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 平成 元年版 犯罪白書 第4編/第5章/第3節/2 

2 裁  判

 次に,第一審裁判所での科刑状況を見ると,戦前,戦後を通じて最も多用された刑は罰金であり,以下,有期懲役,科料,有期禁錮となっている。死刑,無期懲役・禁錮,拘留は極めて少ない。なお,無罪率(第一審終局処理人員中に占める無罪言渡人員の比率)は,戦後は,終戦直後の混乱期を除いて,戦前より低く,特に昭和56年以降は0.01%未満となっている(第3章第1節3(2)参照)。
(1) 罰金刑及び科料の科刑状況
 まず,罰金刑を科せられた者の第一審終局人員総数中の構成比は,戦前は,昭和元年から18年までの間で59.1%ないし80.1%であったが,戦後の36年以降は90%を超える比率となっている。同じく科料の構成比は,戦前は元年から18年までの間では1.5%ないし14.0%であり,戦後は26年から35年は25.8%ないし42.5%であったが,その後,急激に低下し,41年から62年までは0.1%ないし1.3%となっている。このように,罰金及び科料は,共に戦後において戦前より多用されているといえるが,科料は36年から急激に減少し,48年以降は若干増加して,実人員では戦前とほぼ同程度の数値となっている。ただ,戦前は,違警罪即決例により科料に処せられた者が9年ないし11年には年間100万人を超えていたから,これを入れると,戦前では科料が最も多用された刑であり,戦後の状況をはるかにりょうがしている。
 次に,罰金・科料の運用状況について見てみると,戦後,物価や国民の収入の上昇から罰金・科料の実質的効果が低下したので,罰金等臨時措置法の制定,その後の一部改正により,刑法の罰金額及び科料の上限額等が引き上げられたが,その後も同様の理由で罰金・科料の実質的効果が下降しているため,法定刑の上限金額が比較的低く定められている罪については,罰金刑の分布が上限及びその付近に集中する頭打ち現象が認められ,また,上限金額が20万円を超える罪においても,略式手続の限度額が20万円とされている関係から,20万円を超える罰金刑は極めて例外的にしか科せられていないことが認められる。また,科料の利用も近年極めて少なくなっている(第3章第1節3(2)ウ参照)。
(2) 有期懲役の科刑状況
 有期懲役について述べると,有期懲役に処せられた者は,昭和元年から18年まで年間約3万人(第一審終局処理人員総数中の約20%)ないし4万人台(同約25%)であったが,戦後は23年の約17万3,000人(同約26%)から起伏を示しながら減少して,62年には約6万8,000人(同約4%)となっている。有期禁錮については,戦前は余り用いられていないが,戦後は交通関係業過の増加に伴い,46年及び47年には1万人(同約0.5%)を突破したが,その後減少して62年には約5,300人(同約0.3%)となっている。減少した理由は,業過に対しても,43年の刑法の一部改正により法定刑に加えられた懲役刑で処断される者が増加したためである。有期懲役・禁錮を言い渡された者の刑期については,戦後は戦前と比較して,2年以上の刑及び6月未満の刑の各比率は,低下しているのに,6月以上1年未満の刑の比率は,余り変化がなく,1年以上2年未満の刑の比率は,逆に上昇している。したがって,戦前の言渡刑は,比較的長期な刑から短期な刑にわたり広く分布していたのに,戦後は,このような刑はいずれも減少し,言い渡される刑の範囲が狭くなっているといえる。また,有期懲役・禁錮の言渡しを受けた者の中で執行猶予となった者の比率は,戦前は12.6%ないし13.7%であったのに,戦後は,26年の40%台から51年の60.7%に上昇し,その後やや下降したものの,62年には57.4%となって戦前を大幅に上回っており,社会内処遇の多用が顕著である(第3章第1節3(2)イ参照)。
(3) 死刑及び無期懲役・禁錮の科刑状況
 次に,死刑については,戦前は年間12人から37人となっており,戦後は昭和23年に116人,24年から26年まで44人ないし62人となっていたが,その後減少して,30年代末までは12人ないし37人と戦前の水準となり,その後は40年代半ばから10人を割り,62年には6人となっている。死刑を言い渡される罪の大部分は,戦前,戦後を通じて殺人又は強盗致死である。無期懲役・禁錮については,元年から18年まで年間22人ないし72人であったが,戦後は,23年の151人から減少したものの,その後も年間約80人から100人を維持し,40年からは50人を割るようになったが,62年には65人となっており,戦前と余り大きく変わらなくなっている。無期懲役が言い渡される罪名は,戦前,戦後を通じて殺人,強盗致死傷,強盗強姦が大部分を占めている(第3章第1節3(2)ア参照)。
(4) 拘留の科刑状況
 拘留については,戦前は年間400人以下であり,戦後は昭和23年に約1,600人を記録したが,その後は減少して62年には約130人となっている。第一審裁判所で拘留を科せられた者は,戦後は戦前を上回る時期もあったが,戦前は違警罪即決例により警察犯処罰令等で拘留に処せられた者は,年間10万人を超えていたから,これを考慮すると,拘留は,戦前において最も多用された自由刑であるといえる(第3章第1節3(2)エ参照)。
(5) 罪名別の科刑状況の推移
 罪名別の科刑状況を見ると,殺人については,死刑,無期懲役に処せられた者は,戦後は戦前と比べて少なくなり,特に昭和46年以降は減少しているが,62年は前年より若干増加している。また,有期懲役に処せられた者は,戦後は戦前より刑期が長くなる傾向が見られる。強盗については,死刑又は無期懲役に処せられた者の比率は,戦後は戦前より減少しているが,有期懲役に処せられた者の刑期について,戦前と戦後では大きな差はなく,ただ,執行猶予率は戦後が高くなっている。傷害については,戦後は戦前と比べて,科料がほとんど用いられなくなり,罰金が多用され,懲役刑の比率が低くなっていたが,51年以降はその比率が上昇して戦前の水準に達している。有期懲役の刑期では,戦後は戦前と比べて短くなり,また,執行猶予率も上昇している。窃盗についても,有期懲役の刑期は,戦後は戦前と比べて短-くなる傾向にあり,また,執行猶予率も高くなっている。強姦について,戦後は,戦前と比べて,比較的長い有期懲役の刑に処せられた者が若干増えており,やや重くなる傾向にあるが,執行猶予率は高くなっている(第3章第1節3(3)参照)。