第2節 交通犯罪に関する刑事政策
1 概 説 我が国における運転免許保有者数は,昭和41年には約2,286万人であったが,平成4年には約6,417万人に達し,16歳以上の人口の63.3%が運転免許を保有するに至っている。また,車両保有台数は,昭和41年には約1,801万台であったが,平成4年には約8,109万台に達し,国民約1.5人当たり1台の割合となっている。正に,現在の我が国は,「国民皆免許時代」「くるま社会」であるといえる。 一方,前章において述べたように,平成4年における交通事故発生件数は69万5,345件,死者数は1万1,451人,負傷者数は84万4,003人に達し,交通関係業過事件の検挙件数は61万3,138件,道交違反事件の取締件数は894万3,383件に及んでいる。 交通事故を少なくし,道路交通の安全を確保するためには,道路の整備と適切な維持管理,交通安全施設の整備,交通安全教育の徹底等と並んで,交通関係法令を整備し,これを適切に運用することが必要である。 我が国における交通犯罪に関する刑事政策は,この観点から,過去約40年間にわたって,交通関係法令を整備し,交通犯罪者を取り締まるとともに,交通犯罪者の刑事処分に関する制度を改革し,交通関係法令の効率的かつ適正な運用を図るべく,各種の施策を講ずることによって実行されてきた。 これらを概観すると,まず,法令の整備については,道路交通法の制定とその数次にわたる改正,刑法211条の改正による業務上(重)過失致死傷罪への懲役刑の導入,刑法211条及び道路交通法の罰則の罰金額の引上げなどが行われた。刑事処分に関する制度改革については,交通事件即決裁判手続の導入,交通反則通告制度の導入などが行われ,運用面での施策については,交通切符(道路交通法違反事件迅速処理のための共用書式)の採用,特例書式及び簡約特例書式の採用などが行われた。 これらの施策の多くは,人身事故を起こし,あるいは道路交通法に違反した者に対し,適正な刑事処分を行うことによって交通犯罪を防止するとの目的,また,激増する交通犯罪をできる限り効率よく処理するという目的から実施されたものである。しかし,一方において,交通事故の防止は,刑罰のみに頼るべきものではなく,各種の総合的な対策を講ずることによって達成されるべきものであるなどの考え方が強くなり,これを反映して,昭和62年以降,検察庁における交通関係業過事件の事件処理の在り方等の見直しにより,起訴率が低下した。 以下,過去約40年間にわたる交通犯罪に対する諸施策のうち主なものについて,その内容,実施に至る経緯,その結果などについて見てみる。
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