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 昭和38年版 犯罪白書 第三編/第三章/二/3 

3 生活指導

 少年院における生活指導は,収容少年に対して,健全な社会人として必要な考え方,行動様式,態度を身につけさせることを目標としている。すなわち,まず入院当初には,日常生活における基本的な行動様式を身につけさせ,期間の経過にしたがって,漸次必要な社会的生活訓練を与え,最後に退院にあたっては,出院後の生活設計をたてさせるように指導している。
 したがって,少年院生活の各場面は,すべて生活指導の場として利用され,それは強制的画一的なしつけ訓練をするものではなく,むしろ少年の個別指導に重点がおかれ,集団生活の各種の場面でいろいろな活動を通じ,自主的で好ましい態度や習慣を育成させ,適応の能力を伸ばすことを目的としている。このため社会教育講話,余暇活動,篤志面接,集団心理療法,グループ・カウンセリング等が行なわれている。
 余暇活動のおもなものは,クラブ活動であって,昭和三五年および三六年におけるクラブ活動の実施状況を示すとIII-52表のとおりである。これによると,スポーツ関係,美術,音楽,文芸,演劇から弁論,点訳等に至るまで,多種類にわたりクラブ活動が行なわれていて,かなり活発に実施されていることがわかる。

III-52表 クラブ活動実施施設数(昭和35,36年)

 また篤志面接委員制度の活用も,各庁でしだいに活発化し,昭和三七年一二月末日現在で五七三名(うち婦人二〇二名)の委員が,この仕事に従事している。面接の内容はIII-53表に示すとおり,精神的はんもん,職業相談が最も多く,家庭相談,教養等がこれについでいる。

III-53表 篤志面接の内容別実施回数(昭和36年)

 また,少年院の在院者には多かれ少なかれその性格にかたよりが見受けられ,情緒も不安定であり,しかも何かにつけて不自然な拘禁生活を余儀なくされている関係から,院内における集団の紀律をみだしたり,少年院における矯正教育の円滑な進行を妨げている場合が少なくない。こうした少年のために,直接には院内生活への適応,ひいては出院後の社会生活への適応を促進することを目的とした個別,または集団の心理療法が導入されて,すでに数年になる。法務省矯正局の調査によれば,昭和三八年二月現在において,個別または集団のカウンセリング,精神分析,催眠療法,心理劇療法,遊戯療法等各種の心理療法を実施している施設は,全国で二八におよんでおり,新入者の施設生活への早期適応,問題少年の心情安定,その他一般に人間関係の緊張緩和や,自主的な生活意欲の喚起等にかなりの効果をあげている。しかし全国的にみると,この種の新しい矯正技術の分野には,その専門家が容易に得られないため,各施設ともそれぞれ部外の専門家に委嘱したり,定期的な所内研修を試みたり,外部の研究会へ職員を派遣する等,技術導入のための熱心な努力が重ねられているにもかかわらず,いまだ心理療法を活用した体系的な処遇や,恒常的な組織活動を持つまでにはいたっていない。いわばその導入の陣痛期にあると考えられているのが現状である。
 その他,映画,演劇等の行事,施設外の社会見学ないし視聴覚教育も窮屈な予算のわく内ではあるが有効に実施されている。