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 平成 2年版 犯罪白書 第3編/第6章/第1節/1 

第6章 諸外国の少年非行

第1節 概  説

1 諸前提

 本章においては,我が国の少年非行と非行少年の処遇の状況を諸外国と比較するため,入手し得た公的資料の範囲内で,諸外国の少年非行の動向並びに諸外国における少年司法制度及びその運用状況について概観する。
 今回,比較対象国として選定したのは,韓国,西ドイツ,フランス,イギリス(ただし,イングランド及びウェールズに限る。)及びアメリカの5か国である。比較し得る期間は,1980年から1988年までである。
 各国の犯罪・司法統計は,国により,法律上の犯罪構成要件及び統計上の分類の差異(例えば,重罪・軽罪,正式起訴犯罪,指標犯罪等),少年年齢の法律上の差異(例えば,少年司法上の少年は,欧米では18歳未満又は17歳未満の場合が多いのに対し,我が国及び韓国では20歳未満である。)等があるため,少年非行の動向を統一的な基準によって国際的に比較することは極めて困難である。
 しかし,可能な限り同じ年齢層別に統計数値を整理し,また,刑法犯等主要犯罪全体及び犯罪構成要件がほぼ共通する幾つかの罪種を取り上げるという方法によって,各国の少年非行の動向をほぼ同じ視野から概括的に把握することは,必ずしも不可能ではない。
 そこで,比較対象国5か国の少年司法制度及び統計上の区分を検討した結果,本章では,便宜上,18歳未満(ただし,イギリスは17歳未満)を「少年」と称し,18歳以上(ただし,イギリスは17歳以上)21歳未満(ただし,我が国及び韓国については20歳未満)を「青年」と称し,それ以外の者を「成人」と称することとした(ただし,フランスには法律上青年という概念もなく,また,年齢別統計も入手し得なかったので,18歳以上を一括して成人と称することとした。なお,少年及び青年の双方を一括して言及するときは,「青・少年」と称することとした。)。

III-56図 刑法犯検挙人員の推移日本(1980年〜1988年)

III-106表 刑法犯検挙人員・少年比・青年比及び人口比日本(1980年,1986年〜1988年)

III-107表 特定罪種別検挙人員・少年比・青年比及び人口比日本(1980年,1986年〜1988年)

 その上で,各国の刑法犯等主要犯罪全体並びに殺人,強盗,傷害,窃盗,強姦及び放火の6罪種(以下「特定6罪種」という。)の少年,青年別検挙人員の推移によって,非行の動向を概観することとした。なお,本章では,殺人,強盗等を「罪名」といわずに「罪種」というが,これは,比較対象国によっては複数の罪名の統計数値を合算しなければ我が国の1罪名と比較できない場合があるからである。
 また,青少年非行の動向を示す二つの重要な指標として,[1]少年比(青年比,青・少年比)すなわち検挙人員に占める少年(青年,青・少年)の比率と[2]少年人口比(青年人口比,成人人口比)すなわち各年齢層の人口10万人当たりの各検挙人員の比率を用いることとした。ただし,刑法犯等主要犯罪全体の統計のみについては,数値の簡明な表示のため,少年人口比,青年人口比及び成人人口比ともに人口1,000人当たりの比率を使用することとした。
 諸外国との比較のため,我が国に関する統計数値を本章における「少年」「青年」及び「成人」の定義別に整理し直した結果は,III-56図III-106表及びIII-107表に示すとおりである。