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 昭和38年版 犯罪白書 第二編/第七章/二 

二 更生保護会収容者のなりゆき

 更生保護会収容者に対する全国的ななりゆき調査は,今のところなされていない。
 しかし,昭和三七年に法務総合研究所が行なった小規模な更生保護会収容者調査があるので,これによって収容者の実態およびそのなりゆきを検討してみよう。この調査は,同年一〇月一日以降に東京保護観察所が受理し,更生保護会に収容委託した三〇〇人の対象者について調べたものであるが,ここに示す結果は,調査が十分でなかった四人をのぞいた二九六人に関するものである。もちろん,現在の更生保護会は,民間の篤志家が法務大臣の認可をうけて経営しているものであるから,それぞれの沿革と特殊性をもっており,また,特に東京保護観察所管轄内の更生保護会は,東京という特殊な地域社会の中にあって,ここに収容保護される者には,定職と帰住地のない,しわも移動性の強い不安定な者が多いところから,この結果が,ただちに全国の更生保護会収容者の傾向を代表しているとは断言できないが,一応のよりどころにはなるであろう。
 さて,右の調査によって,更生保護会に委託される対象者がいかなる特色をもっているかをながめてみよう。まず,これら対象者の性別をみると,九八%までが男子で,年齢別をみると三〇才以上の者が七二%を占めている。また,保護対象種別をみると,全収容者の九五・六%が仮釈放および満期釈放の対象者である。刑務所入所回数をみると,入所経歴を有する者が九六・六%あり,三回以上の入所経歴者は全体の六五%以上を占めている。次に,更生保護会に収容された経験の有無および回数をみると,経験のあるものが全対象者の五〇%以上にも達し,収容経験二回以上の者だけでも一七・三%に達している。
 これらの状況からみて,更生保護会に収容委託される者は,単に生活環境面に問題があるのみならず,かなり非行性の進んだ犯罪前歴者が多く,したがって,これら収容者の更生には,きわめで困難な点のあることが推察できる。
 そこで,これらの対象者のなりゆきであるが,まず注目されることは,前掲二九六人中二四人(八・一%)の者が収容を委託された更生保護会へ入所せず,所在をくらましていることである。ことに,当該更正保護会が仮釈放の条件として,帰住地に指定されている場合においてさえ,一七七人中一七人(九・六%)の者が入所せずして,所在不明となっていることは,この種の仮釈放に,なお検討の余地のあることを物語るものであろう。
 最後に,更生保護会に収容された対象者の更生過程であるが,収容委託一月後の状況をみると,委託先の更生保護会に入所した二七二人のうち,一九三人(七一%)が引続き在会しており,五六人(二〇・六%)が住込就職等正当な理由により,当該更生保護会の許可を受けて退会している。これらの者については,かなりの程度その更生が期待されるのであるが,反面二三人(八・五%)の者が無断退会等の正当な理由のない退会をしているのである。
 右の調査結果からもうかがわれるように,更生保護会に収容保護される対象者はケースワークをする上に特にむずかしい事情をもっており,その意味においてまず,この業務を取り扱う保護観察所の担当者が保護の申し出を受けた際には,より綿密な調査と,より強力な指導をすることが必要であり,要するに,ケースワークの専門的教養を十分身につけた者が,その業務に当たることが望ましいといえる。そして,さらに重要なことは,更生保護会にケースワークやカウンセリングの専門家を常置することであるが,かりにそのような専門家を常置しようとする意欲が更生保護会の経営者にあったとしても,現在の更生保護会の経済的条件はその実現を許さないであろう。ともあれ,更生保護の対象者のうちで,もっとも更生のむずかしい対象者を収容保護する更生保護会の運営には,その経済的基盤の確立がまずもって切実に要請されるのである。