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 昭和38年版 犯罪白書 第二編/第三章/四/1 

四 刑務事故,反則

1 刑務事故,反則の概況

 刑務事故とは,未決,既決を問わず,広く刑務所に収容されているものについて発生した害悪事件を包括する。したがって,その発生は,時代の風潮,刑務所の制度,物的設備,人的条件,ことに施設全体の被収容者に対する処遇方針,あるいは被収容者の性格,被収容者相互の人間関係などを反映して,変転きわまりない様相を呈している。
 このような事実を,もっとも如実に示したのは,戦争直後における,刑務事故の悪質化と激増であった。その原因は,明らかに,当時の過剰拘禁と受入れ態勢の不備のみにとどまらず,民主々義のはきちがえからくる,収容者の官権に対する抗争的風潮の流行,インフレーションの進行に伴う有能な職員の採用難などと密接に関連していたものといえよう。
 しかし,その後過剰収容の緩和,分類収容の徹底とともに,戦争直後に見られたような,暴力による被収容者の身柄の奪取,暴力による集団破壊逃走,食糧問題に端を発する暴動などの事故は全く跡をたち,II-84表の示すとおり,最近は逃走事故も著しく減少したが,被収容者のうち,傷害,恐かつなどの凶悪犯罪を行なったものや,性格的に粗暴な傾向の著しいものが増加しつつあるため,その処遇の困難性の増大に比例して,抗命,暴行などの懲罰事犯や,それらの行為によって刑事処分を受けるものが増加しつつある点が注目される。

II-84表 刑務事故者数(逃走)・主要懲罰事犯発生件数・在所中の行為により刑事処分をうけた人員等の累年比較(昭和21〜37年)

 昭和三六年におけるおもな刑務事故は,II-85表に示すように一〇三件で,前年より七件の減少である。

II-85表 刑務事故・懲罰事犯発生件数および受罰実人員(昭和33〜37年)

 しかし,昭和三六年における懲罰事犯は,二三,四四二件(昭和三五年より二,四四九件増),受罰実人員三〇,四七八人(昭和三五年より三,五六三人増)で,刑務事故としては扱われないが,単に刑務所における紀律違反,すたわち反則として,その施設かぎりの行政罰(監獄法第五九条,第六〇条)にとどめている事件は,いぜん増加の傾向にあるといえよう。
 また,刑務所内における行為のため,刑事処分をうけた人員は,昭和三六年には二七四人で,昭和三五年の一七七人と比較すると著しい増加がみられた。この増加は,主として傷害によるもので,昭和三六年には二三〇人(昭和三五年は一三九人)におよんだ。