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 昭和38年版 犯罪白書 第二編/第一章/二 

二 捜査の端緒

 検察庁における捜査開始の事由は千差万別であるが,最近四年間に検察官が処理した事件(道交違反事件を除く)について,各年別にその捜査の端緒を大別すると,II-1表のとおりである。

II-1表 最近4か年の捜査の端緒別検察庁処理人員(昭和33〜36年)

 これによると,全処理事件の九五・三%ないし九七・一%までが,司法警察職員においてその捜査の端緒をつかみ,これを捜査したのち検察官に送致(または送付)した事件となっている。このように,その大半が司法警察職員の送致(または送付)した事件となっているのは,警察が捜査の第一次的責任を負っている現行の制度からみて,けだし当然のことであろう。
 昭和三六年における検察官認知,直受事件についてみると,II-2表のとおり,検察官認知が四六・七%で半数に近く,告訴の三四・〇%がこれに次ぎ,公務員による告発が一五・二%,その他の告発が三・六%,自首が〇・四%となっている。検察官認知は,検察官が投書,風評,新聞記事等から捜査の端緒をつかむ場合と,他事件の捜査中,あらたな犯罪の捜査の端緒を発見する場合とがある。検察官に対する告訴の割合がかなり大きいのは,特に検察官の捜査を希望する者が少なくない結果であるが,この種の事件の中には,告訴を民事事件の解決に利用しようとするものもあり,起訴の比率は必ずしも高くない。公務員による告発は,税法,たばこ専売法違反等についての主務官庁が,直接検察庁に告発する事件が大半であるが,この種事件の起訴の比率は,右の告訴事件に比し,きわめて高くなっている。

II-2表 検察官の認知・直受事件(昭和36年)

 次に司法警察員による送致(付)事件についてみると,II-3表のとおりであり,これは司法警察職員探知が九五・七%となっており圧倒的に多い。もっともこの中には,本当の意味の探知だけでなく,被害者の届出に基づくものも多く含まれている。その他は告訴二・六%,公務員による告発一・四%,その他の告発〇・一%,自首〇・一%と,いずれも小さな割合である。しかし,これは司法警察職員探知の事件数が膨大であるためであって,司法警察職員に対する告訴告発の実数は,II-1表にみられるとおり,検察官に対する告訴告発の事件数の二・五倍以上になっていることを考慮に入れておく必要がある。

II-3表 司法警察員による送致(付)事件(昭和36年)

 次に,II-1表によると,告訴告発事件総数が逐年減少の傾向にあることが注目される。すなわち,告訴告発事件処理人員数と,その年の全処理人員数に対する比率は次のとおりである。
昭和三三年 六三,〇一一人(七・六%)
昭和三四年 五八,四〇六人(六・五%)
昭和三五年 五六,二八〇人(六・八%)
昭和三六年 四八,六六七人(五・六%)
 また,告訴事件のみについてみても,
昭和三三年 三八,八九八人
昭和三四年 三七,九一一人
昭和三五年 三二,二〇五人
昭和三六年 三一,三一三人
となっており,明らかに減少の傾向がみられる。いったい,どのような原因から,このような傾向が生じたのか。その点の解明はまだ十分なされてはいないが,国民経済生活の安定化による犯罪そのものの減少によるものか,あるいは,その他の特殊な理由によるものか,今後とも注目を続ける必要があるように思われる。
 次に,捜査の端緒別に起訴(公判請求,略式命令請求),不起訴(起訴猶予,犯罪のけん疑なし,その他)の実数と,処理総数に対する百分比を算出してみると,II-4表のとおりである。

II-4表 検察庁における捜査の端緒別処理区分(昭和36年)

 まず,起訴の合計は処理総数の四四・二%,公判請求は一四・五%である。検察官認知と直受の合計でみると,起訴の合計は二〇・〇%,公判請求は七・八%と低下している。その内訳を検討すると,前述のように公務員による告発の起訴が六五・四%と高率を示しているが,この種事件は罰金刑を科することが多いため,公判請求は一四・三%にすぎない。次に検察官認知の起訴率は一七・三%であるが,検察官が認知した事件の起訴率としては低いようにも思われる。しかし,前二年の状況をみても,ほぼ同様で,いずれも二〇%に達していない。検察官に対する告訴事件の起訴率が低いことは前にもふれたが,わずかに四・六%で,しかも,犯罪のけん疑なしとして不起訴処分となったものは六〇・七%に達している。これは民事事件の解決に利用しようとするものや,事案が複雑で犯罪の証明が困難なもの等が多いためと思われるが,検察庁においては,このいわゆる直告事件に相当な労力を費やしている。なお,自首は実数こそ少ないが,起訴の比率は五〇・〇%となっていてきわめて高い。これは,自首事件は証拠の収集が比較的容易であるうえ,起訴に値する事案が多いためであると思われる。
 司法警察員送致の合計をみると,起訴四五・〇%,うち公判請求は一四・七%である。この内訳をみると,まず,司法警察員の探知した事件の起訴が四六・二%と高く,公務員の告発事件がこれに次ぎ二〇・〇%となっているが,検察官に対するものと比較すれば,はるかに低率であることがわかる。一方,告訴事件の起訴は一四・七%で,これは検察官に対する告訴事件の起訴率と比較すると,きわめて高率になっていることが注目される。これは同種の端緒によるものであっても,事案の性質がかなり違っているためであると思われるが,なお検討を要するところである。自首は検察官に対する場合と同様起訴率が高く,特に公判請求の率が非常に高いことが目につくが,殺傷事件等が多いためと思われる。