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 平成 元年版 犯罪白書 第4編/第4章/第2節/6 

6 少年の更生保護

 昭和初年には,非行少年(18歳未満)に対する社会内処遇として,「少年保護司の観察」が行われていた。少年保護司の観察は,[1]少年審判所により少年保護司の観察に付する処分を受けた者,[2]矯正院からの仮退院を許された者,[3]少年にして仮出獄を許された者,[4]少年にして刑の執行猶予の言渡し妄受けた者に対して,・それぞれ行われた。矯正院からの仮退院者に対する観察は矯正院法に,その他の者に対する観察は旧少年法に基づくものである。これら4種類の保護観察は,24年の新少年法及び犯罪者予防更生法の施行により,現行の更生保護制度に引き継がれたが,その際に,仮出獄者については,少年だけでなく,成人も保護観察に付されることになった。また,執行猶予者の保護観察については,28年の刑法の一部改正等により,18歳未満の少年に限らず,18歳以上の少年及び成人に対しても付することができるようになった。
 保護観察制度の変遷及び保護観察処遇に関する法務省保護局の施策の展開については,少年に関するものを含めて本編第3章第3節において述べたので,以下,主として少年に対する保護観察の状況について述べることとする。
(1) 保護観察処分少年
 旧少年法の保護処分の規定は,前述のとおり,昭和17年に全国的に施行されるまで,その施行区域が徐々に拡大されていったのであるが,付表24表により少年審判所が言い渡した少年(18歳未満)に対する「少年保護司の観察」処分に付された人員の推移を見ると,元年から11年まで,約1,000人から1,200人台で推移した後,12年から増勢を示し,17年には3,000人台となり,19年には6,000人を超えるに至っている。終戦の年の20年にはいったん半減したものの,その後は再び増加の一途をたどり,23年には8,469人に達し,少年保護制度始まって以来の最多記録となっている。
 現行の少年法が施行された昭和24年以降の保護観察処分少年(24年及び25年は18歳未満,26年以降は20歳未満)の新規受理人員は,IV-37図及び付表17表のとおりであり,26年には2万3,612人となったが,その後は一時減少したものの増勢に転じ,41年に3万647人と第2のピークを迎えた後,再び減少し始め,49年には1万9,942人となっている。その後,52年から急速に増加し始め,54年以降は5万人を上回り,58年以降は7万人を超えたが,63年には6万8,367人となっている。このような急激な増加は,52年に導入され,集団処遇を中心に実施されている交通短期保護観察の人員の増加の影響によるところが大きいといえる。交通短期保護観察の受理人員は,IV-88表のとおりであって,58年以降は4万人を超えており,これを差し引いた保護観察処分少年の新規受理人員は,58年の2万8,613人から63年の2万4,268人に漸減している。
 昭和24年以降における保護観察処分少年の保護観察終了事由別人員の推移は,IV-60図及び付表30表のとおりである。再非行等による保護処分取消しの数が最も多かったのは,41年の3,947人(同年の保護観察終了者の15.7%)であり,その後49年の1,360人まで減少したが,再び増加して50年代後半には3,000人台となり,63年には3,377人(同13.0%)となっている。成績良好による保護観察解除者の数は,48年以降,満期による保護観察終了者の数を超えている。このことは,保護観察の実務の水準の向上のほかに,保護観察対象者中に道路交通法違反少年が増加したことに伴い,比較的短期間で処遇を終了する者が増えたことを示している。63年には,成績良好による解除者は1万7,992人で,年間の保護観察終了者の69.2%に達しており,他方,満齢・満期による終了者は4,515人で17.4%にすぎない。

IV-88表 交通短期保護観察少年の受理・終了状況(昭和52年〜63年)

(2) 仮退院少年
 矯正院法においては,矯正院の長は,少年審判所から送致された在院者で収容後6月を経過した者について,少年審判所の許可を受けて,仮退院をさせることができ,また,在院者に対し執行の目的を達したと認めるときは,少年審判所の許可を受けて,退院させることができることになっていた。昭和における仮退院率(退院者・仮退院者の合計に対する仮退廃者の比率)等の推移を示したのが,IV-61図である。矯正院法のもとにおける仮退院率は,昭和5年までは50%から70%までの間を上下していたが,6年及び7年に40%台になり,8年から19年までは10%ないし27%で推移しており,終戦の年の20年は131人の出院者全員が退院により出院し,仮退院者は皆無であった。このように,6年以降においては,矯正の目的を達したとする退院の方が,仮退院よりも多用されていたことが分かる。24年施行の犯罪者予防更生法により,仮釈放審理の機関として地方少年保護委員会(現在の地方更生保護委員会)が設置され,保護観察制度が整備され,また,少年院の運営も現行の少年院法によって行われるようになり,同年以喚においては退院よりも仮退院が原則的なものと考えられるようになった。戦後の新しい少年保護法制の下における仮退院率は,25年から41年までの間は常に80%を超えており,42年から51年までの間は70%台であったが,少年院に短期処遇課程が導入された52年には84.0%になり,さらに53年以降は毎年90%を超えている(付表28表参照)。

IV-60図 保護観察処分少年の保護観察終了事由別人員の推移(昭和24年〜63年)

IV-61図 少年院1日平均収容人員,仮退院人員及び仮退院率(昭和元年〜63年)

 昭和24年以降における仮退院少年の保護観察終了事由別人員の推移は,IV-62図及び付表31表のとおりである。満齢・満期による保護観察終了者の数は全期間を通じて最も多く,保護観察終了者の総数の推移に応じて増減している。保護観察成績が良好な退院者の数は,52年以降大幅に増加している。これは,主として,少年院への短期処遇課程の導入に伴い,短期少年院からの仮退院少年に対して積極的に退院の措置が採られていることを反映したものといえる。保護観察終了者に占める退院者の比率は,53年以降は16%を常に超え,58年には21.1%と最も高率となり,63年には若干低下して18.6%となっている。成績不良のため戻し収容・保護処分取消しになった者の比率は,28年の終了者総数の10.8%から徐々に上昇し,41年の28.3%をピークとして下降に転じ,49年に13.0%となったが,その後再び増加傾向を示し,63年には,22.0%となっている。

IV-62図,仮退院少年の保護観察終了事由別人員の推移(昭和24年〜63年)

(3) 少年の仮出獄者
 仮出獄者に対して味,明治以来,警察官署による監督が行われていたが,少年については,旧少年法により,大正12年以降は警察官署の監督に代えて少年保護司の観察が行われるようになった(本編第3章第3節参照)。また,仮出獄は,刑務所長の具申に基づいて司法大臣(昭和23年2月からは,法務総裁)の許可するところであり,司法大臣への仮出獄具申のための審査は,一般に刑務官会議に付議して行われていた。少年については,仮出獄具申のための審査は,さらに,昭和6年7月から,毎月1回,判事,検事,少年刑務所長の協議会が開かれていたが,19年6月事務簡素化,のため協議会は停止され,刑務官会議だけにおいて審議されることとなった。
 昭和24年の犯罪者予防更生法の制定により,仮出獄の許否の権限は,法務総裁から地方少年保護委員会(現在の地方更生保護委員会)に委譲されるとともに,仮出獄者は,成人・少年を問わず保護観察に付されることになった

IV-89表 少年保護司の観察を受けた仮出獄者・執行猶予者数の推移(昭和3年〜22年)

IV-90表 少年の仮出獄者・保護観察付執行猶予者数の推移(昭和35年〜63年)

 旧少年法によって,昭和3年から22年までの間に少年保護司の観察に付された仮出獄者(18歳未満)の数は,IV-89表のとおりであり,3年から19年までは,Oないし7人と一けた以下にとどまっていたが,2C年は95人,21年は624人,22年は1,065人と飛躍的に増加した。
 犯罪者予防更生法の施行後に,全国の保護観察所が受理した仮出獄者に含まれる少年の数については,昭和24年から34年までは統計が作成されていない。35年から63年までの間の少年(20歳未満)の仮出獄者数の推移は,IV-90表のとおりである。少年の仮出獄者は,35年には101人(仮出獄者総数の0.3%),40年には75人(同0.4%),50年には34人(同0.2%),60年には15人(同0.1%),63年には12人(同0.1%)となっている。
(4) 少年の保護観察付執行猶予者
 少年(18歳未満)の刑執行猶予者は,旧少年法により少年保護司の観察に付され,昭和24年施行の犯罪者予防更生法においても,同様に保護観察の対象とされた。3年から22年までの間に,旧少年法により少年保護司の観察に付された執行猶予者(18歳未満)の数は,IV-89表のとおりである。15年以前では,最も少ない5年が29人で,最も多い9年が92人であったが,16年に100人を超えて増加傾向を示し,さらに21年には298人,22年に448人と急上昇をした。
 次に犯罪者予防更生法が施行された昭和24年から63年までの間における少年の保護観察付執行猶予者の受理人員の推移を見ることとする。24年から27年までに受理した保護観察付執行猶予者は,18歳未満の少年であり,24年には1,257人であったが,27年には173人まで減少している(付表17表参照)。
 28年12月の刑法の一部改正等により,執行猶予者の保護観察は成人をも対象とすることとなった関係等から,同年から34年までの少年の数については,統計が作成されていない。35年から63年までの間に受理した少年(20歳未満)の保護観察付執行猶予者の数は,IV-90表のとおりである。少年の保護観察付執行猶予者は35年には429人(総数の5.0%),40年には421人(同5.0%),50年には110人(同1.6%),60年には142人(同2.0%),63年には127人(同2.1%)となっており,47年以降は毎年100人ないし200人の間で推移している。