前の項目   次の項目        目次   図表目次   年版選択
 昭和38年版 犯罪白書 第三編/第三章/四/1 

四 少年院の特殊化計画

1 特殊化の方向

 現在の少年院には,老朽化した施設が多く,設備も不完全で,職員数も著しく不足しており,またその機能も十分に分化されていない等のため,現状では収容少年の資質に応じた指導や訓練を満足に行なうことができない状態にある。この状態では,収容少年の改善や更生の効果をあげることが,きわめて困難であるので,それぞれの少年の生育歴,資質,将来の必要等に応じた処遇を行なうためには,現在の少年院を西欧なみの近代的な訓練学校方式にのっとって編成し,その処遇の特殊化と専門化を図る必要があると思われる。現在,法務省において意図している特殊化の方向は,おおむね次のようなものである。

(一) 学校教育を中心とする少年院

 少年院に収容されている少年のうち,学齢にあるものは,全体の約一五%である。一方,わが国の少年人口は,いわゆる終戦児の激増に伴って,高校急増対策にみられるように,昭和三七年以降には,一四才以上の少年層が飛躍的に増加する見通しであり,この少年人口の増加は,必然的に非行少年の増加をもたらすことが予想され,既に東京矯正管区内においては,本年度にはいって一六才以下の収容少年の急激な増加傾向を示している。このなかには義務教育未修了者が相当含まれているのであるが,義務教育というものが,社会生活に適応してゆくために,きわめて重要な意味を持っていることを考えると,かれらに正規の学校教育を体験させることが,必要不可欠のこととなってくる。このような観点から,まず学齢にある義務教育未修了者(全体の約一〇%)を対象として,中学校の教育課程を完全に実施し,同時に,社会性を身につけながら心身を練磨する野外訓練や体育訓練を徹底しておこなうような少年院を整備する。

(二) 職業訓練を主とする少年院

 少年院は,開設以来職業教育に種々意を用いてきたが,それにもかかわらず,出院後の少年の就職先,保護観察を担当する人々および裁判官等から,少年院の職業教育が不徹底であることを指摘する声があげられている。このことは,まず第一に,収容少年の職業適性が一般的に低劣であることに起因すると思われるが,同時に少年院側の職業教育の水準が低く,かつ職業教育設備も不完全であることにも,その原因があることはいなめない事実である。
 そこで収容少年のうち,義務教育を終了した職業適性の高い少年(全体の約二二%)を特定の施設に分類収容し,そこでは,職業訓練法に基づく公共職業訓練所に準じた高度の職業訓練を施し,技能工の資格を取得させるための工業技術的な職種を中心とする職業訓練専門のコースを整備する。

(三) 職業指導を主とする少年院

 前項の職業訓練をうけるほどの職業適性は持たないが,一応義務教育を終了した,犯罪傾向の著しくない少年(全体の五七%)に対しては,応用範囲の広い職業指導を施すことによって,職業に対する興味と関心を高め,基礎的な知識や技能を与え,勤労を重んずる態度をつちかうとともに,規律のある集団生活を通じて,社会生活に適応する能力を助成することに重点をおく必要がある。
 そのためには,比較的短期間(三-六月)に習得の可能な基礎的技能をえらび,かつ相互に関連の深い二,三の技能を組合わせて一コースとするような若干のコースを設けて,少年の生育歴,資質,出院後における社会生活上の必要性等に,より適したコースを習得させるよう少年院を整備する。

(四) 医療を主とする少年院

 精神病質の少年は,現段階においては,医療少年院に収容されているものより,他の少年院に収容されているものの方がはるかに多く,本人のみならず他の少年に対しても,教育上困難な問題をひきおこしている。したがって,早急に医療少年院を拡充して,これらの精神病質者のうち,治療の対象になる者を収容し,これに特殊な治療訓練を施す必要が痛感れる。
 また,精神病質者のみならず,その他の精神障害者,身体疾患のあるものおよび身体障害のあるもののすべてに,それぞれ医学的措置や治療教育的措置を与えることができるように医療少年院を拡充整備する。