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 平成10年版 犯罪白書 第3編/第5章/第2節/4 

4 自己適応感

(1) 生き方についての満足度

 III-84図は,今の自分の生き方についての満足度を前回調査と比較したものである。満足とする者の比率は,男女共にわずかながら前回を下回っている。逆に,不満とする者の比率は,男女共に上昇しており,自分の生き方についての満足度は低くなっているといえる。

III-84図 今の自分の生き方に対する満足度(経年)

 生き方についての満足度を少年院在院少年と短期保護観察少年とで比較した結果を示したものがIII-85図である。満足とする者の比率は男女とも短期保護観察少年の方が高く,特に,短期観察男子では,ほぼ半数に上っている。一方,少年院在院少年では,男女とも不満とする者が満足とする者を上回り,4割前後に上っている。

III-85図 今の自分の生き方に対する満足度(非行性)

(2) 自己意識

 「あなたは,日ごろの生活で,次のように感じることがありますか」との問いにより非行少年の自己意識を見た結果を,前回調査と比較したものがIII-86図である。まず,男子では,「心のあたたまる思いが少ない」,「世の中は結局金だけが頼りだ」,「自分だけが悪く思われている」,「意志が弱い」などと感じることが「ある」(「ある」は,「よくある」'と「ときどきある」の合計。以下同じ。)とした者の比率が前回を下回っている。また,女子でも「世の中から取り残されている」,「世の中は結局金だけが頼りだ」,「心のあたたまる思いが少ない」,「自分だけが悪く思われている」,「何をやってもダメな人間だ」などと感じることが「ある」とした者の比率がかなり低下している。このように,男女とも自己疎外感,被害感,落ご感等の否定的な意識が全般的に薄らいできていることが指摘できる。一方,特に男子で,「努力が実ってきている」,「物事に打ち込んでいる」,「世の中の人々は助け合っている」と感じることが「ある」とした者の比率が上昇している。

III-86図 自己意識(経年)

 なお自己意識については比較的男女差が大きく,「自分の性格がいやになる」,「何をやってもダメな人間だ」,「自分しか信じるものがない」などの否定的な意識をもつ者は女子の方に多く見られ,「物事に打ち込んでいる」,「努力が実ってきている」,「世の中の人々は助け合っている」などの肯定的な意識をもつ者は男子の方に多く見られる。
 次に,自己意識と非行性との関連を見るために,少年院在院少年と短期保護観察少年とで比較したものがIII-87図である。

III-87図 自己意識(非行性)

 男女別に見ると,否定的な意識に関する項目については,すべて少年院在院少年が短期保護観察少年を上回っており,非行性が進むにつれて,こうした意識が強くなる傾向が顕著に認められる。特に「意志が弱い」,「自分の性格がいやになる」,「自分だけが悪く思われている」,「世の中から取り残されている」などの各項目で,男女共に大きな差が見られる。一方,肯定的な意識に関する項自のうち,「物事に打ち込んでいる」,「努力が実ってきている」については,特に女子で,少年院在院少年が短期保護観察少年を上回っている。しかしながら,「頼りにされている」では少年院在院少年が短期保護観察少年を大きく下回っており,少年院在院少年は,自分の努力を自らはある程度評価しているものの,他者からは頼りにされていないと感じていることがうかがえる。