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 平成 元年版 犯罪白書 第4編/第5章/第3節/1 

第3節 犯罪者の処遇

1 検  察

(1) 刑法犯の処理状況
 業過を除く刑法犯について検察庁での処理状況を見ると,戦前の起訴率は,昭和6年の19.2%から16年の28.0%に上昇しているが,反面,戦前の起訴猶予率は6年の74.7%から16年の68.0%に下降している。また,戦前の公判請求率(起訴された者の中で公判請求された者の比率)は,6年から16年の間では53.3%ないし59.7%となっている。これに対して,戦後の起訴率は,21年には45.7%と戦前より相当高く,その後,一時下降した後,再び上昇し,36年の51.0%から61年の59.5%まで増加したが,63年には下降して55。7%となっている。起訴猶予率では,21年が51.3%と戦前より相当低く,26年には60.3%に上昇した後,減少傾向を続け61年には34.8%になったが,63年には若干上昇して37.8%となっている。公判請求率は,21年に69.2%,26年に72.1%と戦前より相当高率であり,40年代には50%台と下降したが,その後上昇傾向となり,51年の62.0%から63年の72.5%まで上昇している。
 罪名別の処理状況を見ると,窃盗,詐欺,恐喝,暴行,傷害,強姦,業過等ほとんどの罪名で,程度の差はあるものの,戦前は,戦後と比べて起訴率が低く,起訴猶予が多く用いられ,戦後は,起訴率が相当上昇し,これに伴って起訴猶予率が低下している。戦後の起訴率の上昇は,法定刑に財産刑のある罪についての略式命令請求が増加し,また,一般に公判請求の比率が上昇していることによるものである。ただ,昭和63年には,業過その他多くの罪名で,起訴率の低下と起訴猶予率の上昇が見られる。しかし,殺人,強盗及び放火については,戦前,戦後を通じて起訴率が高く,起訴猶予率が低くなっており,戦前と戦後を比較しても,他の罪名に現れているような大きな変化は見られない(第3章第1節2(2)参照)。
(2) 特別法犯の処理状況
 道交違反を除く特別法犯の検察庁での処理状況を見ると,戦前の起訴率は,昭和6年から16年までの間では46.7%ないし51.1%で推移し,公判請求率は3.2%ないし8.8%にすぎず,起訴の大部分は略式命令請求であった。戦後の起訴率は,21年には58.8%と戦前を上回り,その後一時下降した後,56年の78.8%まで上昇し,さらに,61年から再び下降して63年には76.4%となっている。公判請求率は,21年から46年まで11.2%ないし16.6%の間で推移し,その後51年の25.7%から63年の46.1%に上昇している。この最近の急激な上昇は,覚せい剤取締法違反の多発とこれに対する公判請求の増加によるものである。
 罪名別に見ると,道交違反の起訴率は,戦前の昭和6年から16年までは48.6%ないし67.3%(公判請求率は0.1%ないし0.2%)であり,戦後は21年には40.8%(同1.6%)であったものの,26年の63.2%(同0.1%)から上昇し63年の93.9%(同0.9%)となっている。また,覚せい剤取締法違反については,起訴率は26年の48.7%(同40.2%)から61年の89.5%(同100.0%)に達し,63年には若干下降して87.5%(同100.0%)となっている。このように,特別法犯でも戦後は起訴率が増加し,特に近年,覚せい剤取締法違反で公判請求が著しく上昇しているのが特徴的である(第3章第1節2(2)参照)。