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 平成 5年版 犯罪白書 第4編/第3章/第2節/2 

2 三者即日処理方式等

 前節で述べたように,道交違反で起訴される事件の大多数においては,罰金刑が科されている。そして,道交違反で罰金刑を科する手続としては,略式手続によるものがほとんどであり,公判手続によるものはわずかである。
 昭和20年代後半において既に,道路交通取締法等の法令違反検挙件数の増加は,この種事件の迅速処理を困難にしつつあった(IV-6図及び巻末資料IV-3表参照)。
 そして,昭和28年11月に施行された刑事訴訟法の一部改正によって,略式手続において,在庁略式の方式による迅速処理が可能となった。在庁略式の方式とは,検察官が被疑者を検察庁に在庁させて簡易裁判所に略式命令を請求(略式起訴)し,即日,略式命令が発せられた段階で,被告人が裁判所に出頭し,裁判所は直ちにその略式命令の謄本を被告人に交付して送達事務を完了し,仮納付の裁判があった場合は,直ちにその裁判を執行して罰金又は科料を仮納付させるやり方である。
 次いで,昭和29年11月に施行された交通事件即決裁判手続法は,刑事訴訟法の口頭主義・直接主義の建前を維持しつつ,交通に関する刑事事件の迅速適正な処理を図るため,いわば略式手続と公判手続の中間に位置するものとして,公判前の特別手続として即決裁判の制度を定め,簡易裁判所がこの手続により罰金又は科料を科することができることとした。
 こうした法律の改正・制定による事件処理の迅速化を図る改革に加えて,三者即日処理方式が,昭和29年2月から警視庁分庁舎や東京区検察庁庁舎を使用して,略式手続について行われるようになった。
 三者即日処理方式とは,被疑者の出頭を求めて,警察官による取調べ,事件送致,検察官による取調べ,略式命令請求又は即決裁判請求,裁判官による略式命令の発付又は即決裁判の宣告,被告人への送達,罰金又は科料の仮納付という一連の手続を,流れ作業のように,1日のうちに同一場所において完了させるものであり,当時の道路交通取締法違反等の罰金又は科料相当事案について行われた。三者即日処理方式は,略式命令請求以降の手続を同一日に通常の検察庁及び裁判所において行う在庁略式の方式を,事件処理の迅速化のために,更に発展させたものであったが,交通事件即決裁判手続法の施行に伴い,略式手続だけではなく,交通事件即決裁判手続についても適用された。
 そして,三者即日処理方式を取り扱う専用施設として,昭和30年11月,東京と大阪に交通裁判所が設置された。なお,交通裁判所といっても特別裁判所ではなく,同一庁舎内に警察,検察,裁判の三庁の施設と職員を整えたものである。
 三者即日処理方式は,その後,東京,大阪のみならず,全国で行われるに至ったが,同方式の実行により,迅速・大量処理が可能となったほか,呼出費用や送達費用等の経費が節減され,罰金,科料の徴収率も向上した。
 東京地区においては,墨田簡易裁判所が,いわば交通裁判所の機能を果たしており,墨田区検察庁,警視庁交通捜査課墨田分室と共に,一つの建物内において,道路交通法違反事件の三者即日処理方式による事務処理を行っている。同所における三者即日処理方式による事務処理の流れは,IV-19図のとおりである。

IV-19図 三者即日処理方式による手続の流れ(墨田簡易裁判所における例)

 三者即日処理方式は,道路交通取締法に代わって昭和35年12月から施行された道路交通法の違反にも適用された。しかし,次第に交通事件即決裁判手続に付する割合が減少し,略式手続の割合が増加した。これは,交通事件即決裁判手続が簡略化された手続によるものとはいえ,直接主義・口頭主義を維持しているため,激増した道路交通法違反事件の迅速処理の手段としては,利用しにくいものとなったためであろう。交通事件即決裁判手続による処理件数は40年代に入ると激減し,54年以降同手続による処理例は見当たらない。したがって,現在では,三者即日処理方式は,略式手続だけで利用されている。