の地区麻薬取締官事務所を単位として活動しており,麻薬取締法に基づく監督事務をつかさどっているが,主として不正麻薬の取締りに従事している。なお麻薬取締官の捜査権限は麻薬取締法,大麻取締法,あへん法に違反する罪,刑法第二編第一四章のあへん煙に関する罪または麻薬もしくはあへんの中毒により犯された罪に限られ,その捜査にあたっては一般に「おとり捜査権」といわれている麻薬の譲受権をもっているが,職務質問権はなく,また右に掲げたもの以外の一般犯罪の捜査権は有しない。
(2) 麻薬取締員(麻薬取締法第五四条) 麻薬取締員は都道府県の職員であり,全国の定員は一〇〇人である。取締権限は麻薬取締官と大差ないが,麻薬関係法令の実施に関する事務に忙殺されて捜査活動は活発ではない。
(3) 警察官(刑訴第一八九条) 捜査の陣容は,他の麻薬犯罪取締機関に比し最も強大であり,他の犯罪捜査と同時に麻薬犯罪の捜査もなすことができ,警視庁および大阪府警本部,神奈川,兵庫各県警本部には専門の麻薬課をおき,他の県警本部には麻薬班がおかれている。第一線の警察署では,主として防犯課または防犯係の警察官が麻薬事犯の捜査を担当している。
(4) 税関職員(関税法第一一九条以下) 税関職員は関税線における旅客,貨物および郵便小包の検査から調査活動にはいるのであるが,諸般の事情から全面的な細密検査の実施が困難なため,関税線において麻薬の密輸入を完全に防圧することは期待できない。
(5) 海上保安官(海上保安庁法第三一条) 海上保安官は海上警戒のほか,主として船舶の臨検によって捜査活動を行なっているが,麻薬取締官や警察官に比し実績は少ない。
(6) 入国警備官(出入国管理令第六一条の三等) 麻薬密売ルートの上層幹部には外国人が多数を占めている現状からみて,入国警備官の活躍も期待されるのであるが,国際慣行等諸種の事情から,いまだ十分な活動はみられないようである。
(7) 検察官(刑訴第一九一条以下) 検察官は,各捜査機関から麻薬事犯の送致をうけ,訴追をおこなうのであるが,もちろん独自の捜査権を有し,場合によっては他の捜査機関を指揮することもできる。
 なお,これらの捜査機関は,それぞれ独立の捜査権をもっているが,常に連絡し共助しあって,その取締りに当たっていることを付言しておかねばならない。