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 昭和38年版 犯罪白書 第二編/第三章/二/2 

2 入所時の処遇

 新たに刑が確定し,刑務所に入所した受刑者に対しては,第一に,刑の言渡しあるいは拘禁からくる精神的不安定を解消し,刑務所の目的と実際とを理解させ,受刑生活を有意義に送らせるためのオリエンテーション・プログラム(入所時教育訓練)と,第二に,矯正の目的を達成するために,個々の受刑者について,最も適切な取扱いおよび訓練の方針を確立するための分類調査と,収容施設の選定とが行なわれる。

(一) オリエンテーション・プログラム

 オリエンテーション・プログラム(入所時教育訓練)は,おおむね入所後一五日以内に,オリエンテーション・プログラムの目的と内容,受刑の意義,矯正および更生保護の目的と機能,刑務所の機構と処遇の概要,所内規則と日常生活上の心得などについて指導するよう,一定のプログラムのもとに行なわれている。また,その実施にあたっては,形式的に収容生活に必要な知識を教えこんだり,入所時の心身の不安をとり除いたりするだけでなく,このプラグラムを通じて,受刑者みずからが改善しようとする機会を得るように方向づけるため,最善の努力がなされている。
 したがって,オリエンテーション・プログラムには,刑務所の各部課職員ばかりでなく,更生保護委員会や保護観察所の職員,あるいは職業安定所の職員が参加し,映画,スライド,パンフレットなどを利用し,集団討議や個別カウンセリングの技術も応用してなされている。
 また,施設内生活の変化(たとえば,作業種目の変更,移送,更生保護委員面接,釈放など)に際しても,入所時に準じてオリエンテーションを行なう必要があるので,それぞれプログラムを組んでいる施設が多い。

(二) 分類調査

 分類調査は,個々の受刑者について,科学的な診断を行ない,それぞれのもつ問題と資質との関係を明らかにし,その上に,もっとも有効適切な処遇計画をたてることをねらった一連の手続きとしてなされる。したがって,次のような過程における調査が含まれる。すなわち,最初に医学,精神医学,心理学,社会学,教育学などの知識をできるだけ活用して正確な診断を行ない(鑑別),次には,その者にもっとも適した処遇施設を指定し(施設分類),それぞれの施設内で処遇を配分し(細分類),処遇の実施にもとづいて当初の処遇方針を検討し(再分類),最後に社会生活への橋渡し(釈放前教育分類)がなされる。
 調査資料としては,犯罪の内容・経過,生活史(家族歴,生育歴,病歴,非行・犯罪歴,職歴,交友歴など),心身の特質(知能,性格,学力,適性,健康,趣味,娯楽など),家庭状況,近隣関係および所属集団などの資料,本人の日常を監督する任にある職員が,本人を観察して知り得た資料,また,少年院・刑務所などの施設収容の経験のあるものについては,とくにその記録等が用意される。
 入所時に行なう分類調査は,まず,このような資料を収集し,次に,それらを総合して,個々の受刑者について,その個性をは握し,改善性の難易,すなわち矯正教育の全般的な見通しをたてるとともに,その条件として,事故,反則の予測,教育訓練の内容,方法,対人関係の調整,保護上の必要な処置,作業あるいは職業訓練の種目とその指導方法,医療保健上注意すべき点を鑑別するわけである。
 このような鑑別の結果を生かすためには,徹底的に個別的な処遇を行なう必要があるが,現実には,受刑者をいくつかのグループに分類し,それらのグループをそれぞれ別個の施設,または施設内の区画された部分に収容する方法をとっている。同質の受刑者を一つのグループにまとめることによって,共通の処遇条件を確立し,その上に立って処遇を行なうことは,個別処遇を効率的に実現するばかりでなく,処遇の設備もまた集約的に整備できる利点があるからである。入所時分類調査の第三の仕事は,このような施設分類(収容分類)の級の決定にあるということができる。
 現在とられている施設分類は,「所定の刑期を通じての矯正の可能性の見通し」の別を中心に,国籍別,性別,年齢別(成人・少年の別),刑期別(長期・短期の別),刑名別(懲役・禁錮の別),心身の障害の有無による区別などに,その基準をおき,次の一一級としている。この中には,地域の特殊性,該当人員,施設の整備,移送等の問題があって,一部の地域においてのみ実施されているものもあるが,いずれも必要な分類であって,N級を除いては,全国的に実施されることを要請されているものである。
A 性格がおおむね正常で,改善容易と思われるもの
B 性格がおおむね準正常で,改善の比較的困難と思われるもの
G A級のうち二五才未満のもの
E G級のうち,おおむね二三才未満で,とくに少年に準じて処遇する必要のあるもの
以下の各級も,それぞれA(またはGあるいはE)Bに分けることを原則とする。
C 刑期の長いもの(おおむね実刑七年以上,ただし東京管内一〇年以上,福岡・仙台管内八年以上,札幌管内五年以上)
D 少年法の適用をうけるもの
H 精神病,精神病質および精神薄弱などで,医療の対象となるもの
K 身体の疾患または故障,老衰などにより,療養または養護を要するもの
J 女子
M 外国人
N 禁錮
 現在の分類級別施設数および人員は,それぞれII-69表およびII-70表のとおりである。

II-69表 分類級別刑務所数(昭和38年1月10日現在)

II-70表 受刑者分類級別人員と率(昭和37年12月25日現在)

(三) 分類センター

 分類制度を推進するため,昭和二三年東京拘置所に試設された関東行刑管区分類協議会は,わが国における専門家による強力な分類調査の最初の試みであったが,その成果は,今日の分類調査制度の基礎となったばかりでなく,一〇年を経た昭和三二年には画期的な中野刑務所分類センターの発足をもたらした。
 ここでは,一般に行なわれている一五日という分類調査のための期間を六〇日に延長し,精密な鑑別と,強力なオリエンテーションとを行なっている。六〇日の期間は,次のように三つの期間に分けられ,期間別に,適切な分類の手続と処遇内容とが定められている。
(1) 第一次判定期間 一五日間 この期間には,識別(本人であることの確認),身体検査および医学的検診,心理検査(知能,情意,学力,適性その他パーソナリティを解明する諸検査を含む),精神医学的診査,社会調査資料の収集(非行歴,犯罪歴を含む),行動観察,その他必要な調査を一定のプログラムに従って実施するとともに,綿密なオリエンテーションを,あらゆる角度から与える。
(2) 訓練観察期間 三五日間 第一次判定期間を終了したものは,第一次判定会議による検討を経て,訓練観察期間に編入される。ここでは,受刑者を総合適性試験工場に配属して,職業に対する興味を起こさせ,適性に応じた業種を見いださせるとともに,限られた刑務作業あるいは職業訓練種目を通じて,社会復帰に役だつ作業を体験的に与える。すなわら,この期間は,いわば職業訓練のオリエンテーション・コースであるが,同時に行なわれる行動観察は,第一次判定期間における判定結果を実際の生活場面において裏付け,処遇指針に具体性を与えるのに役だっている。
(3) 総合判定期間 一〇日間 今まで行なった本人についての,あらゆる調査,検査,観察の結果と,家庭,学校,勤め先などに照会して得た資料とを総合して,適切な収容施設と,処遇の方針および特に注意すべき点が決められる。また,この期間には,移送先の施設についての知識を与え,移送時の心構えなどを指導するとともに,受刑生活を有意義に送らせるための明確な動機づけを与えるオリエンテーションがなされる。
 現在,中野刑務所分類センターは,施設の設備の関係上,東京管内の一定の範囲の新入男子受刑者(昭和三七年二,六三六人)についてのみ,分類を行なっているが,昭和三八年度以降,大阪,名古屋,福岡,広島,札幌,仙台,高松などにも,同様の分類センターを設置する計画がすすめられている。