前の項目   次の項目        目次   図表目次   年版選択
 平成 8年版 犯罪白書 第2編/第3章/第3節/3 

3 保護観察

(1) 概  説
 保護観察は,犯罪者や非行少年に通常の社会生活を営ませながら,一定の遵守事項を守るように指導監督するとともに,必要な補導援護を行うことによって,その改善更生を図ろうとするものである。
 保護観察対象者の種類と保護観察の期間
[1] 保護観察処分少年(家庭裁判所の決定により保護観察に付された者) 
 原則として保護観察決定の日から20歳に達するまでで,20歳までの期間が2年に満たない場合は,決定の日から2年間
[2] 少年院仮退院者(少年院を仮退院した者)
 原則として少年院を仮退院した日から20歳に達するまでの期間
[3] 仮出獄者(行刑施設を仮出獄した者)
 原則として仮出獄の日から残刑期間が満了するまでの期間
[4] 保護観察付き執行猶予者(刑の執行を猶予され保護観察に付された者)
 判決確定の日から執行猶予の期間が満了するまでの期間
[5] 婦人補導院仮退院者(婦人補導院を仮退院した者)
 婦人補導院を仮退院した日から補導,処分の残期間が満了するまでの期間
 II-45図は,昭和51年以降において保護観察所が新規に受理した保護観察対象者の人員(以下,本項において「新規受理人員」という。)を,保護観察の種類別に示しかものである(巻末資料II-18参照)。受理総数を見ると,59年に10万2,737人に達した後,61年,平成元年及び2年を除き,減少に転じていたが,7年も,前年より減少して7万1,851人となっている。
 なお,平成4年から3年続けて増加していた保護観察付き執行猶予者は,前年と比べ198人減少している。

II-45図 保護観察新規受理人員の推移(昭和51年〜平成7年)

 次いで,平成7年における新規受理人員を保護観察の種類別に見ると,保護観察処分少年が5万1,075人(71.1%)で最も多く,以下,仮出獄者が1万2,138人(16.9%),保護観察付き執行猶予者が4,856人(6.8%),少年院仮退院者が3,782人(5.3%)となっている。
 なお,保護観察処分少年のうちには,後述する短期保護観察少年及び交通短期保護観察少年の新規受理人員2,708人,3万1,717人がそれぞれ含まれている。
 以下では,交通短期保護観察少年を除く新規受理人員4万134人について,罪名・非行名別及び年齢層別・保護観察の期間別に見ることとする。
ア 罪名・非行名
 II-46図は,平成7年における新規受理人員を罪名・非行名別に見たものである。構成比が高い罪名・非行名を上位第二位まで挙げると,保護観察処分少年では道路交通法違反,窃盗,少年院仮退院者では窃盗,傷害,仮出獄者及び保護観察付き執行猶予者では窃盗,覚せい剤取締法違反となっている。

II-46図 保護観察対象者の罪名・非行名別構成比(平成7年)

イ 年齢層と保護観察の期間
 平成7年の新規受理人員を年齢層別に見ると,II-47図のとおりである。
 II-48図は,仮出獄者のみを取り上げ,新規受理人員を保護観察期間別構成比で見たものである。平成6年,7年共に,前年と比べ保護観察期間が3月以内の者の比率が若干低下し,1年以内及び1年を超える者が若干上昇している。

II-47図 保護観察対象者の年齢層別構成比(平成7年)

II-48図 仮出獄者の保護観察期間別構成比(昭和61年〜平成7年)

(2) 保護観察処遇の状況
ア 保護観察官と保護司
 保護観察を行う機関である保護観察所は,平成7年12月31日現在,全国で本庁50庁,支部3庁,駐在官事務所27か所が設けられている。保護観察処遇は,原則として保護観察官と保護司との協働態勢によって行われている。
 保護観察官は,更生保護に関する関係諸科学に基づく専門的知識による活動を行い,また,法務大臣から委嘱を受けた民間篤志家である保護司は,地域性・民間性を生かした活動を行っている。
 保護司は,保護司法(昭和25年法律第204号)によって,犯罪を犯した者の改善及び更生を助けるとともに,犯罪の予防のため世論の啓発に努め,もって地域社会の浄化を図り,個人及び公共の福祉に寄与することが,その使命とされ,人格や行動について社会的な信望があること,職務の遂行に必要な熱意と時間的余裕があることなどの資格要件が定められており,また,守秘義務等の責任が課せられている。
 保護司には,給与は支給されないが,職務に要した費用の全部又は一部が実費弁償金として支給される。
 保護観察官は,保護観察開始当初において,対象者との面接や関係記録等に基づき,保護観察実施上の問題点や方針等を明らかにし,処遇計画を立てる。保護司は,この方針に沿って,面接や訪問等を通して対象者やその家族と接触し,指導・援助を行っている。こうした処遇の経過は,毎月,保護司から保護観察所に報告され,これを受けた保護観察官は,保護司との連携を保ちつつ必要に応じ対象者と面接するなどして,状況の変化に対応した処遇上の措置を講じている。
 保護司の定数は,昭和25年に保護司法で5万2,500人を超えないものと定められ,以来,現在まで変わっていないが,法務省保護局の資料によると,実人員は,60年以降,4万8,000人台で推移し,平成7年12月31日現在,4万8,776人となっている。
 II-49図は,昭和32年以降における女性保護司の男女総数に対する比率を見たものである。女性保護司の比率は,年々上昇し,平成7年には22.2%となり,その比重が一段と大きくなっている。

II-49図 女性保護司比の推移(昭和32年〜平成7年各12月31日現在)

 II-50図II-51図は,それぞれ保護司の経験年数別・職業別に,平成7年12月31日現在における各構成比を示したものである。経験年数別では10年以上が51.3%で,半数を占め,職業別では,会社員・公務員の19.7%が最も高く,以下,農林漁業14.8%,主婦13.6%と続き,これらで約半数を占めている(保護司組織については本章第4節参照)。

II-50図 保護司の経験年数別構成比(平成7年12月31日現在)

II-51図 保護司の職業別構成比(平成7年12月31日現在)

 保護司の処遇能力を高めるため,保護観察所では,保護司に対する各種研修を定期的,計画的に実施している。法務省保護局の資料によると,平成7年4月から8年3月までの1年間に行われた研修は,次のとおりである。
[1] 初任保護司に対する新任研修(130回,受講者3,176人)
[2] 経験年数2年未満の者に対する第一次研修(55回,同2,867人)
[3] 経験年数4年未満の者に対する第二次研修(57回,同2,863人)
[4] 特別な処遇方法に関する特別研修(448回,同2万7,389人)
[5] 地域別に実施する定例研修(4,140回,同延べ人員13万3,475人)
イ 分類処遇制度
 分類処遇は,保護観察処遇の難易に応じて対象者をA・Bの2段階に分類し,問題が多く処遇が困難であると予測されるA分類の者に対しては,保護観察官による直接的処遇を積極的に行おうとする制度である。
 II-52図は,昭和63年以降における保護観察対象者について,A分類とされた者の比率を見たものである。少年院仮退院者を除き,A分類率は上昇傾向にある。平成7年におけるA分類率は,少年院仮退院者が最も高く,仮出獄者がこれに次いでいる。

II-52図 A分類率の推移(昭和63年〜平成7年各12月31日現在)

ウ 類型別処遇制度
 類型別処遇は,平成2年5月から実施されている施策である。これは,覚せい剤事犯対象者,シンナー等濫用対象者等,保護観察対象者の持つ問題性その他の特性をその犯罪・非行の態様,環境条件等によって11区分に類型化した上,各類型ごとに具体的な処遇指針を例示し,その特性に焦点を合わせた処遇を実施し,分類処遇とは別の角度から処遇を充実させようとするものである。
 II-53図は,平成7年12月31日現在における保護観察対象者のうち,各類型に該当する者の占める比率を,保護観察の種類別に示したものである。

II-53図 保護観察対象者の類型別該当率(平成7年12月31日現在)

 類型別処遇は,通常個別的に行われているが,これに加えて集団処遇を実施している保護観察所が少なくなく,法務省保護局の資料によると,平成7年は,全国で,各種合わせて251回(実施人員3,104人)の集団処遇(交通短期保護観察少年の集団処遇を除く。)が実施されている。
エ 定期駐在制度
 定期駐在は,市区町村や公的機関,更生保護施設の各施設等,あらかじめ定められた場所に,保護観察官が,例えば毎週又は毎月定期的に出張し,対象者やその家族等関係者との面接,家庭訪問,保護司との連絡等を積極的,効率的に実施しようとするものである。更生保護施設で行う場合は,夕刻から夜間にかけて,又は宿泊の上,実施されている。
 II-29表は,最近5年間における定期駐在の実施回数と駐在場所における被面接人員(保護観察対象者等)を見たものである。定期駐在は,保護観察官の地域活動の拠点となるものであり,遠距離のために保護観察所への出頭が困難な対象者に対する面接等に活用されている。また,保護観察官は,非行問題等に関する地域住民からの相談に応ずるなどの業務も行っている。

II-29表 定期駐在実施状況(平成3年〜7年)

オ 短期保護観察制度
(ア) 交通短期保護観察
 交通関係業過や道交違反で保護観察処分に付された少年のうち,家庭裁判所により,保護観察の期間は短期が相当であるという処遇勧告がなされた者に対しては,安全運転に関する集団処遇を行うとともに,毎月1回,自己の生活状況を報告させ,この間に車両の運転による再犯がなければ,原則として3か月以上4か月以内に保護観察を解除する交通短期保護観察制度が,昭和52年4月から実施されている。
 II-30表は,最近3年間における交通短期保護観察少年の受理・終了人員と集団処遇の実施状況を示したものである。

II-30表 交通短期保護観察少年の受理・終了人員と集団処遇実施状況(平成5年〜7年)

(イ) 短期保護観察
 平成6年9月から,交通関係業過や道交違反以外で保護観察処分に付された少年について,おおむね6か月以上7か月以内を実施期間として,一定の課題を与えた上で重点的な指導を行うとともに,定期的に自己の生活状況を報告させることを中心とした短期保護観察制度が実施されている。
カ 応急の援助
 保護観察官又は保護司は,保護観察対象者が,病気,けが,適当な住居や職業がないなどの事情により,その更生が妨げられるおそれがある場合には,公共の福祉機関等から必要な援助が得られるように助言・指導を行っているが,その援助が直ちに得られない場合,又は得られた援助だけでは十分でないと認められる場合には,保護観察所において,具体的な援助を行っている。これを応急の援助といっている。
 応急の援助には,[1]保護観察所が自ら行う食事・衣料給与・医療援助・帰住旅費支給等の自庁保護・[2]更生保護施設や個人に委託して行う宿泊保護があるが,平成7年におけるこれらの実施人真は,II-31表のとおりである。
 これを援助の内容別に見ると,更生保護施設等への宿泊保護委託や食事給与,衣料給与が多い。また,これを被保護者の種類別に見ると,仮出獄者が圧倒的に多い。

II-31表 援助措置の実施人員(平成7年)

キ 成績良好者に対する措置
 保護観察の期間中に,行状が安定し,再犯のおそれがなくなったと認められる者に対しては,次のような措置(良好措置)が執られる。
[1] 保護観察処分少年    保護観察を終了させる解除保護観察を一時停止させる良好停止
[2] 少年院仮退院者     保護観察を終了させる退院
[3] 仮出獄者        刑の短期を経過した不定期刑仮出獄者について刑の執行を受け終わったものとする不定期刑終了
[4] 保護観察付き執行猶予者 保護観察を仮に解除する仮解除
 保護統計年報等によると,平成7年に執られた良好措置は,解除4万7,092人(前年5万2,744人),うち交通短期保護観察少年3万1,790人(同3万7,006人),良好停止134人(同145人),退院897人(同926人),不定期刑終了なし(同当人),仮解除934人(同1,009人)となっている。
ク 成績不良者に対する措置
 保護観察の期間中に,遵守事項違反,再犯等のあった者に対しては,次のような措置(不良措置)が執られる。
[1]保護観察処分少年     家庭裁判所へ新たな処分を求める通告
[2] 少年院仮退院者     少年院に再収容する戻し収容
[3] 仮出獄者        所在不明になった者について,刑期の進行を止める保護観察の停止行刑施設に再収容する仮出獄の取消し
[4] 保護観察付き執行猶予者 行刑施設に収容する刑の執行猶予の取消し
[5] 婦人補導院仮退院者   婦人補導院に再収容する仮退院の取消し
 保護統計年報及び法務省保護局の資料によると,平成7年に執られた不良措置は,通告37人(前年35人),戻し収容10人(同8人),保護観察の停止726人(同728人),仮出獄取消し898人(同920人),刑の執行猶予の取消し1,423人(同1,457人)となっている。
 なお,対象者が,一定の住居に居住しない場合や,遵守事項に違反したと疑うに足りる十分な理由があって,かつ,保護観察所長の呼出しに応じないなどの場合には,裁判官の発する引致状により引致を行い,さらに,必要に応じて,一定の期間,所定の施設に留置する措置が執られる。平成7年において引致された者は188人(前年212人),留置された者は134人(同165人)である。
(3) 保護観察の実施結果
ア 保護観察終了時の状況
 II-54図は,平成7年に保護観察を終了した者について,その終了事由別構成比を,保護観察の種類別に見たものである。構成比が最も高いのは,保護観察処分少年では解除,少年院仮退院者,仮出獄者及び保護観察付き執行猶予者でば期間満了である。

II-54図 保護観察の終了事由別構成比(平成7年)

イ 保護観察期間中の再犯率及び出所後の再入所率
 II-55図は,昭和61年以降に保護観察を終了した者について,保護観察期間中に,再度の犯罪・非行を起こし,かつ,新たな処分を受けた者の比率(再犯率)を示したものである。再犯率は,保護観察処分少年と保護観察付き執行猶予者を除くと,平成7年においては若干上昇している。
 II-56図は,昭和59年以降に出所した仮出獄者と満期釈放者について,出所後3年目までにおける刑務所への再入所率を示したものである。再入所率は,仮出獄者が満期釈放者よりも低い傾向が続いているが,仮出獄者は平成3年に出所した者から,満期釈放者は2年に出所した者から,若干上昇傾向にある。

II-55図 再犯率の推移(昭和61年〜平成7年)

II-56図 出所事由別再入所率の推移(昭和59年〜平成5年)