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 昭和38年版 犯罪白書 第三編/第二章/一 

第二章 少年に対する保護処分と刑罰

一 保護処分と刑罰の概況

 非行少年について,これを保護処分に付するか,あるいは刑事処分に付するか,また保護処分に付するとすれば,どんな種類の保護処分に付するかを決定するのは,家庭裁判所である。少年法によれば,二〇才未満の犯罪少年(少年法第三条第一項第一号),触法少年(同第二号)およびぐ犯少年(同第三号)は,家庭裁判所の審判に付することになっている。ただし,そのうち触法少年と一四才未満のぐ犯少年は,都道府県知事または児童相談所長から送致を受けた場合にかぎって,家庭裁判所の審判の対象になる。まず全国の家庭裁判所において審判の対象となった少年が,どんな経路で家庭裁判所に受理されているかを最近五年間の統計によってみると,III-16表のとおりである。この表によって明らかなように,各年度とも検察官および司法警察員の送致によるものが圧倒的に多い。受理合計数は年とともに増加しているが,これも主として検察官および司法警察員からの送致の増加によるものであって,道交違反事件の増加が大きく影響しているものと思われみ。

III-16表 一般少年保護事件の家庭裁判所受理経路別人員(昭和32〜36年)

 家庭裁判所は,このようにして受理した少年について,各種の方法により,その資質や環境を調査した上,それぞれ適当と認める処分を決定するのであるが,その処分の情況を最近五年間の統計によってみると,III-17表のとおりである。終局決定の総数は,前に述べたような受理数の増加に伴って激増している。決定にみると,不開始がきわめて多く,総数に対する割合も年とともに増加し,昭和三六年には総数の七〇%を越えるに至った。次に多いのは不処分であり,これは昭和三四年以降年とともに,その割合が減少してきているとはいえ,昭和三六年においてなお総数の約一二%を占めている。不開始は,家庭裁判所において所在不明等のため審判に付することかできないときや,非行が軽微で審判に付するのが相当でないと認めるときになされる決定であり,不処分は審判の結果保護処分に付することができないか,保護処分に付する必要がないと認めるときになされる決定であって,この二つの処分の合計は総決定数の八〇%を越えているのであるが,しかしこれらの決定がなされる場合には,必ずしもなんらの措置もとられないというものではない。そのうちの相当部分については,実際上当該少年に対して訓戒を与えるとか,学校の先生に事実上の補導を委託するとかいう保護的措置がとられた上,これらの決定がなされているのである。次は検察官への送致である。これは家庭裁判所が刑事処分を相当と認めて検察官へ送致したもの(もっとも,本人が二〇才以上であることが判明したものも含まれている。)であるが,右の表によって明らかなように,その割合は年とともに高くなっており,しかも最近五年間の増加率は他の決定に比して著しく高い。次は保護処分であるが,各種の保護処分のうち最も数の多いのは保護観察で,決定総数の三%から四・八%を占めており,次は少年院送致で,総数の一・一%ないし二・一%を占めているが,右の表で明らかなように,いずれもその割合はしだいに低下しつつある。教護院・養護施設送致と知事・児童相談所長送致は各年度ともその数が少なく,特に目だった動きはない。

III-17表 家庭裁判所終局決定別人員(一般少年保護事件)(昭和32〜36年)

 以上は終局決定総数についてみたのであるが,総数のうち相当大きな部分を占めている道交違反事件は,その他の事案とはかなり趣をことにするものがあり,家庭裁判所の終局決定においても,他の事案とはかなり違った処分がなされているのではないかと思われるので,道交違反事件とその他の事件とを区別して,その処分の内訳をみる必要がある。III-18表III-19表は,それぞれ道交違反事件とその他の事件について,最近五年間の終局決定別の情況を示したものである。まず総数についてみると,道交違反事件の方がその他の一般事件より著しくその数が多く,しかも最近五年間の増加率もはるかに高い。次に各決定別に検討すると,まず不開始,不処分の占める割合の高いことは,いずれの事件においても同じであり,不開始の割合がしだいに増加し,不処分の割合がしだいに減少していることも同じであるが,不開始の割合は道交違反事件の方が著しく高く,不処分の割合は一般事件の方がかなり高い。すなわち道交違反事件では審判を開始しないで終る事件が総数の七〇%を越え,審判開始後不処分になるものは比較的少ないが,一般事件では不開始で終る事件は四〇%台で,その他は審判が開始され,その後,そのうちの約半数が不処分となっているのである。検察官送致の割合は,道交違反事件の方が一般事件よりかなり高い。しかも道交違反事件においては,最近五年間にその実数および総数に対する割合が,ともにかなり顕著に増加しているが,一般事件においては,昭和三五年までは道交違反事件と同様に増加してきたものの,昭和三六年にはほぼ前年と同じ状態にとどまっている。次に保護処分の情況をみると,まず保護観察は,道交違反事件においてはその割合がきわめて少なく一%に達せず,一般事件においてはその割合は一〇%台であるが,いずれも昭和三五,三六年とその割合は減少の傾向にある。少年院送致は,道交違反事件においてはその数がきわめて少なく,一般事件においては最近五年間,常に八,〇〇〇人を越えているが,総数に対する割合は五%ないし七%程度で近年しだいに低下してきている。教護院・養護施設への送致および知事・児童相談所長への送致は,道交違反事件ではきわめてその数が少なく,一般事件においても他の決定に比してその数は少なく,いずれも最近五年間に顕著な動きは見られない。

III-18表 道路交通事件終局決定別人員(少年保護事件)(昭和32〜36年)

III-19表 道路交通事件以外の事件の終局決定別人員(少年保護事件)(昭和32〜36)

 次に,少年に対する刑罰の概況をみよう。家庭裁判所が検察官に対し送致したもののうち,少年法第二〇条により刑事処分を相当と認めて送致したものについては,検察官は原則として起訴を強制されるのであるが,これらの手続による少年に対する起訴,および刑事裁判所において少年に科せられた刑罰の概況を示すと,III-20表のとおりである。

III-20表 少年に対する刑罰の概況(昭和32〜36年)

 すなわち,新たな起訴は年とともに増加し,昭和三二年を一〇〇とすると昭和三六年は二九九の指数を示している。この起訴数の増加は,道交違反事件の増加に伴うものであって,このことは罰金刑の増加によっても明らかである。すなわち,罰金刑もきわめて顕著な増加を示し,昭和三六年は,同三二年の指数を一〇〇とすると四五四となっている。実に四倍半以上の飛躍的な増加である。ところが,懲役および禁錮の状況はどうであろうか。実刑を言い渡された数は,昭和三四年を例外として各年とも減少しており,昭和三二年を一〇〇とすると,昭和三六年は八二という数字を示している。
 最後に執行猶予を言い渡されたものであるが,この数は逐年増加の傾向にあり,昭和三六年は昭和三二年を一〇〇とすると一二四という指数を示している。