前の項目 次の項目 目次 図表目次 年版選択 | |
|
非行少年について,その更生をはかるため適切な処分を決定するには,その資質や環境等を専門的に調査し,これを参考として処分を決定する必要がある。この専門的な調査は,主として家庭裁判所調査官と少年鑑別所によって行なわれている。
まず,このような調査のうち最も重要なものの一つは心身の鑑別であるが,これは主として少年鑑別所において行なっており,既に少年鑑別所の項で詳細を述べたので,ここでは家庭裁判所の審判のための心身の鑑別が最近どの程度行なわれているかをみるにとどめよう。III-27表は,最近五年間に終局決定のあった道交違反事件以外の一般少年保護事件について,心身鑑別の有無および心身鑑別を行なった機関の内訳を示すものである。心身鑑別を行なった数は,年度によって多少の増減はあるが,各年度とも終局決定総数の二〇%前後となっている。鑑別を行なった機関別にみると,いうまでもなく少年鑑別所が圧倒的に多く,鑑別を行なった総数の八〇%以上を占めているが,なおそのほかに家庭裁判所がみずから鑑別を行なったものや,病院等に鑑別を委嘱したものもある。鑑別所あるいは病院等と家庭裁判所が重複して鑑別を行なったものは,家庭裁判所で予備的に鑑別を行なった後,さらに鑑別所や病院等において詳細な鑑別を行なったものであろう。 III-27表 心身鑑別の有無別人員(一般少年保護事件)(昭和32〜36年) なお,右の心身鑑別とは別に,道交違反事件の少年について,最近家庭裁判所において心理テストを行ないはじめている。この心理テストを行なったのは,昭和三四年に五〇一人,同三五年に二,三五四人で,昭和三六年は統計がないので詳細は明らかでないが相当増加しているものと思われる。しかしながら,これを道交違反事件の少年の総数に対比すれば,いまだきわめて数が少なく,特定の庁のみが熱心に実施している段階と思われるが,将来はさらに広く実施されることになるであろう。次に試験観察の情況をみよう。家庭裁判所は,少年に対する処分を決定するにさきだち,その個性と環境を見きわめるため,当該少年を家庭裁判所調査官の観察に付し(少年法第二五条第一項),あわせて遵守事項を定めてその履行を命じ(同第二項第一号),条件を付けて保護者に引き渡し(同第二号),あるいは適当な施設,団体または個人に補導を委託する(同第三号)ことができる。これが試験観察の制度である。試験観察に付された少年の数は,III-28表のとおりで,受理総数のおおむね二%前後である。昭和三六年には実数も多少減っているが,最近受理総数に対する割合がしだいに減少してきているのは,道交違反事件の受理が増加し,この種の事件については試験観察が比較的少ないためである。次に試験観察の種類別区分を昭和三五年に終局決定のあった事件についてみると,III-29表のとおりである。一般事件においては,単なる試験観察に次いで身柄付委託の数が多いが,道交違反事件では,身柄付委託はきわめて少なく,大部分は遵守事項を定めて,その履行を命ずる措置がとられている。次は試験観察の期間であるが,III-30表の示すとおり,一般事件では,月数別にみると三月以内から六月以内というところが最も多いが,道交違反事件では,二月以内が目だって多い。なお,いずれの事件においても,一年を越えるものが相当あるが,このような長期にわたる試験観察が,この制度の本来の趣旨にそうものであるか否かについては,従来から問題とされているところである。試験観察の行なわれた一般少年保護事件について,観察の結果どんな終局決定がされているかをみると,III-31表のとおりで,不処分が最も多く総数の四三・一%を占め,これに次いで保護観察が二七・一%,少年院送致が一六・八%であり,検察官送致は二・六%にすぎない。 III-28表 試験観察数(少年保護事件)(昭和32〜36年) III-29表 試験観察の種類(昭和35年) III-30表 試験観察の観察期間(昭和35年) III-31表 試験観察の終局決定別人員(一般少年保護事件)(昭和35年) 次に家庭裁判所が事件を受理してから終局決定に至るまでの期間をみよう。III-32表によると,一般事件で三月以内に終局決定されたものは,昭和三五年には総数の六八・七%,同三六年には七一・五%に達し,審理はかなり円滑に行なわれているようであるが,それでもなお一年を越えるものが五,〇〇〇人以上に上っている。これは,試験観察や所在不明者の調査等の理由によるものが多いと思われるが,なお検討の要があろう。III-32表 終局決定審理期間別人員(一般少年保護事件)(昭和35,36年) 次は審判の内容についてであるが,既に保護処分と刑罰の概況を述べた際に,道交違反事件とその他の事件とに分けて終局決定別の内訳を見たので,ここでは刑法犯の主要罪種について終局決定の内訳をみることとしよう。III-33表は,昭和三六年に終局決定のあった事件のうちの窃盗,恐かつ,傷害,殺人,強かん,わいせつ,および業務上過失至死傷についての処分別の人員を示すものである。まず窃盗についてみると,不開始,不処分がきわめて多く総数の七六・四%に達し,検察官送致はわずか二・四%にすぎない。保護処分としては,保護観察が一三・六%,少年院送致が六・五%であるが,少年院送致は同年中に少年院送致決定を受けた少年の総数の半ばを占めている。恐かつと傷害は,いずれも不開始,不処分が多く,検察官送致は三・二%と四・六%であるが,護処分になると,保護観察が二〇・三%と一四・二%,少年院送致が八・六%と三・〇%で,恐かつの方が傷害より保護処分の割合が高い。殺人は,その犯罪の性質上不開始,不処分は比較的少なく,検察官送致が四六・七%を占めており,保護観察が二一・〇%,少年院送致が一五・九%となっている。性的犯罪のうち強かんは,保護観察がきわめて多く四一・二%に達し,少年院送致も一三・八%で比較的多く,検察官送致は八・六%で,道交違反事件を除く一般少年保護事件の平均より上回っている。これに対してわいせつは,不開始,不処分が多く,保護観察は二一・五%であるが,少年院送致は四・八%であり,検察官送致はわずか一・三%にすぎない。最後の業務上過失致死傷は,検察官送致の割合がきわめて高く四一・六%を占めているが,なお不開始,不処分があわせて五四・八%ある。もとより過失の内容,結果発生の程度と少年の資百環境等を総合検討した結果の決定ではあろうが,最近の交通事情と成人に対するこの種事犯の処分のきびしさを考えると,なお検討の余地があるのではなかろうか。III-33表 主要罪種別終局決定人員(昭和36年) 最後に審判時における少年の年齢の区分をみよう。III-34表は,昭和三六年における一般少年保護事件の年齢別処分区分を示すものである。まず総数をみると,二〇才以上は原則として家庭裁判所の審判の対象にならないものであるから,これを除外するとして,一四才から一九才まで,年齢の高いほどその数が多くなっている。決定別にみると,検察官送致は年齢の高くなるに従ってその数が多く,決定総数に対する割合も同様である。保護処分中の保護観察は,一四才未満は別として,その他は一四,一五才が一〇%内外,一六才ないし一九才が一二・七%から一三%台,最高は一七才の一三・四%であるが,年齢によりそれほど大きな違いはたい。次に教護院・養護施設送致と知事・児童相談所長送致が低年齢層に多いことは,それらの機関の性質上当然であろう。少年院送致は,実数においては一九才が最も多く,総数に対する割合は一七才と一八才が最も高い。一九才の少年院送致の割合が低いのは,少年院送致より刑事処分相当として検察官へ送致される者がふえている結果ではあるまいか。なお,不開始は一五才をピークとして年齢が上がるに従って,総数に対する割合が滅少しているが,不処分ではこれと反対に,一七才ないし一九才の年長少年において総数に対する割合が高くなっている。III-34表 終局決定審判時の年齢別人員(一般少年保護事件)(昭和36年) |