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 昭和37年版 犯罪白書 第三編/第三章/二/3 

3 職業訓練

 刑務所における職業訓練は,受刑者の心身の状況,適性,職歴,犯罪性,刑期などを調査して適格者を選考し,これに対して職業訓練法による教科内容と同一基準によって,計画的組織的な教育訓練を行ない,できるだけ国家試験などの技能資格,職業免許を取得させて更生復帰の基礎をつくることを目的としている。
 少年刑務所においては,収容者の年齢,心身の特性,社会的能力,教育的陶冶性などの条件から,職業訓練がとくに重要であるのは,いうまでもないことで,各施設においては種々の困難を排除しつつ,その拡充強化につとめてきた。昭和三六年末現在の川越・松本・奈良・岩国および佐賀の各少年刑務所における職業訓練実施種目と訓練人員は,III-29表のとおりで,職業訓練総人員四四三人は収容総人員の約一六%にあたる(昭和三六年末現在の成人および少年の全受刑者のうち,職業訓練実施中の者は一,七九九人で,これは全受刑者数の約三・五%にあたる。アメリカ連邦刑務所における一九五九年の職業訓練終了者の比率が全受刑者数の約四四%―法務省矯正局の調査―であるのにくらべて,わが国の職業訓練を受ける者の比率は,全受刑者についてはもとより,少年受刑者だけについてもはるかに低い)。

III-29表 少年刑務所の職業訓練種目と人員(昭和36年末現在)

 ここで職業訓練修了者の再犯状況をみると,少年のみならず成人を含む全受刑者に関する調査であるが(出所年度の古いもの程再入率が高くなるのは,その者の在社会期間の長さからくる半面の結果である),各年度ごとに全受刑者の再入率と職業訓練修了者のそれを比較してみると,III-30表のとおり,訓練修了者の再入率がきわめて低いことがみられる。なお,III-31表は,職業訓練種目別に訓練を修了し出所した人員と,そのうちの再入人員を示したものである。

III-30表 職業訓練(収容費支弁職業補導)終了者の再入人員と率等(昭和36年7月20日現在)

III-31表 職業訓練終了者の種目別再入人員等(昭和36年7月20日現在)

 また,法務省矯正局の調査によると,昭和三四年四月一日から同三六年六月末までの間に,中野刑務所(改善が比較的容易な二五歳未満の青年受刑者および一般の成人受刑者を収容している)の一般釈放者五五七人中再入した者は二九九人(比率は約五三・七%)に対し,職業訓練を修了し釈放された者三二一人中再入者は五七人(約一七・八%)であった。職業訓練が再犯防止に及ぼす直接的な効果については,今後さらに多方面からの調査研究をまたなければならないが,ともかくも職業訓練修了者の再入率は,一般受刑者の再入率よりはるかに低いことは,注目を要するところである。
 職業訓練法と同一の教科内容をもって行なわれる刑務所の職業訓練の終了者には,技能検定受験にあたっても,同法をはじめ労働基準法(汽缶技士),建築士法,理容師法,道路運送車輛法(自動車整備士),電気工事技術者検定規則,その他の法令にもとづいて,一般の公共職業訓練修了者と同一の資格が認められでいる。したがって刑務所内で職業訓練を修了した者も,各種の資格,免許取得の試験・検定を受けることができ,その合格者はそれらの資格,免許を持って出所できるわけである。III-32表は,昭和三六年中における前記五施設の職業訓練終了者の各種試験および検定の種目別受験人員と合格人員を示すもので,その合格率も一般社会におけるものにさほど劣っていない。

III-32表 少年刑務所の資格・免許取得の試験・検定受験人員と合格人員(昭和36年1月1日〜12月31日)

 なお,前記五施設以外の少年刑務所においても,その収容者の特性および地域の情況に応じて各種の職業訓練が行なわれているが,ここでは函館少年刑務所(少年のほかに青年受刑者を多く収容している)の船舶職員科職業訓練の概況を紹介する。
 函館少年刑務所では,三六トン,六五馬力,二五人乗の船舶を保有し,従来から近海における漁撈作業と乗組員の訓練を行なってきたが,昭和三三年から本格的に小型船舶乗組員として必要な資格と免許の取得を目的とする職業訓練を開始した。
 昭和三三年度から昭和三五年度までに,同所で職業訓練を修了し,受験の上で海技免状を取得した人員は,乙種二等航海士三人,丙種船長一六人,丙種航海士九人,丙種機関士一三人および小型船舶操縦士一人の計四二人である。なおこれらの者の釈放後の就職状況は一〇〇%で,再入者は皆無である。
 昭和三六年末現在,同所で船舶職員科の職業訓練実施中のものは一二人で,訓練科目と時間は,甲板部については普通学科三〇時間,運用術・航海術・気象学などの専門学科七七〇時間,航運実務一,二〇〇時間であり,また機関部については普通学科三〇時間,機関術・機関構造などの専門学科七七〇時間,機関操作実習一,二〇〇時間である。これらの訓練には,同所の技官など三人の職員のほかに,海難審判所,海上保安部および海運局の職員を部外講師にあおいで指導にあたっている。