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 昭和38年版 犯罪白書 第三編/第二章/二/3 

3 今後の課題

 少年鑑別所が家庭裁判所関係の鑑別業務のほか,法務省関係の各機や,ひろく一般社会の団体,個人等の依頼による鑑別,相談等それぞれの地域における鑑別センターとしての活動を,ますます活発に行なうよう,要請されつつあることは前述のとおりである。このように,少年鑑別所の業務がますます多岐にわたるにつれて,鑑別技術もいつそう複雑化,精密化した高度のものが要求されるばかりでなく,さらに最近の動向として,カウンセリングその他の心理療法が,活発に応用されはじめたことかう,少年鑑別所においても,収容少年や外来鑑別少年に対して,単に診断鑑別ばかりでなく,治療的処遇をも実施することが要望され,その負担と責任は,ますます重かつ大になりつつあるといえよう。
 この意味から,少年鑑別所は現在,一大発展と転換の時期に直面していると考えられ,その使命を遂行するためには,次のような諸施策が考慮されなければならないと思われる。
(1) 鑑別技官の増強とその養成 鑑別技官の増強が必要であることはいうまでもないが,問題はその養成である。新しく採用した鑑別技官に対しては,少なくとも一年間の実地訓練期間を設け,臨床的技術を十分に身につけさせるインターン制のような制度が必要である。また一般鑑別職員に対しても,しばしば短期間の研修を実施して,その実技の向上をはかる必要がある。
(2) 施設とくに外来鑑別施設の整備拡充 過剰収容施設の早急な拡充強化の必要については,前にも述べたので,あらためていうまでもないが,その他の施設においても,収容少年の完全な分隔処遇,精密化した鑑別,治療処遇等の実施に対しては,必ずしも十分とはいえないものが多い。とくに在宅少年,その他の外来鑑別者のための鑑別施設が整備されているところは,きわめて少ない状態であり,これらの施設の整備拡充が,まず第一に必要である。なおこれと関連して,外来鑑別少年やその保護者のための宿泊設備を設けて,鑑別上必要があるときは,本人の承諾の上で必要期間だけ宿泊させる制度をも,あわせて考慮する必要があろう。
(3) 収容期間の延長 このことについては,すでに前年度の白書で詳しく述べられているので,今さら多言は要しないと思うが,鑑別技術の高度化にともない,使用する心理検査の種類の増加だけからみても,少年ひとりあたりの鑑別所要時間が以前より長くなっていることは,当然予想されるところである。さらに場面設定による行動観察や,カウンセリング技法の導入等により,少年の有する問題点ばかりでなく,その長所をも発見し,あわせて将来の更生改善のための方向付けをも行なうには,かなりの収容期間が必要である。最大限四週間の現在の観護措置期間は,少なくとも六週間以上に延長すべきであるというのが,現場からの要望のようである。
(4) 少年鑑別所法の制定 この問題も,すでに以前からしばしば指摘されているところであるが,上述のように,少年鑑別所の性格が,その発足当時からみると,しだいに変化してきていることから考えても,現在の少年院法に包含されたものでは不備であり,この際単独法を制定して,鑑別センターとしての新らしい方向付けをはっきり打ち出す必要があるといえよう。