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 平成 5年版 犯罪白書 第4編/第5章/第3節 

第3節 交通犯罪受刑者の矯正処遇

 IV-37図で見たとおり,昭和30年代半ばから交通犯罪受刑者が急増したが,交通犯罪受刑者,特に禁錮受刑者には,犯罪傾向,人格特性などの点で問題の少ない者が多い。このため,交通事犯禁錮受刑者に対して,30年代半ばから,開放的な処遇が本格的に実施されるようになった。まず,36年に豊橋刑務支所で開始され,続いて38年には,千葉刑務所習志野作業場(44年に独立して市原刑務所となった。)及び加古川刑務所においても開始された。
 現在,交通事犯禁錮受刑者の収容施設(指定された収容施設を「集禁施設」という。)として,市原刑務所,加古川刑務所,豊橋刑務支所,尾道刑務支所(同支所所管の有井作業場を含む。),大分刑務所,山形刑務所,函館少年刑務所及び西条刑務支所の8施設が指定されており,その収容基準は,開放的処遇が適当と判定された成人の受刑者で,[1]交通事犯以外の犯罪による懲役刑を併有しないこと,[2]交通事犯以外の犯罪による受刑歴がないこと,[3]刑期がおおむね3月以上であること,[4]心身に著しい障害がないことの諸条件を満たすものとされている。
 その後,交通事犯懲役受刑者の増加に伴い,市原刑務所,加古川刑務所及び西条刑務支所においては,昭和53年から開放的処遇に適する交通事犯懲役受刑者も収容し,交通事犯禁錮受刑者に準じた開放的処遇を実施している。さらに,豊橋刑務支所,尾道刑務支所(同支所所管の有井作業場を含む。),大分刑務所,山形刑務所及び函館少年刑務所においても,試行的に交通事犯懲役受刑者を収容し,所定の基準にかなう者に対して開放的処遇を実施している。これらの施設における最近5年間の交通犯罪受刑者収容状況は,IV-14表に示すとおりである。

IV-14表 交通犯罪新受刑者の施設別収容人員(昭和63年〜平成4年)

 平成4年の交通犯罪新受刑者は2,104人であり,その約半数が集禁施設に収容されている。
 これらの開放的処遇を行う施設では,居室,食堂,工場等は原則として施錠せず,行刑区域内では戒護者を付けず,面会もなるべく立会者なしで行わせており,生活指導,職業訓練,職業指導等,社会復帰に必要な教育的処遇を活発に行うことにその特色がある。生活指導については,遵法精神,人命尊重及び責任観念の養成に重点が置かれている。職業訓練の種目としては,自動車運転・整備のほかに,溶接,ボイラー運転,電気工事,情報処理技術などがある。また,職業指導については,各人の自動車運転に対する適性,将来の生活設計などを考慮して,職業技能の開発が行われており,自動車の運転適性がないと認められる者及び自動車運転を必要とする職業から転職することを希望する者に対しては,転職指導を実施している。
 このような職業指導によって,刑務所入所前は自動車関係の職業に就いていた者のうち,出所後は自動車関係以外の職業に変わる者が少なくない。
 IV-15表は,犯時職業と出所後の職業予定について,典型的な集禁施設である市原刑務所に収容中の交通犯罪受刑者を対象として特別調査した結果を示すものである。犯時職業が「運輸通信」である者25人のうち,出所後も「運輸通信」を予定している者は3人のみである。

IV-15表 犯時職業と出所後の職業予定(平成5年5月25日現在)

 IV-16表は,市原刑務所における最近3年間の技能検定受験状況を示すものである。

IV-16表 技能検定受験状況(平成2年〜4年)

 交通犯罪受刑者の再入状況について,同じく市原刑務所の調査結果を見ると,昭和44年以降の禁錮出所受刑者6,341人中平成4年までに再入した者は280人(4.4%),昭和52年以降の懲役出所受刑者4,976人中平成4年までに再入した者は483人(9.7%)である。禁錮,懲役合わせて見ると,昭和44年以降の24年間において,出所受刑者11,317人中6.7%の763人が再入しており,そのうち交通犯罪による再入は514人,交通犯罪以外は249人であり,再入率は極めて低い(巻末資料IV-12表参照)。