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少年の刑法犯検挙人員は,昭和26年及び39年の2回のピークを経て,全体的には増加傾向を続け,58年に戦後最高を記録し,その後は減少傾向を示しているものの,交通関係業過を除く刑法犯検挙人員総数に占める少年の比率(少年比)は,60年以降,上昇傾向にある。また,近年,少年による凶悪な事件も発生しており,少年非行が社会の耳目を引いている。戦後の混乱期には,実父母のいない経済的にも貧困な家庭の非行少年が多かったが,40年代以降は,両親のそろった,生活にも困窮していない家庭,いわば普通一般の家庭の少年の非行が増加している。また,豊かな時代となった今日においては,万引きや自転車盗などの窃盗及び放置自転車の占有離脱物横領等の,いわゆる初発型の非行が増加し,このような初発型非行に陥る少年と一般少年との境界が不鮮明になりつつある。こうした意味で,次代を担う少年の非行問題は,広く一般国民が関心を寄せている問題であり,新たな対策が急がれる今日的な問題となっている。
そこで,本白書においては,少年非行をめぐる諸問題を取り上げ,我が国における少年非行の動向,特質,背景を明らかにするとともに,非行少年の特性や意識を探り,非行少年に対する処遇の実情について紹介することとし,あわせて,諸外国の少年非行の動向と比較することによって,我が国の少年非行問題を総合的にとらえようと試みた。 そのため,法務総合研究所では,各種の公刊されている統計資料等のほか,全国の検察庁が新規に受理した少年事件に関する調査資料並びに全国の少年鑑別所に入所した少年に係る統計及び調査資料によって,詳細に分析を行うこととした。 さらに,法務総合研究所では,生活意識や価値観等に関する非行少年の意識を探るため,独自の調査を実施した。これは,少年鑑別所に収容された少年と比較対象群としての一般少年の双方に対し,同一の質問をしてその結果を対比・分析する方法で実施したものである。 これらの結果を踏まえて,第2章で少年非行の動向,特質及び背景,第3章で非行少年の実態,第4章で非行少年の生活と価値観,第5章で非行少年の処遇,第6章で諸外国の少年非行について,それぞれ述べることとする。 ところで,我が国における少年非行とは,14歳(刑事責任年齢)以上20歳未満の少年による犯罪行為,14歳未満の少年による触法行為(刑罰法令に触れるが,刑事責任年齢に達しないため刑事責任を問われない行為)及び20歳未満の少年の虞犯([1]保護者の正当な監督に服しない性癖のあること,[2]正当の理由がなく家庭に寄り付かないこと,[3]犯罪性のある人若しくは不道徳な人と交際し又はいかがわしい場所に出入りすること,[4]自己又は他人の徳性な害する行為をする性癖のあることのうちいずれかの行状で,それ自体としては犯罪ではないが,将来,罪を犯し,又は刑罰法令に触れる行為をするおそれがあると認められる行状)という3種類の行為又は行状を総称する概念である(少年法3条1項参照)。 この非行概念は,可塑性に富む少年に対しては,犯罪行為だけではなく,虞犯についても,少年の健全な育成のために国家が司法的に介入する必要があるとする考え方に基づいている。 我が国の少年法は,処分時に20歳未満の者を保護処分の対象としている。したがって,各種統計資料によっては,行為時に20歳未満であっても処分時に20歳以上の者を除外している場合がある。また,犯罪現象としての少年非行の動向を見る場合には,前述の3類型の中から,それ自体としては犯罪ではない虞犯を除外し,犯罪構成要件に該当する違法行為という点で共通する他の2類型,すなわち犯罪行為及び触法行為の合計によってその動向を見るべき場合が多いので,本編においても,特段の断りがないかぎり,これに従う。 |