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3 処遇の概要 少年院における処遇は,在院者の特性や心身の発達程度を考慮して,明るい環境の下に,規律ある生活に親しませ,勤勉の精神を養わせるなど,健全な生活経験を豊富に体験させ,その社会不適応の原因を除去するとともに,長所を伸長し,心身共に健全な少年の育成を期して行われる。特に,分類処遇制度(III-15図参照)が整備された結果,各少年院は,担当する各処遇課程等の対象者にふさわしい教育課程(在院者の特性及び教育上の必要性に応じた教育内容を総合的に組織化した標準的な教育計画)を編成するとともに,個々の少年について,少年鑑別所及び家庭裁判所の資料や意見を参考にして個別的処遇計画を作成し,効果的な教育を実施するよう努めている。
少年院の教育課程は,生活指導,職業補導,教科教育,保健・体育及び特別活動の各領域で構成されている。また,入院から出院までの期間を,新入時,中間期,出院準備期の三期に分け,それぞれの期に応じた教育目標や教育内容が発展的・段階的に設定されている。なお,教育課程は,課業として実施するものとされ,1週間の標準課業時間は,昼間でおおむね33単位時間(1単位時間は50分),夜間でおおむね11単位時間,計44単位時間を下回らない範囲で,施設や地域の実情に応じて定められている。 (1) 生活指導 生活指導は,在院者の心身の発達程度,資質等の特性を踏まえ,非行に直接関係のある生活態度やものの考え方を是正し,社会生活への適応を図ろうとするものである。具体的内容としては,[1]薬物濫用防止教育や交通安全教育などを始め,非行にかかわる態度及び行動面の問題に対する指導,[2]資質上の問題に対する指導,[3]家族関係や交友関係の調整など保護環境上の問題に対する指導,[4]健全な生活習慣や遵法的な生活態度の育成など基本的生活態度に関する指導及び[5]美的・道徳的な情操に関する指導,などである。IIIー40表は,問題性別の指導として行われた特別講座の実施状況を見たものである。平成2年においては,有機溶剤や覚せい剤などの薬物の濫用を防止するための指導として薬物問題の特別講座を設けている施設が最も多い(50庁)。次いで,交通・暴走族問題についてのもの(39庁),親子・家族問題についてのもの(31庁)などとなっている。また,女子の施設では,性・異性問題に関する特別講座を設けているところが多い。そのほか情緒未成熟,職場不適応,生活マナーなどの問題に対する指導も実施されており,これら特別講座は,集団討議,視聴覚教材を利用した授業,講話,面接,心理療法等種々の方法によって行われる。なお,在院者には,保護環境上の問題を有する者が多いことから,前記特別講座による指導のほか,親子・家族関係の調整や問題解決のために,保護者を含めた指導が行われている。これは,在院者と保護者との通常の面会時を始め,特別に保護者の来院を求めて行う保護者会,保護者の宿泊のために特別に設備された「家庭寮」と呼ばれる建物で,親子水入らずで一晩を過ごさせる宿泊面会などを通じて実施されている。 III-40表 特別講座実施状況(昭和63年〜平成2年) (2) 職業補導少年院の収容者には,入院前に無職であった者や転職を繰り返していた者が多く,少年院在院者のほとんどに共通な傾向として職業に関する必要な知識や勤労の意欲が欠けていることが挙げられる。しかし,進学及び復学する者以外の多くの者は,出院後直ちに職業生活に入る必要があるところから,これらの少年に対して勤労意欲の向上を図り,職業に関する知識や技能を付与することは,矯正教育の重要な領域の一つとなっている。職業補導の具体的な内容は,[1]職業の選択及び職業生活への適応を容易にさせるための職業指導,[2]職業能力開発促進法等関係法令に基づいて行う職業訓練及び[3]職業指導等の応用実習として又は社会生活への円滑な移行を図る手段として,院外の事業所などに委嘱して行う院外委嘱職業補導,である。少年院で実施している職業補導の主な種目は,溶接,木工,窯業,自動車整備,印刷,建設機械運転,農園芸,家事サービスなど多種目に上る。なお,平成2年度(会計年度)中に職業補導関係の資格・免許を取得した人員は,111-41表のとおりであり,最近では,社会情勢に対応してワードプロセッサやパーソナルコンピュータなどのOA機器の導入も図られている。同年中に院外委嘱職業補導を受けた者は,前年からの継続を含め489人となっている。 (3) 教科教育 義務教育未修了者に対しては,教科教育課程に編入し,中学校学習指導要領に準拠した教科教育を実施しており,仮退院時に学齢生徒である者が円滑に復学できるように配慮している。なお,学業の中断を避け,円滑に学校生活に復帰させることを目的として,短期間の院内教育の後,保護者のもとから出身中学校に通学させ,週末だけ帰院させる方法が,播磨少年院ほかの施設で実施されている。 III-41表 資格・免許の取得人員(平成2会計年度) 高等学校教育を必要とする者には,通信制の課程を置く高等学校に編入させるほか,補習教育として院内において学習指導を行っている。さらに,大学等へ進学を希望する者に対しては,それに応じた補習教育を実施し,文部省の行う大学入学資格検定を受験させる機会を与えるなどしている。平成2年の少年院出院者4,592人のうち,129人は学齢中に仮退院して中学校に復学し,47人は高等学校に復学している。さらに,342人が在院中に中学校の卒業証書又は修了証明書を授与されている。III-42表は,平成2年度(会計年度)における少年院出院者の進学状況等を見たものである。2年度に出院した者のうち,46人は高等学校,7人は専修学校に進学している。また,中学校卒業程度認定試験には1人,大学入学資格検定には4人が合格している。なお,学校教育以外の知識を必要とする者に対しては,公費又は私費で簿記,書道・ペン習字,英語,レタリングなどの文部省認定の社会通信教育を受講させている。2年度における受講者数は,前年度からの継続者も含めて,公費生582人,私費生172人である。 (4) 保健・体育及び特別活動 保健・体育は,在院者の心身の健康を維持・増進するため,衛生に関する知識等の習得と体力の増強を内容としている。特別活動は,在院者に共通する一般的な教育上の必要性により行われるもので,その具体的な内容は,[1]日常の生活における自治委員会や役割活動等の自主的な活動,[2]工場や社会施設などの社会見学,登山やキャンプなどの野外訓練,老人ホーム慰問や公園の清掃などの社会奉仕活動等,少年院外で行う院外教育活動,[3]共通の興味・関心を中心に部を編成して行うクラブ活動,[4]余暇を健全かつ有効に活用する習慣を体得させるための各種レクリエーション及び[5]四季折々に行う体育祭,文化祭などの行事,からなっている。ちなみに,平成2年中に出院した者4,592人のうち,院外教育活動に参加するために外出した人員は4,102人(89.3%),外泊した人員は495人(10.8%)である。 III-42表 少年院出院者の進学状況等(平成2会計年度) (5) 民間協力少年院の処遇は,生活指導,職業補導,教科教育,保健・体育及び特別活動の各領域における多くの分野で,民間篤志家の協力を得て行われている。その代表的なものが,篤志面接委員及び教誨師(第2編第3章第3節3参照)による面接活動等である。 III-43表 篤志面接委員数(平成2年12月31日現在) III-44表 篤志面接相談内容別実施回数(平成2年) III-43表は,平成2年12月31日現在における少年院の篤志面接委員数を部門別に見たものである。総数は805人(前年785人),となっており,うち,女性委員は321人(39.9%)である。2年における面接等実施回数はIII-44表のとおり,総数で1万6,934回となっており,委員1人当たりの面接回数は,21.0回である。また,面接内容の約3割は,精神的煩もん(在院者が抱えている精神的悩み)に関するものであり,教養,職業相談,家庭相談などがこれに次いでいる。一方,平成2年12月31日現在における少年院の教誨師数は339人であり,2年中における教誨実施回数は,総数で3,995回(教誨師1人当たり11.8回)となっている。その内容は,在院著の希望や必要に基づいて行う彼岸法要,講話,個別面接などである。教誨師の宗派別内訳は,仏教65.5%,神道18.9%,キリスト教15.6%となっている。そのほか,少年院においては,地域の各種団体,事業所,学校及び個人からの様々の援助・協力を受けて教育活動を推進しているが,その形態や方法は,地域の特性と施設の実情によって多彩なものとなっている。 |