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3 受刑者の処遇 (1) 概 説
我が国の行刑施設における受刑者処遇の基調は,刑の執行を通じて矯正処遇を行い,受刑者の改善更生及び社会復帰を図ることに置かれている。受刑者処遇の基本制度等としては,分類処遇制度,累進処遇制度及び開放的処遇がある。 ア 分類処遇制度 受刑者の改善更生及び社会復帰を図るためには,個々の受刑者のもつ人格特性及び環境的・社会的諸問題に対応した処遇を行う必要がある。個々の受刑者のもつ問題点を明らかにするための科学的調査を分類調査といい,その結果に基づいて処遇計画を立て,その計画を効果的に実施するための集団を編成して,各集団に応じた有効な処遇を行うことが分類処遇である。 イ 累進処遇制度 累進処遇制度は,受刑者の自発的な改善への努力を促すために設けられたもので,刑の執行の過程に四つの階級(第四級から第一級まで)を設け,入所当初の最下級(第四級)から,その行刑成績に応じて順次上級に進級させ,それにつれて漸進的に優遇の付与及び自由制限の緩和を行って社会生活に近づけるとともに,共同生活における責任を加重することにより,社会適応化を図ろうとする処遇方法である。 ウ 開放的処遇 開放的処遇は,施設の物的設備と人的措置における拘禁度を緩和し,受刑者の自律心及び責任感に対する信頼を基礎とした処遇形態であり,交通事犯受刑者や女子受刑者を収容する行刑施設で実施され,さらに,一般の男子受刑者についても,喜連川刑務支所(黒羽刑務所所轄)において農業土木の職業訓練を中心に開放的処遇が実施されているほか,構外作業の形態などにより開放的処遇が展開されており,この種のものとして,各務原作業場(岐阜刑務所付設),鱒川農場(函館少年刑務所付設),大井造船作業場(松山刑務所付設)等がある。 開放的処遇を行う施設では,居室,食堂,工場等は原則として施錠せず,行刑区域内では戒護者を付けず,面会もなるべく立会者なしで行わせており,生活指導,職業訓練等,社会復帰に必要な教育的処遇を積極的に実施している。 受刑者処遇の基本制度は,前述のとおりであるが,以下,入所時から釈放までの時間の経過に沿って,受刑者処遇を概観する(II-25図参照)。 II-25図 受刑者処遇の流れ (2) 入所時の処遇ア 入所時調査 新たに刑が確定し刑務所に入所した受刑者に対しては,刑執行開始時の指導及び訓練と並行して分類調査を行い,その結果に基づいて,収容分類級(収容する施設又は施設内の区画を区別する基準となる分類級)及び処遇分類級(処遇の重点方針を区別する基準となる分類級)が判定されて,収容される行刑施設が決定される。 さらに,処遇分類級については,それぞれの級別に対応した処遇を推進するため,処遇基準(分類級別の処遇重点事項)が定められている。II-26図は,収容分類級及び処遇分類級の級別符号,その意味等を示したものである。 II-16表は,最近3年間の各年末における受刑者の収容分類級及び処遇分類級の構成比を示したものである。収容分類級では,平成6年は,前年と比べ,B級等の構成比が低下し,A級等の構成比が上昇している。 II-26図 受刑者分類級 II-16表 受刑者の収容分類級・処遇分類級別構成比 処遇分類級については,各年共にG級の占める割合が6割を超えており,受刑者の多くは,処遇の重点が生活態度の改善及び更生意欲の喚起に置かれていることが分かる。分類調査及び分類処遇体制を充実する施策の一環として,高等裁判所の管轄区域に対応して全国8ブロックにそれぞれ置かれている矯正管区ごとに分類センターとしての機能を営む施設(名古屋・広島・福岡・宮城・札幌・高松の各刑務所,川越少年刑務所及び大阪拘置所)が指定されている。 分類センターの業務 [1] 新たに刑が確定した受刑者のうち,一定基準(執行刑期が1年以上で,かつ,以前に受刑歴のない28歳未満の男子)に該当する者を集めて,詳細な入所時調査を行い,調査終了後に,その者の収容分類級に該当する処遇施設へ移送する。 [2] 他の処遇施設において処遇中の受刑者で,精神状況又は行動の異常性が著しいため,特に専門的な精密調査を必要とするものを収容し,精密な再調査及び治療的処遇を実施する。 [3] 他の施設に対して,受刑者の分類に関する助言・指導,研修及び研究の援助・協力を行う。 イ 刑執行開始時の指導及び訓練 新たに入所した受刑者に対して,その精神的安定と改善更生の意欲の喚起を図りつつ,施設内における生活及び行動の在り方並びに処遇の内容を理解させ,有意義な受刑生活を送ることができるよう,受刑の意義,処遇の目的,処遇制度,処遇内容等のオリエンテーションと集団生活に必要な諸訓練が行われている。通常,刑執行開始時の指導及び訓練の期間は,おおむね2週間である。 (3) 中間期の処遇の重点 ア 分類処遇と累進処遇 分類調査として入所時調査の後,再調査(執行刑期が8月未満の者についてはおおむね2月ごとに,その他の者についてはおおむね6月ごとに定期的に行う調査,又は必要の都度臨時に行う調査)が行われる。調査の結果は,総合されて,分類級及び居室配置の決定,保安,作業,教育等の処遇指針の決定,移送の実施,累進の審査,仮釈放申請の審査,釈放に伴う必要な措置等,適切な収容及び処遇の実施に役立てられている。 累進処遇においては,受刑者の自発的な改善への努力を促すため,階級に応じた処遇差が設けられている。例えば,自己用途物品を購入するための作業賞与金計算高の使用範囲,面会及び発信の制限等が,上級に進むに従って緩和される。 平成6年における出所受刑者の出所時累進処遇階級は,II-17表のとおりである。 II-17表 出所受刑者の出所時累進処遇階級別構成比 イ 刑務作業(ア) 概 況 刑務作業は,受刑者の改善更生及び社会復帰を図るための重要な処遇の一つであり,受刑者の労働意欲のかん養,職業的技能及び知識の習得,忍耐心・集中心の養成を図ることなどを目的として行われている。刑務作業の形態は,その性質・目的から,生産作業,職業訓練及び自営作業(炊事,洗濯,清掃等の施設の自営に必要な作業(経理作業)と新営,改修等施設の直営工事に必要な作業(営繕作業)がある。)に分かれており,生産作業の業種は,木工,印刷,洋裁,金属等20余種に及び,受刑者は,各人の適性等に応じて指定されたそれぞれの業種に就業している。 刑務作業は,刑法上所定の作業を行うことが義務とされている懲役受刑者を中心として実施されているが,ほかにも,労役を課することとされている労役場留置者の作業と,法律上は作業を強制されない禁錮受刑者,未決拘禁者等が希望して行う請願作業が含まれる。 平成7年3月31日現在における請願作業に就業した者の比率は,禁錮受刑者では89.6%,未決拘禁者では0.9%となっている。 平成6年度(会計年度)における刑務作業の状況を見ると,国内における低価格競争,タンス等の家具に対する需要が減少したこと等により,作業運営上,困難な面があった。しかし,新規作業の導入,新製品の開発等工夫を凝らし,一日平均3万5,803人が就業し,約134億円の収入を得ている。 II-27図は,刑務作業の就業人員の構成比を形態別に,II-28図は,生産作業の就業人員の構成比を業種別に,それぞれ見たものである。 II-27図 刑務作業の形態別就業人員構成比(平成6年12月31日現在) II-28図 生産作業における業種別就業人員構成比(平成6年12月31日現在) 刑務作業の材料を提供する,財団法人矯正協会刑務作業協力事業部の製品は,CAPIC(キャピック)というブランドで販売されている。キャピック製品は,毎年6月初旬,東京で開催される全国矯正展をはじめ,各地の矯正展等で展示・即売され,好評を博している。また,行刑施設の中には,キャピック製品等の常設展示場を設けているところが少なくない。行刑施設では,構外作業も実施されており,施設が管理する構外作業場において行われるほか,民間企業の協力を得て,一般事業所においても実施されている。実施の態様としては,作業場に泊まり込んで行う「泊込作業」と施設から作業場へ通勤して行う「通役作業」とがある。作業の内容は,主として農耕・牧畜,木工,金属,造船等である。 特に,泊まり込み作業として行っている大井造船作業場(松山刑務所付設),有井作業場(広島刑務所所轄尾道刑務支所付設)及び角山農芸学園(札幌刑務所付設)並びに通役作業として行っている神戸鉄工団地(加古川刑務所付設)等では,綿密な計画の下に開放的処遇を行い,良好な成績を維持している。 (イ) 職業訓練 職業訓練は,受刑者に対し,職業に必要な技能を習得させ,又はその技能を向上させることを目的として,総合訓練,集合訓練及び自所訓練の三つの類型で行われており,できる限り,公の資格又は免許を取得させるように努力が払われている。 総合訓練は,全国各施設から適格者を選定し,指定された7か所の総合職業訓練施設(福井・山口・山形の各刑務所及び川越・奈良・佐賀・函館の各少年刑務所)において実施されている。集合訓練及び自所訓練は,それぞれ各矯正管区及び施設ごとに訓練種目を定めて実施されており,平成6年度(会計年度)では,集合訓練施設は30か所,自所訓練施設は34か所となっている。 職業訓練種目は,板金,溶接,電気工事,自動車整備,建築,左官,木工,製版・印刷,木材工芸,ボイラー運転,建設機械,理容,美容,クリーニング,自動車運転等50余種が実施され,平成6年度(会計年度)の職業訓練修了人員は1,418人であった。同じく,電気工事士,理容師,美容師等を含む資格又は免許を取得した者は,総数で2,249人となっている。 (ウ) 就業条件 就業者の作業時間は,1日につき8時間,4週間につき168時間とされていたが,平成4年5月1日から,1日につき8時間,1週間につき40時間に短縮され,原則として土曜日及び日曜日が休日とされた。なお,作業中の休息時間が認められている。また,作業環境や作業の安全及び衛生については,労働基準法,労働安全衛生法等の趣旨に沿ってその整備が図られている。一方,就業者が作業上不測の事故により災害を受けたときなどは,手当金(死傷病手当金)が支給される。 刑務作業の収入は,すべて国の収入となるが,作業に従事した者に対しては作業賞与金が支給される。この賞与金の性格は,就労の対価としての賃金ではなく,恩恵的・奨励的なもので,原則として釈放時に支給されるが,在所中家族あてに送金すること,又は所内生活で用いる物品の購入等に使用することが許されている。 作業賞与金の基準額は,毎年増額が図られており,平成6年度(会計年度)の一人1か月当たりの平均作業賞与金計算高は,3,501円となっている。 なお,受刑者には一定の条件の下で,余暇時間内に自己の収入となる自己労作,言わば受刑者の内職を行うことが許されており,平成7年3月31日現在,322人が自己労作に従事し,一人1か月平均4,367円の収入を得ている。 ウ 教育活動 行刑施設における教育活動は,教科教育,通信教育,生活指導等から成っており,受刑者の改善更生を図り,社会復帰を促進させる上で重要な役割を果たしている。近年,各施設においては,個々の受刑者の特性や問題性に着目した効果的な指導方法の導入に意欲的な取組がなされている。また,社会奉仕,講演会等への参加,あるいは各種資格・免許を取得するための受験や工場等の訪問等施設外で実施される教育活動もある。II-18表は,最近3年間における施設外教育活動の実施状況を示したものである。 II-18表 施設外教育活動実施状況 教育活動は,行刑施設の職員に加え,民間の専門家及び奉仕者の協力も得て実施されている。篤志面接及び宗教教誨については,本章第4節において述べることとする。(ア) 教科教育 教科教育は,義務教育未修了者及び修了者中で学力の低い者に対し,国語,数学,社会その他の必要な科目の履修又は補習を行うほか,奈良,松本及び盛岡の各少年刑務所において,向学心のある者に対し,高校通信制課程を受講させている。また,黒羽刑務所等数か所の刑務所においては,意欲のある受刑者に大学入学資格検定の受験指導を行い,受験の便宜をも図っている。 平成6年中の教科教育実施人員は3,368人であり,その教育程度別内訳は,義務教育未修了者451人,義務教育修了のみの者1,910人,高校中退者535人,同卒業者311人などとなっている。また,6年度(会計年度)に,14人が高校(通信制課程)の卒業証書を授与された。 (イ) 通信教育 通信教育は,受刑者の一般教養,職業的知識・技術等の向上を図ることを目的として行われる社会通信教育等であり,受講者には,受講に要する費用の全額を国が負担する公費生と,受講者自らが負担する私費生とがある。 平成6年度(会計年度)中の受講者は2,891人で,その受講内容は,簿記,書道,ペン習字,英語,電気・無線等である。 (ウ) 生活指導 生活指導は,受刑者の自覚に訴え,規則正しい生活習慣及び勤労の精神を培い,共同生活を営む態度,習慣,知識等をかん養することを目的とし,受刑者の日常生活を通じて,規律訓練,講話,読書指導,クラブ活動,各種集会,委員会活動(受刑者の中から,給食,衛生,図書,放送,文化等の各委員を選び,当該活動が円滑かつ効率的に行われるようにするための一種の役割活動)等を行わせるとともに,個別又は集団によるカウンセリングを実施している。 エ 食事,衣類,日用品等 受刑者には,その体質,健康,年齢,性別,生活活動強度等を考慮して,必要な食事が支給されるほか,日常生活に必要な衣類,寝具,日用品等が貸与され又は支給されている。 食事については,主食は,生活活動強度及び男女別によりそれぞれ異なり,平成7年4月1日から,A食(1日当たり男子2,OOOkcal・女子1,800kcal),B食(同じく1,700kcal・ 1,600kcal)及びC食(同じく1,600kcal・1,500kcal)の3種類に改められ,従来と比較し,主食の熱量が減じ,一方,副食の熱量が増加し,標準栄養量が改められた。例えば,成人男子が工場での立位作業に従事する場合,A食が給与され,副食と合わせて1日2,890kcalが給与される。1日の副食費は,平成7年度(会計年度)では,成人受刑者一人当たり366.14円,少年受刑者は415.79円となっている。このほか,正月用特別菜代として一人1日当たり250円が3日分,祝祭日菜代及び誕生日菜代として一人当たり60円が,行事用特別菜代として年間一人当たり600円が計上されている。 なお,患者,妊産婦,体力の消耗が著しい作業に従事する就業者,宗教上の理由又は食習慣の著しい違いにより一般の食事をとることができない被収容者等については,特別に配慮がなされている。食事は,健康保持上必要であるのみならず,収容されている者の心情安定にも重要な影響を及ぼすことから,その改善向上が図られており,献立の作成,調理の方法,配食の方法等について給食関係の専門職員の工夫と努力により,適正な給食管理の実現のための配慮がなされている。 衣類・寝具については,特に,保温,衛生,体裁等に考慮が払われており,日用品の一部については,自費購入や外部からの差入れも認められている。 オ 医療・衛生 行刑施設には,その規模や業務内容に応じて,医務部,医務課等が置かれ,医師その他の医療専門職員が配置されて,施設における医療及び衛生関係業務に従事している。受刑者の診療は,原則として施設の医師によって行われるが,必要な場合には,外部の専門医師の診療を受けさせ,また,施設内で適当な治療を施すことができないときは,所長の判断で外部の病院に一時入院させるなど,医療措置に万全を期している。 行刑施設における医療体制は,社会の医療内容の高度化・専門化に対応して充実を図る必要があるため,専門的に医療を行う五つの施設として八王子・岡崎・城野の各医療刑務所及び大阪・菊池の各医療刑務支所が設置されているほか,全国で六つの医療重点施設(府中・名古屋・広島・福岡・宮城・札幌の各刑務所)が指定されている。これらの施設に医療機器や医療専門職員を集中的に配置して,各行刑施設に収容されている者のうち,専門的な医療を要する者及び長期の療養を要する者をこれらの施設に収容し,十分な医療措置が受けられるよう努めている。平成6年4月1日現在行刑施設の医療専門職員の定員は,II-19表のとおりである。 II-19表 医療関係職員定員 カ 保安行刑施設の保安(施設の安全及び秩序を維持する作用)は,受刑者の処遇が円滑に行われるための基盤となるものである。II-20表は,昭和50年及び最近3年間について,逃走,殺傷等のいわゆる刑務事故の発生状況を見たものである。平成6年における刑務事故の発生件数は9件で,保安の状況は安定しているといえる。これは,暴力団関係者,覚せい剤事犯者等の処遇困難者を多数収容している中で,綿密な分類調査による収容と処遇を実施し,所内の生活条件向上に努め,職員によるきめ細かな指導を行っているほか,適切な保安対策が講じられてきたことによる結果と考えられる。 II-20表 行刑施設事故発生件数 ところで,受刑者の中でも,とりわけ暴力団関係者は,ややもすると所内で結束して職員に反抗したり,他の受刑者を威圧したり,他の受刑者集団と反目対立するなどして重大な事故を招きやすく,保安上の問題を抱える者も少なくない。II-21表は,昭和50年及び最近3年間の各年末における受刑者中に占める暴力団関係者の収容状況を見たものである。暴力団関係者の処遇に当たっては,組織からの離脱指導を積極的に行うとともに,厳正な規律と秩序の維持に格段の注意を払い,受刑者間の人間関係をよく把握し,地元暴力団関係者の分散収容を行うなど,特に厳格な方針をもって対処している。II-21表 暴力団関係受刑者数 キ 不服申立制度II-22表は,昭和50年及び最近3年間における不服申立件数を見たものである。 II-22表 被収容者の不服申立件数 被収容者が施設の処置に対して不服のあるときは,一般的な制度としての民事・行政訴訟,告訴・告発,人権侵犯申告等によることもできるが,現行監獄法令上の制度として,法務大臣又は巡閲官(法務大臣の命を受けて行刑施設に対する実地監査を行う法務省の職員)に対し情願を申し立て,又は行刑施設の長に対し面接(所長面接)を申し出ることもできる。情願は,大臣に対しては書面で,巡閲官に対しては書面又は口頭で行われるが,いずれも申立ての内容が事前に施設の職員に知られないよう秘密の申立てが保障されている。情願の法的性質は,請願の一種とされ,申立てに対する回答の義務はないものと解されているが,行刑の実際においては,申立事項について矯正管区等の特に指定された職員が十分な調査を行っており,さらに,申立人に対し結果を通知するなど誠実な処理がなされている。また,所長面接も,代理者による実施を含め,活発に運用されている。 (4) 釈放前の指導及び援助 釈放前の受刑者に対して,釈放後の生活についての不安を解消し,将来の見通しを立て,社会生活への円滑な移行を図り,改善更生の意欲を確実にすることができるように,釈放前の処遇を,個々の受刑者にふさわしい内容及び方法で計画的かつ組織的に実施している。 釈放前の処遇の期間は,仮出獄が見込まれている者は原則として2週間,刑期終了による釈放の日が近づいた者については原則として1週間とし,個個の受刑者に応じ,釈放後の日常生活に直ちに必要となる知識の付与,社会復帰後の就職に関する知識及び情報の付与,保護観察制度その他更生保護に関する知識の付与,その他帰住及び生計の方途に関し必要な事項等のほか,必要により,一般社会の生活に近い日常生活の体験,交通機関利用又は買い物等の生活の体験,民間作業所等での勤労の体験,社会奉仕活動等を実施している。 その実施に当たっては,指導内容に応じて関係のある公私の団体及び民間の篤志家その他個人の協力と援助を得ることとしている。 (5) 女子受刑者の処遇 平成6年の女子新受刑者は,955人,新受刑者全体の4.5%である。女子受刑者を収容する施設は,栃木・和歌山・笠松・岩国・麓の各刑務所及び札幌刑務支所の6か所であり,男子刑務所のようにA級,B級等の収容分類級に応じて施設を別にして収容することはできないが,施設内における工場,居室の指定等に当たっては,収容分類級が考慮されている。 女子施設における処遇は,情緒の安定性を養うこと,家庭生活の知識と技術を習得させること,保護引受人との関係の維持に努めることなどが,重点事項として行われている。また,女子の特質を考慮し,開放的な雰囲気で,収容に伴う心理的な圧迫感をできる限り少なくするよう,所内の調度品等についても配慮がなされている。 職業訓練の種目には,調理,家事サービス,洋裁,美容等があり,教養と趣味を身に付けさせるため,通信教育や所内の教養講座の受講が奨励され,短歌,俳句,茶道,生け花,器楽,コーラス等のクラブ活動が行われている。 女子受刑者の医療及び衛生には,特別の配慮が払われている。殊に,受刑者が妊産婦である場合は,特別の保護的措置が執られており,出産は外部の病院で行わせている。さらに,受刑者が1歳未満の乳児を連れている場合において,必要と認めるときは,その乳児を刑務所内の保育室で1歳になるまで育てることも許される。1歳を超えた幼児は,一般の児童福祉施設又は引取人のもとに預けられる。 (6) 高齢受刑者の処遇 我が国では,60歳以上の高齢受刑者を収容する施設は特に指定されておらず,高齢受刑者は,その収容分類級に従って各行刑施設に分散収容されている。平成6年の新受刑者中に占める60歳以上の受刑者は1,181人であり,これは新受刑者全体の5.6%となっている。 処遇上特に留意を要する60歳以上の高齢受刑者が次第にその数を増していることから,多数の高齢受刑者を収容する行刑施設の中には,高齢受刑者用の特設工場や居室を設けているところがある。作業については体力に応じ,軽作業を課し,健康診断の回数を増加している。高齢受刑者は,孤独で犯罪傾向が進んでいる者が多く,処遇上困難な者も少なくない。 保護関係については,60歳以上の高齢受刑者の増加に伴い,ますます調整困難な場合が多くなることが考えられる。更生保護会を帰住先とする60歳以上の高齢出所者は,6年においては,444人となっている。更生保護会への帰住は,多くの場合就労可能を条件としているだけに,健康上の理由等で就労困難な高齢受刑者の帰住先開拓については多角的な努力が必要であり,今後,医療や生活保護を必要とする高齢受刑者等について,福祉機関との連携が更に重要となっていくことが予測される。 |