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 昭和38年版 犯罪白書 第二編/第一章/三 

三 被疑事件の受理

 昭和三六年中に全国の検察庁で,新規に受理した事件の被疑者の総数(検察庁間の移送または家庭裁判所からの送致による受理人員数および事件の再起による受理人員数を除く。以下同じ)は,三,七三一,一七二人である。
 これを刑法犯,道路交通法違反および同法に基づく命令の違反(以下,道交違反という)ならびに道交違反以外の特別法犯(以下,単に特別法犯という)の三者別に,昭和三五年の数とともに示すと,II-5表のとおりとなる。

II-5表 新受人員数の内訳(昭和35,36年)

 すなわち,刑法犯は総数の一七・二%,特別法犯は四・七%にすぎず,道交違反が実に七八・一%を占めている。これを前年度と比較すると,総数において九・四%増加しているが,刑法犯はわずかに二・三%の増加にすぎず,特別法犯はかえって一六・九%と大幅に減少し,道交違反のみは一三・三%と大きく増加している。しかし前年の増加率三二・五%に比較すると,その増加率は非常に減少しているとみなければならない。
 昭和三六年の道交違反は,新規受理絵数の七八・一%におよんでいることは,前述のとおりであるが,昭和三一年以降の状況をみると,II-6表のとおりとなる。

II-6表 道交違反被疑者新規受理状況(昭和31〜36年)

 すなわち,昭和三二年から昭和三四年までの三年間は,総数の七〇%内外であったが,昭和三五年には七五・四%を占め,昭和三六年には,さらに七八・一%に増加している。また昭和三一年の新規受理数を一〇〇とする指数によってその増加率をみると,昭和三二年は一一七と増加し,その後三年間は横ばい状況を続け,昭和三五年は一五六,昭和三六年は一七六と大幅な増加を示している。
 このように,道交違反の受理は三〇〇万に近づき,全事件の八割近くに及んでいるのである。もっとも,検察庁における道交違反の処理は,他の事件に比しかなり負担が軽いようであるが,それにしても,これだけの数字になると,全体としての負担は容易なものではない。この点は取締りの第一線にある警察も,また裁判所も同様である。これに対する根本的な対策が必要であることは,さきに特殊犯罪中の交通犯罪の項で詳細に述べたとおりである。
 次に,昭和三六年の刑法犯の主要罪名別受理状況をみると,II-7表のとおりである。

II-7表 刑法犯主要罪名別受理人員(昭和36年)

 この表で最も目につくのは,贈収賄の顕著な増加である。贈収賄は,さきに特殊犯罪中の公務員犯罪の項で述べたとおり,検挙捜査がむずかしく,この数字をもって直ちに犯罪発生の実体を示すものとはいい難いが,捜査活動がこの方面に力を注いできているものといいうるであろう。今後の動向をみまもるべきである。
 次は,とばく・富くじであるが,この種犯罪は昭和二四年に五三,二五〇人の受理を記録して以来,逐年急速に減少し,一〇年後の昭和三四年には実に五,九四五人にまで激減したのであるが,昭和三五年以後再び増加しはじめたことは注意しなければならない。
 次は,業務上過失傷害の増加である。この数字には業務上過失致死も含まれているが,逐年増加しており,その大部分は自動車事故によるものである。今後も自動車の増加に伴い,道交違反とともに増加してゆくものと考えられるが,これに対処するため,昭和三七年七月一日東京地方検察庁と大阪地方検察庁に「交通部」が新設され,この種交通犯罪を専門的に取り扱うこととなった。その他,失火,公務執行妨害,恐かつ,強制わいせつ,強かん等に増加がみられるが,特に顕著な傾向を示すものは見あたらない。ただ,さきに性犯罪の項で触れたとおり,強制わいせつ・強かんが,売春防止法の罰則規定が実施になり,輪かん事件が親告罪からはずされた昭和三三年に急激に増加し,その後は,それまでの約二倍の数字を示したまま,いっこうに減少しないのは注目すべきであり,その原因についていろいろの面から検討する必要があるように思われる。
 次に少年事件の受理状況をみると,II-8表のとおりである。

II-8表 少年被疑者の受理人員(昭和33〜36年)

 すなわち,昭和三三年以降三年間は順次増加の傾向にあり,特に昭和三五年はその前年に比し二六・三%も増加したのであるが,昭和三六年は一・七%の減少を示している。しかし,このことから,少年犯罪が減少しはじめたと速断すべきではない。むしろ,道交違反事件,特別法犯の減少にかかわらず,一般刑法犯は五・九%の増加を示していることに注意すべきである。これを刑法犯の主要罪名についてみると,II-9表のとおりである。

II-9表 少年被疑者の刑法犯受理人員(昭和36年)

 昭和三六年に最も高い増加率を示したのは,窃盗の一〇・四%である。窃盗は,戦後社会の安定とともに,昭和二五年以後逐年減少していたのであるが,昭和三三年以後再び増加の傾向を示しはじめていることは,注意されなければならない。窃盗に次いで増加しているのは,賍物の四・〇%,強制わいせつ・強かんの二・九%,傷害の一・八%であり,逆に減少している罪種は,横領の一三・九%,強盗の一一・二%をはじめ詐欺,恐かつである。強制わいせつ・強かんは昭和三三年を頂点として,順次減少の傾向にあったのであるが,昭和三六年にさ少ではあるが増加しており,昭和二五年以後同三二年までの受理数と比較すれば,きわめて高い数字を示していることに留意しなければならない。次に恐かつ罪は昭和三〇年に急激に増加して以来,逐年増加の一途をたどっていたが,昭和三六年にはともかくも〇・七%の減少を示し,いわゆる頭打ちの状態になったことは注目されてよいであろう。
 次に,II-7表II-9表とを対比してみよう。すなわち,全刑法犯受理人員中少年の占める割合は,二五・一%となるが,特別法犯における一・〇%,道交違反における一三・四%という数字に比較すると,刑法犯における少年被疑者の占める率は大きいといわなければならない。そしてその刑法犯の中で,少年が占める比率の最も大きいのは強かつであって,全数の五〇・七%が少年となっている。これに次いで,強制わいせつ・強かんの五〇・〇%,強盗の四六・三%となっており,殺人は平均より低く一二・九%にすぎず,横領は七・八%,詐欺に六・五%と非常に低率である。恐かっや強制わいせつ・強かんにおいて,その半数が少年被疑者であるという現実は,特に注目されなければならない。