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 昭和38年版 犯罪白書 第二編/第一章/四 

四 被疑者の逮捕と勾留

 捜査は任意捜査を原則とし,強制捜査は法律のとくにさだめる場合にかぎり,例外的に行なわれる。強制捜査のうちで重要なのは,被疑者の身柄を拘束する逮捕と勾留である。
 昭和三六年の刑法犯と,道交違反を除いた特別法犯との合計の既済人員,および刑法犯のみの既済人員について,逮捕と勾留等の関係をみると,II-10表のとおりである。

II-10表 刑法犯・特別法史被疑者の逮捕勾留別人員(昭和36年)

 まず刑法犯,特別法犯の合計についてみると,逮捕された者は二三三,八一三人で,既済総人員の二七・二%にあたり,逮捕されない者は六二六,四九一人で,既済総人員の七二・八%である。すなわち,七割以上の者が逮捕されずに,在宅事件として処理されているのである。逮捕された者の一部は,検察官に送致される前に警察で釈放されるが,これは比較的少なく既済総人員の三・二%である。しかし,警察で逮捕された人員からみると一一・八%にあたり,警察で逮捕された者のうち一割以上がそのまま警察で釈放されていることになる。なお検察庁ではじめて逮捕される者もあるが,その数はきわめて少なく,既済総人員の〇・二%にすぎない。
 検察官が,身柄を拘束された被疑者な受理したのちの身柄の処理方法は,勾留請求,逮捕中公判請求,家庭裁判所に送致,釈放などである。勾留の請求がなされると,裁判官によって勾留の必要がないと認められないかぎり,勾留状が発付されて勾留される。こうして勾留された者は一四九,六二六人で,総人員の一七・四%にあたる。なお勾留請求が却下された者は一,四二二人で,この却下率は請求総数の〇・九%にすぎない。次に検察官が釈放した数は三五,八六四人で,総人員の四・二%にあたり,検察官が身柄事件として受理した事件のうちの一七・八%となる。百人のうちの一八人近くが,検察官の手もとで釈放されているわけである。
 なお少年については,勾留の請求に代え,裁判官に対し観護措置の請求をすることがあるが,その結果少年鑑別所に収容される等の措置がとられた数は二,五〇七人で,総数の〇・三%にすぎない。
 次に刑法犯のみについてみると,逮捕されたものが総人員の二八・八%,逮捕されないものが七一・二%で,特別法犯を含めた場合の割合と比較し,多少身柄拘束数が多くなっているが,大差はなく,逮捕後の措置についても,特別法犯を含めた場合と,それほど大きな違いはないが,勾留数が一九・六%となっていて,二・二%多くなっている。これは刑法犯は特別法犯より,身柄を拘束する必要が多いことを示すものである。
 勾留された被疑者が,その後どのような処分をうけたかを,昭和三六年の統計によって調べてみると,II-11表のとおりである。すなわち,道交違反を除く一般犯罪被疑者で勾留された者のうち,昭和三六年中に処分が決まった総数は一四九,七四一人であるが,その三九・四%が釈放され,勾留のままで公判請求されたものが四七・八%,勾留中に家庭裁判所送致となったものが一二・八%となっている。三九・四%の釈放は,釈放後公判請求されたものや略式手続により罰金刑をうけたものも多く含まれており,起訴猶予とかけん疑なしの不起訴処分を受けたものだけではないことを付言しておかなければならない。

II-11表 勾留被疑者の措置別人員(昭和36年)

 ところで,刑法犯のみについてみると,その割合は釈放が三六・四%と低くなり,勾留中公判請求が逆に四九・九%と高くなっている。これは刑法犯の場合の方が,身柄拘束のまま起訴する必要のある事件が多いことを示すものといえよう。
 次に,勾留された被疑者が,どの程度の期間勾留されているかという勾留期間の問題であるが,これを五日ごとに区分して百分率をみると,II-12表のとおりである。この表によると,刑法犯を含む一般犯罪と,刑法犯のみの場合とでは,その間に大差のないことがわかる。これは刑法犯であっても,その他の一般犯罪であっても,勾留する必要のある被疑者について捜査に要する日数は,それほど差はないことを示すものといえよう。一〇日以内に処理されるものが,一般犯罪で八〇・八%,刑法犯で八一・四%となっており,勾留されたもののうち八割以上が,一〇日の勾留期間内に処理されており,刑事訴訟法の精神にそって,早期事件処理に努めている事情がうかがわれる。一〇日を越えて勾留の延長期間にはいると,一五日以内に処理される数はきわめて少ないが,勾留延長を必要とするような事件については,延長の期間が五日以内では,容易に捜査を完了し得ない場合が多いことを示しているといえよう。なお,この表で二〇日を越えるものが掲載されているが,これは同一被疑者が他の事件で引き続き勾留され,前の期間と合計して二〇日を越えることとなったものであり,例外的なものであって,その数は少なく,総数の〇・二%にすぎない。(刑事訟訴法第二〇八条の二の規定によれば,内乱,外患,国交に関する罪,騒じよう罪については,二〇日の勾留延長を越えて,さらに最大限五日の勾留再延長が認められているが,昭和三六年中にはこの規定を適用した事例は見あたらない。)以上の統計は昭和三六年のものであるが,勾留期間については,累年だいたいにおいて,大差のない比率を示している。

II-12表 被疑者勾留期間別人員(昭和36年)

 なお,勾留人員は逐年減少の傾向がみられるが,各年の既済人員中の被勾留者の百分率は,昭和三三年が二〇・四%,三四年が一八・六%,三五年が一八・五%,三六年は一七・四%という数字が得られる。ここ数年において,漸次勾留を必要とする事案が減少しつつあるとみるべきであるのか,検察官が勾留請求を厳選するようになったとみるべきであるのか,今後さらに検討さるべきであろう。