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 昭和38年版 犯罪白書 第二編/第三章/三 

三 刑務所の問題点

 今日の刑務所の運営には種々解決しなければならない問題があるが,とくに重要と思われる点は,従来から,しばしば主張されてきている,
(1) 監獄法令の改正
(2) 矯正処遇の合理化としての開放処遇制度の採用
(3) 医療専門施設の拡充と分類センター制度の全国的採用
(4) 給食の改善
の四点に加えて,とくに次の点を検討する必要があろう。
 その第一の点は,最近における受刑者数の減少に対応して,真の矯正の目的にふさわしい,職員の勤務体制の合理化を促進することである。これはその過重勤務から解放するのみでなく,もっとも難点とされてきた受刑者の夜間指導(夕食から就寝まで)を,十分に行ない得るだけの職員数の確保,分類関係専門職員の増員(昭和三八年度予算では,分類センター要員として三一名の心理専門技官の定員が,組替えによって認められたが,現実の問題解決にはほど遠い),職業訓練専門職員の増員,心理療法およびカウンセラー制度の採用など,この機会に着実な構造のもとに推進すべきであろう。
 これにともなって,職員の資質の向上について,研修機関の拡充,大学あるいは専門課程の通信教育受講の奨励,内地あるいは外国留学制度の採用なども,ぜひ実現する必要があろう。
 第二に,矯正施設の近代化である。現在の多くの刑務所は,比較的古い時代の建築であり,設備もまた古く,刑務所であればこそ,その不便に耐えてきたというような面が少なくない。幸い昭和三七年から名古屋,福岡,静岡,滋賀,松江などの施設が,移転を機会に改築されることになっているが,処遇の公平を期するという点からも,採光,照明,温度調節,ことに冬季暖房,食堂,便所,面会所等の改良が,最低限度行なわれるべきであろう。また,生産工場にせよ,職業訓練工場にせよ,その設備は,受刑者の社会復帰とにらみ合わせ,その近代化が必要である。さらに,従来成人刑務所には,その設備をほとんど欠いている教室,大小の集会室あるいは屋内運動場は,夜間指導あるいは余暇利用の必要性が強調されている今日では,更生保護委員,篤志面接委員のための面接室や集団および個別のカウンセリング・ルームとともに,ぜひとも設備しなければならない。
 第三に,処遇のための機構の合理化があげられる。その具体的施策は,従来とりあげられてきた分類センター,医療刑務所あるいは開放施設の拡充強化に加えて,少年矯正の面で試行にはいったような施設の特殊化,すなわち,現在の分類をより精密化した方向の実現にあることはいうまでもない。しかし,そのためには,施設(分類)に応じた刑務作業の運営の合理化をふくむ処遇プログラムの確立,さらに,その効果についての評価基準の作成などが必要であり,実験的研究を前提として,はじめて可能となるのであるから,すみゃかに,その研究に着手すべきであろう。また,社会的に注目をあびている麻薬関係犯罪者,道路交通関係犯罪者あるいは暴力関係犯罪者については,その処遇方法について,思い切った新しい方法が研究され,採用されなければならないであろう。
 最後に,矯正の効果は,施設における処遇がもっとも効果のあがった時期に社会に復帰させ,適当な保護観察を加えるところにあるといわなければならない。その意味で,保護観察官を施設に駐在させる制度(現在,中野刑務所に一名試験的に配置されているのみ)を,ぜひ実現するとともに,釈放前教育制度を確立し,あわせて満期釈放者に対しても,適当な方法で,保護観察を行ないうる制度を採用することなどが必要である。