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8 少年犯罪の大都市への集中化 少年犯罪が大都市に集中してきていることは,すでに昭和三五年版犯罪白書以来,指摘してきたところでめるが,最近の傾向ないし変化についてさらに検討を加えてみよう。
昭和三七年における少年刑法犯検挙人員を地域別にみると,「六大都市」では四六,四〇八人で,「その他の地域」では一一六,五〇六人となっている。これを昭和三〇年および三五年の国勢調査実施年度と比較すると,III-12表にみられるように,昭和三七年の六大都市の検挙人員数は,昭和三〇年の二・一倍,三五年の一・一倍弱であって,量的増加の傾向はおおうべくもない。しかし,これを少年人口一,〇〇〇人あたりの対比率でみると,昭和三五年に比べてわずかではあるが減少している。このことは大都市における少年人口の増加に比して,少年犯罪の増加の勢いが弱いことを示すものではあるが,しかしながら,なお「六大都市」の少年犯罪が全少年犯罪の三割近くを占めているばかりでなく,昭和三〇年に比し,数の上で二万人以上,一,〇〇〇人あたりの比率で約五人の増加を保っているという現状は,決してゆるがせにできない幾多の問題をはらんでいるものといえよう。以下特記すべき問題点について考察を進めよう。 III-12表 六大都市とその他の地域における少年刑法犯検挙人員と率(昭和30,35,37年) 第一の問題は,大都市における少年犯罪が,粗暴犯罪を中心として増加しているということである。III-13表は昭和三七年の「六大都市」における少年刑法犯罪種別検挙人員を「全国」のそれと比較し,さらに昭和三五年の比率との変化をみたものであるが,これによると「六大都市」に多くみられる罪種は,脅迫,恐かつ,強盗,傷害などであって,これらの罪種が,一応,都市的な少年犯罪であるとみられる。しかし昭和三五年と比較してみると,比率の上で昭和三七年に増加したものは,脅迫,恐かつ,傷害,暴行の粗暴犯であって,そのほか少数ではあるが,殺人も増加している。とくに恐かつは,昭和三一年の指数を一〇〇とした場合,累年増加の勢いが増し,昭和三七年には三四四となり,脅迫は同じく二四四という指数を示すにいたっている。このように大都市の少年犯罪は,ますます都市的な特色を強く打ち出してきているが,それが人身攻撃的な暴力犯罪を中心としていることは,おそるべきことと言わなければなるまい。III-13表 六大都市および全国の少年刑法犯罪種別検挙人員と率(昭和35,37年) 第二の問題は,大都市における流入人口の増加と,それに伴う犯罪少年の増加ということである。最近のめざましい経済成長に伴って,大都市では経済力を伸展させる労働力が不足し,累年新鮮な労働力としての青少年を多数吸収してきている。総理府統計局の「住民登録移動人口報告」によれば,昭和三六年において転入超過をみたのは,東京,大阪,愛知の都府県とその周辺の五県のみであって,これらの転入者が,新規学卒者を中核とする若年労働力人口であることが指摘されている。とくに東京都の場合は,毎年二〇万あまりの人口増加のうち,約七〇%は社会増,すなわち他県からの転入者であり,さらにそのうちの約六〇%が,青少年によって占められている現状である。このような転入青少年が,大都市での新しい生活に不適応となり,生存競争から脱落する場合も決して少なくないことは,容易に想像されるところである。東京少年鑑別所の調査によれば,昭和三七年中に,同所に収容された少年のうち五〇%近くが,東京以外の府県の出身者であり,さらにその大部分は,集団就職その他なんらかの就職手段によって,都内に転入してきた者で占められている。かれらの犯罪化の過程については,さらに詳細な検討を要するところであるが,大都市における少年犯罪のかなりの部分が,大都市以外の地域の出身者によって占められているという現状は,注目に値することである。第三の問題は,大都市における年少少年の犯罪が著しく増加したということである。このことは,すでに述べてきた年少少年犯罪者の一般的な増加の傾向とも,深い関連をもつものであるが,最近七年間の犯罪少年を「六大都市」と「その他の地域」に分けて,これを年齢別に検討すると,III-14表にみられるように,「六大都市」においては一四-一五才の年少少年は,累年増加の一途をたどっており,昭和三七年においては,数の上で昭和三一年に比し,一二,一八四人,昭和三六年に比し,五,三七七人の大幅な増加をみせている。これに対して,一六-一七才の中間少年,一八-一九才の年長少年は昭和三五,六年ごろまでは増勢にあったが,その後停滞または下降に転じてきている。このような傾向は,六大都市以外の地域についても一般的にみられることであるが,年少少年の急激な増加は,六大都市ほどではない。III-14表によって,昭和三一年を一〇〇とした場合の地域別,年齢別の指数を検討すると,この間の事情はいっそう明らかである。すなわち「六大都市」の年少少年の指数は,昭和三七年には三四〇という驚くべき数を示しているのに対して「その他の地域」の年少少年は二五一にとどまっている。一四-一五才の年少少年の犯罪の二割余が「六大都市」に集中しているということは,多くの問題を含んでいるとみられるが,とくにこのような「六大都市」の年少少年の罪種が昭和三一年に比し,恐かつ一〇・六倍,脅迫七・六倍となっていることが注目されなければならないところである。 III-14表 「六大都市」と「その他の地域」の年齢別刑法犯検挙人員および指数(昭和31,37年) 六大都市における少年犯罪の現状は以上のごとく,さまざまな問題点を示しているが,ここで付言しなければならないことは,六大都市以外の地域における少年犯罪の動向である。III-15表によって「六大都市」と「その他の地域」における刑法犯検挙の対人口比率と,その増加の割合を,少年と成人に分けて昭和三〇年,三五年,三七年の三つの時点で比較検討すると,まず少年犯罪は,昭和三〇-三五年の間は地域に差なく増加しているが,三五-三七年の最近二年間には「六大都市」で一・一%減少し「その他の地域」は逆に二・四%増加している。他方成人犯罪は,地域,期間の別なく,いずれの場合も減少の一途をたどている。したがって,最近二年間に人口対比率の上で増加しているのは「六大都市以外の地域」の少年犯罪だけであるということができる。このことは,さまざまな視点から解釈することができるであろうが,一つには少年犯罪の都市集中化の傾向が,大都市のみならず中小都市,新興工業都市,大都市周辺にもみられるにいたっていることを示唆するものであろう。警視庁防犯課の調査によれば,最近は都心地帯よりも,むしろ府中,調布,三鷹などの周辺地区に問題地域が見出されることが指摘されており,また,各都道府県別の少年人口と犯罪少年との対比率をみても,全国の八割に近い府県が,昭和三五年から三六年にかけて対比率の面で増加を示していることなども,この間の事情を推測せしめるものといえよう。III-15表 「六大都市」と「その他の地域」における刑法犯検挙対人口比率とその増加割合(昭和30,35,37年) |