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 平成 8年版 犯罪白書 第2編/第3章/第2節/2 

2 少年院における処遇

(1) 概  説
 家庭裁判所の審判の結果,保護処分の一つである少年院送致の決定を受けた者を収容する少年院は,平成8年3月31日現在,全国で54庁が設置されている。
 少年院に勤務する職員は,法務教官,法務技官,法務事務官等であり,このうち,在院者の教育に直接携わる法務教官は,そのほとんどが教員免許又は職業訓練関係の指導員免許の取得者である。
 少年院には,収容少年の年齢,犯罪傾向の程度及び心身の状況に応じて,次の4種類があり,医療少年院を除き,男女の別に従って設けられている。
 少年院の種別及び収容対象者
[1] 初等少年院 心身に著しい故障のない,14歳以上おおむね16歳未満の者
[2] 中等少年院 心身に著しい故障のない,おおむね16歳以上20歳未満の者
[3] 特別少年院 心身に著しい故障はないが,犯罪的傾向の進んだ,おおむね16歳以上23歳未満の者
[4] 医療少年院 心身に著しい故障のある,14歳以上26歳未満の者
 少年が収容される少年院の種別は,家庭裁判所の審判において決定されるが,初等少年院送致又は中等少年院送致決定の際,短期処遇(一般短期処遇又は特修短期処遇)が適当である旨の処遇勧告がなされる場合がある。
 審判により少年院送致決定がなされた後,少年鑑別所は,これを受けて,対象者の特質及び教育の必要性に応じ,各少年院で実施されている処遇課程等を考慮し,収容すべき少年院を指定することになっている。
 昭和52年6月から,少年非行の多様化,複雑化の傾向に対処するため,現行法制の下で,個々の少年の特質や問題を考慮し,処遇の個別化の一層の推進を図るとともに,保護観察所等の関係諸機関との緊密な連絡協調の下に,各少年院ごとに,それぞれ特色ある処遇の推進に努めている。
 少年院においては,できる限り短期間に効果的処遇を実施するように努め,処遇の個別化と収容期間の弾力化を図っている。また,対象少年の早期改善の可能性の大小により,短期処遇と長期処遇とに区分されている。
 短期処遇を実施する少年院は,非行の傾向はある程度進んでいるが,少年のもつ問題性が単純又は比較的軽く,早期改善の可能性が大きいため,短期間の継続的・集中的な指導と訓練により,その矯正と社会復帰を期待できる者を対象とし,開放的な雰囲気の中で処遇を行っている。
 さらに,短期処遇を実施する少年院は,運用上,収容期間を6か月以内とする一般短期処遇と,非行の傾向が一般短期処遇の対象者より進んでいない者を対象とし,収容期間を4か月以内とする特修短期処遇の二つに区分されている。
 長期処遇を実施する少年院は,短期処遇になじまない者を収容し,運用上,収容期間は2年以内とされている。
 平成5年9月には,長期処遇において,処遇分類の徹底を図る等の観点から,外国人少年を対象とする処遇課程の新設を含めた処遇課程の改編を行い,生活指導及び職業補導の教育内容の充実を図った。
 我が国に入国する外国人少年の増加に伴い,少年院送致となった外国人少年で日本人と異なる処遇を必要とするものは,「生活訓練課程(G2)」の少年院に指定され,男子は久里浜少年院,女子は榛名女子学園に収容される。 平成5年9月1日以降8年5月31日までに,G2級として収容された少年は,男子17人であり,女子はいない。 これら少年院の分類処遇制度を示したものがII-37図である。
 法律上,少年院に収容することができる期間は,原則として20歳に達するまでとなっており,少年院送致決定から20歳に達するまでの期間が1年に満たない場合には,少年院長は,送致から1年間に限り収容を継続できることとなっている。また,少年院長は,矯正の目的を達した場合には退院の申請を,少年が処遇の最高段階に向上し,仮に退院を許すのが相当と認める場合には仮退院の申請を,それぞれ地方更生保護委員会に対して行わなければならないこととなっている。

II-37図 少年院分類処遇制度

(2) 入・出院状況
 少年院新収容者の人員の推移は,II-38図及び巻末資料II-13のとおり,昭和60年以降,漸減傾向にある。

II-38図 少年院新収容者の男女別人員の推移(昭和24年〜平成7年)

 平成7年における新収容者は3,828人,一日平均収容人員は2,847人である。その内訳を,少年院の種別及び処遇医分別に見たものがII-26表である。
 平成7年の新収容者の特質は,主として第1編第2章第3節において,保護観察処分少年と対比して述べるが,その他の特質は次のとおりである。
[1] 入院時の年齢 年齢別構成比を総数で見ると,18歳(24.3%)が最も高く,次いで19歳(23.1%),17歳(22.9%)の順となっている(巻末資料II-14参照)。
[2] 非行名 非行名別構成比を男女別に見ると,男子は窃盗(40.2%)が最も高く,次いで傷害(11.8%),道路交通法違反(10.1%)の順であり,女子は覚せい剤取締法違反(37.5%)が最も高く,次いで虞犯(18.7%),窃盗(13.7%)の順となっている(巻末資料II-16参照)。
[3]共犯関係 共犯関係のある者の比率は62.8%(男子64.0%,女子54.4%)であり,女子に比べ,男子の比率が高い。
[4] 保護者 保護者が実父母である者の比率は49.6%(男子50.8%,女子41.3%)とほぼ半数であり,女子に比べ,男子の比率が高い。

II-26表 少年院新収容者の種別及び処遇区分別人員(平成7年)

 平成7年における出院者は3,964人であり,その95.5%(3,784人)が仮退院者である。また,仮退院者の平均在院期間は,長期処遇では374日,一般短期処遇では148日,特修短期処遇では79日であった。
(3) 処遇の概要
ア 処遇の基本
 処遇課程は,一般短期処遇では,教科教育,職業指導及び進路指導の三課程,長期処遇では,生活訓練,職業能力開発,教科教育,特殊教育及び医療措置の五課程が,それぞれ設けられている。
 上記の処遇を担当する少年院は,全国を八つのブロックに分けて設けられた矯正管区ごとに指定されている。
 各少年院では,担当する各処遇課程等の対象者にふさわしい教育課程(在院者の特質及び教育上の必要性に応じた教育内容を総合的に組織化した標準的な教育計画で,生活指導,職業補導,教科教育,保健・体育及び特別活動の五つの領域によって構成されている。)を編成している。
 少年院の処遇は,入院から出院に至る時間経過に沿って見ると,新入時教育期間,中間期教育期間及び出院準備教育期間の三つの教育過程に分けられる。また,各少年の処遇段階で見ると,入院時の2級下から,改善,進歩等に応じて,順次,2級上,1級下,1級上と進級する四つの処遇段階に分けられる。
イ 処遇の流れ
 教育過程と処遇段階の関係を示したものがII-39図であり,以下,この図に従って説明する。

II-39図 少年院処遇の流れ

(ア) 新入時教育期間における教育
 新入時教育期間のうち,入院直後のおおむね14日間は,少年を他の少年と接触しないように個室に収容し,健康診断や院内生活を理解させる指導及び境遇,経歴,教育程度,技能等の身上に関する各種の調査を行い,院長及び関係職員によって構成する「処遇審査会」の議を経て,一人一人の少年ごとに「個別的処遇計画」を作成する。
 この「個別的処遇計画」は,当該少年の処遇上の問題点,出院までに達成させるべき個人別教育目標,各教育期間ごとに設定する段階別到達目標,具体的な教育内容及び方法等を記載して作成するが,固定化したものではない。教育を展開していく過程において,必要な場合には少年鑑別所に依頼して再鑑別を行うなどしつつ,修正・変更をしており,常に個々の少年の必要性や特質に応じた教育が行われるよう配慮がなされている。
 なお,長期処遇を行っている少年院に送致となった場合でも,特別に処遇内容等について家庭裁判所裁判官の処遇勧告が付されたときには,少年院は,これを尊重し,処遇に反映させることとされている。
 1か月程度の新入時教育期間が経過した後,中間期教育期間の段階に移行する。
(イ) 中間期教育期間における教育
 この期間が,少年院における教育期間の大部分を占める。
A 生活指導
 中間期教育期間における生活指導の主なものは,次のとおりである。
[1] 交通安全教育,薬物濫用防止教育,性教育等による,非行にかかわる態度及び行動面の問題性に対する指導
[2] カウンセリング,内省指導等による,資質上の問題性に対する指導
[3] 家族関係・交友関係の調整等による,保護環境上の問題性に対する指導
[4] 美術・音楽・映画観賞等による,情操面の指導
[5] 健全な生活習慣や遵法的生活態度の育成等による,基本的生活態度に関する指導
[6] 進路の選択及び決定に関する情報の提供,相談助言等による進路指導
 このうち,非行にかかわる態度及び行動面の問題性に対する指導としては,II-27表のとおり,「薬物問題」,「交通・暴走族問題」,「親子・家族問題」等のグループに分けた特別講座が実施されている。これら特別講座は,集団討議,視聴覚教材を利用した授業,講話,面接,心理療法等種々の方法によって行われている。

II-27表 特別講座実施状況

 さらに,保護環境上の問題を有する者が多いことから,特別講座による指導のほか,家族関係の調整や問題解決のため,保護者を含めた指導を実施しており,面会,保護者会,家族参加による行事等を行っている。
B 職業補導
 矯正教育の重要な領域の一つである職業補導には,次のものがある。
[1] 職業実習,職業情報の提供及び職業相談を中心とする職業指導
[2] 職業能力開発促進法等関係法令に基づいて行う職業訓練
[3] 院外の事業所等に委嘱して行う院外委嘱職業補導
 少年院で実施している職業補導の主な種目は,男子では農園芸,木工,溶接等,女子では応接サービス,事務・ワープロ,介護サービス等の22種目(平成7年12月31日現在)である。
 平成7年の出院者が,在院期間中に受けた職業補導の種目に関連して取得した資格・免許の取得人員総数は1,537人であり,その種類別人員の構成比は,II-40図のとおりである。また,出院者中に占める,在院中の職業補導に関連した資格・免許取得者の比率は上昇傾向にあり,7年では,男子37.6%,女子47.6%となっている。
 最近では,職業的需要に対応して大型特殊自動車運転,小型車両系建設機械運転等のオペレーター養成が積極的に行われているほか,社会情勢に対応してワープロ,パソコン等のOA機器の操作習得及び資格取得も図られている。これらの資格・免許取得に当たっては,職員が自ら指導するほか,外部からの協力者の指導・助言を仰ぐなどの措置を執っており,合格率はいずれも高い。また,院外委嘱職業補導の委嘱内容は,老人介護補助,スーパー店員等多岐にわたっており,平成7年中に出院した者のうち,652人(16.4%)が院外委嘱職業補導を受けている。

II-40図 出院者の資格・免許取得人員の種類別構成比(平成7年)

C 教科教育
 義務教育未修了者に対しては,教科教育課程に編入し,中学校学習指導要領に準拠した教科教育を実施しており,さらに,進路に応じて受験指導等も行うなど,出院時の円滑な復学や進路選択に配慮している。また,短期間の院内教育の後,保護者の元から出身中学校又は高等学校に通学させ,週末だけ帰院させる方法が,主に特修短期処遇において実施されている。
 平成7年中に出院した者のうち,出院後に中学校又は高等学校に復学した者はそれぞれ59人,60人であり,在院中に中学校又は高等学校の卒業証書若しくは修了証明書を授与された者はそれぞれ197人,2人である。高等学校教育を必要とする者には,通信制の課程を置く高等学校に編入させるほか,大学等への進学を希望する者に対しては,それに応じた補習教育を実施して,文部省の行う大学入学資格検定を受験する機会を与えている。
 平成7年中に出院した者のうち,大学入学資格の認定を受けた者は5人,特定科目の合格者は15人である。
 なお,学校教育以外の知識を必要とする者に対しては,書道・ペン習字,自動車整備士,電気工事士等の文部省認定の社会通信教育を受講させており,平成7年度(会計年度)における受講者数は,前年度からの継続者を含めて,公費生880人及び私費生47人となっている。
D 保健・体育
 少年院においては,心身の健康の回復・増進が強調され,保健・体育の重要性が認識されている。保健では,薬物濫用に対する指導,性・疾病予防に関する指導を行い,体育では,バレーボール・水泳・剣道等のスポーツによる健康維持,基礎体力の向上を図っている。
E 特別活動
 特別活動は,在院者に共通する一般的な教育上の必要性により,主として集団活動として行われるもので,次のものがある。
[1] 自治委員会や役割活動等の自主的な活動
[2]社会見学,野外訓練,社会奉仕活動等の院外で行う教育活動及び帰省・外泊
[3] 文化系,体育系,職業系のクラブ活動
[4] 余暇の健全な活用を習得させるレクリエーション
[5] 体育祭,文化祭等の各種行事等
 なお,平成7年の出院者のうち,在院中に院外活動として外出したことのある人員及び外泊したことのある人員は,それぞれ3,626人(91.5%),449人(11.3%)である。
(ウ) 出院準備教育期間における教育
 1級上に進級した少年については,少年院長から地方更生保護委員会に対して,仮退院の申請がなされるとともに,中間期教育期間から出院準備教育期間に移行する。出院準備教育期間においては,出院後の生活設計を立てるために,職業安定所等に出向き,あるいは担当係官の派遣を求めて,求職方法等について指導を受けさせるなどの職業指導等がなされている。
 特に,この時期の生活指導として,出院後の生活で予想される問題解決場面や危機対処場面における対処の仕方を,ロールプレイングや集団討議等の方法を用いて具体的に習得させる社会適応訓練を実施している。
ウ 医療及び食事等
 専門的又は長期の医療を必要とする者は,医療少年院に収容されるが,その他の医療を必要とする者は,各少年院の医師の診療を受ける。しかし,少年院内で適当な医療を施すことができないときには,施設外の病院に通院又は入院をさせるなど適当な場所で医療を受けさせている。
 平成7年の出院者のうち,在院中に病室等で治療を受けた者は,医療少年院での長期にわたる医療を受けた者を含め1,443人(36.4%)であり,その大半は短期間に治癒している。
 食事については,最近の国民一般の食生活水準と栄養学的知見を考慮して,平成8年4月1日から,一人1日当たりの総給与熱量は男子3,060kcal,女子2,700kcal,米と麦の重量比率はおおむね米80対麦20,副食費は一人1日438.26円となっている。
 衣類,寝具,その他日常生活に必要な物品は,少年院において貸与し,又は給与しているが,規律や衛生に害がないと認められる場合には,自己の物品の使用も許可している。