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少年院は,家庭裁判所の終局決定である少年院送致の決定を受けた者を収容し,これに矯正教育を施す国立の施設であって,現在五八の本院と三の分院がある。
非行少年に対して家庭裁判所の行なう終局決定のなかには,少年院送致のほかに,検察官送致(逆送),保護観察,審判不開始,不処分等があるが,これらの処分のうち少年院送致が占める比率を昭和三一年以降についてみると,III-6表のとおり,少年院送致は比率において減少傾向を示しているが,家庭裁判所の終局決定の総数が著しく増加しているので,少年院送致の実数は増加している。すなわち,昭和三一年には七,七八〇人であったが,その後増加して昭和三四年には九,二八三人に達し,昭和三五年にはやや減少して,八,九五六人となっている。なお,終局決定のうち,実数および比率ともに増加を示しているのは,検察官送致と審判不開始である。 III-6表 家庭裁判所の終局決定別人員の率(昭和31〜35年) 少年院には,初等少年院,中等少年院,特別少年院および医療少年院の四種別がある。初等少年院は,心身に著しい故障のない一四歳以上おおむね一六歳未満の者を収容し,中等少年院は,心身に著しい故障のないおおむね一六歳以上二〇歳未満の者を収容し,特別少年院は,心身に著しい故障はないが,犯罪的傾向の進んだおおむね一六歳以上二三歳未満の者を収容し,医療少年院は,心身に著しい故障のある一四歳以上二六歳未満の者を収容するところである。少年院送致となった人員につき少年院種別をみると,III-7表のとおり,昭和三五年には,初等少年院が一三・七%,中等少年院が六二・五%,特別少年院が一六・五%,医療少年院が七・三%で,中等少年院が最も高い。昭和三一年以降の傾向をみると,特別少年院の率が減少傾向を示しているのに対して,初等少年院がやや増加の傾向をみせている。III-7表 少年院送致少年の少年院種類別人員と率(昭和31〜35年) 少年院送致となった者を年齢別にみると,III-8表のとおり,昭和三五年には,一八歳が二三・四%,一九歳と一七歳がそれぞれ約二二%で高率を占め,一六歳以下は年齢の低下とともにその率が低くなっている。しかし,昭和三一年以降の推移をみると,高年齢層は減少傾向を示すか,またはほぼ同率の線を示しているのに対して,低年齢層は,多少の高低があるとしても増加の傾向をみせている。III-8表 少年院送致少年の年齢別人員の率(昭和31〜35年) 次に,少年院送致となった者の行為別の率を昭和三一年以降についてみると,III-9表に示すように,昭和三五年には窃盗が五三・〇%を占めて圧倒的に多く,これに次ぐ恐喝の一〇・七%に対して大きく差をつけている。しかし,昭和三一年以降の推移をみると,窃盗は昭和三一年以降減少の傾向にある。この傾向は窃盗に限らず,詐欺,横領のような財産犯にみられるのであるが,これに反して,恐喝,傷害,暴行,殺人のような暴力犯については,いずれも増加の傾向を示し,また,強姦,猥せつのような性犯罪も同じく増加を示している。少年犯罪は財産犯が減少傾向を,粗暴犯が増加傾向をたどっているとさきに述べたが,このことは少年院送致人員についてもうかがうことができるのである。なお,特別法犯がわずかではあるが増加を示しているのは注目される。III-9表 少年院送致少年の行為別人員の率(昭和31〜35年) 少年院送致となった者の生活程度を司法統計年報によってみると,生活程度を一応上流,中流,下流,極貧に分けると,III-10表のとおり,昭和三五年には下流が六三・七%で最も高く,これに中流の一八・六%,極貧の一四・四%がつづいている。昭和三一年以降についてみると,極貧の比率が減少を示しているのに反して,下流が増加をみせている。これはわが国の経済成長を反映して極貧の層が下流に移りつつあることもその原因の一つと考えられるであろう。次に,家庭裁判所が行なったすべての終局処分決定人員を生活程度別に分け,それぞれの階層において少年院送致となったものの比率をみると,III-11表のとおり,極貧が高率を示している。すなわち,昭和三五年には極貧が一五・三%で,第二位の下流の六・九%を大きく離している。少年院送致は,一般的にいって家庭裁判所のする保護処分のなかでは最も重い処分ということができるが,極貧の階層に少年院送致の比率が高いということは,その家庭環境等から保護者に監督指導の能力が乏しく少年院に収容することを適当と認める場合が少なくないからであろう。しかも,この比率は,昭和三一年以降漸増の傾向にあることは注目を要する点である。III-10表 少年院送致少年の生活程度別人員の率(昭和31〜35年) III-11表 家庭裁判所終局処分決定総数に対する少年院送致少年の生活程度別人員の率(昭和31〜35年) 少年院を初等,中等,特別,医療の四種別に分け,それぞれの少年院に送致決定のあった者につき,前処分(刑事処分,保護処分,児童相談所送致等)の有無の率をみると,III-12表のとおり,昭和三五年には,特別少年院が前処分のある者九二・九%で最も高く,これに次ぐものは,中等少年院七六・五%,医療少年院五八・二%であり,初等少年院は四四・八%と最も低い。年齢の低い少年を収容する初等少年院が前処分の低いことは当然であって,年齢が低いことは,とりもなおさず非行歴が少ない場合が多いということになるからである。それにしても一六歳以下の少年を収容する初等少年院で四四・八%というのは,高率といわなければならない。しかも,医療少年院をのぞきその他の少年院は,昭和三一年以降前処分のあるものの率は上昇傾向にあることは注目されなければならない。少年院全体についてみると,前処分ある者はその七三・五%(昭和三五年)を占めている。一〇人のうち七人強が前処分ある者であるということは,家庭裁判所が少年院送致を決定する際に,前処分の有無を相当程度に考慮することを物語っているといえるが,いずれにもせよ,少年院収容者のなかには,非行前歴のある者が圧倒的に多い。III-12表 少年院種別人員中の前処分ある者の率(昭和31〜35年) では,その非行歴の回数はどの程度かをみると,司法統計年報によると,昭和三五年の前処分のある少年院収容者六,五八四人のうち,一回が三八・四%,二回が二六・七%,三回が一六・五%,四回が八・八%,五回以上が八・九%である。二回以上の非行前歴者の合計は,六〇・九%であるから,その大半は非行歴をかさねたものであることがわかる。以上は,家庭裁判所の少年院送致人員につき司法統計年報によってみたものであるが,少年矯正統計年報により,少年院新収容者の学歴をみると,III-13表のとおり,昭和三五年では中学校卒業者が最も多く六三・七%,これに次ぐのが中学校中退の一二・〇%である。昭和三一年以降の学歴の比率の推移をみると,不就学,小学校中退在学,小学校卒業および中学校中退が減少を示し,これに反して中学校卒業,中学校在学が増加を示している。このことは,義務教育が徹底し,義務教育を終えない者の数が減少していることを物語るものとして,良好な傾向といえるが,他面において,中学校在学が増加しつつあることおよび高校在学が減少を示していないことは,非行少年問題の重要性をあらわしているといえよう。 III-13表 少年院新収容者の学歴別人員の率(昭和31〜35年) 以上の諸点からみると,少年院送致の決定を受けた者は,低年齢層の少年に増加傾向が見受けられ,その罪名は窃盗が圧倒的に多く,全数の五割強を占めているが,窃盗を初めとして財産罪は一般に減少傾向を示しているのに対して,暴力犯または性的犯罪は増加傾向を示し,また,全数の約七割強のものが非行の前歴をもち,しかも,その前歴の回数はその六割までが二回以上であり,このような傾向は昭和三一年以降増加を示しているということになる。このような特質をもつ少年院収容者をかかえている少年院は,その処遇において種々困難な問題をもち,また,その打開に並々ならぬ労苦の在するものがあるといえよう。少年院の昭和三六年末現在における収容者の数は,九,三六九人であって,施設定員九,四五〇人に対し九九%の収容率である。この収容率を昭和三二年以降についてみると,III-14表のとおり,昭和三四年をピークとしてそれ以降は減少傾向にあり,また,定員に対する収容率は,昭和三四年が一一一%,昭和三五年が一〇六%でいずれも過剰収容であったが,昭和三六年に至り九九%の収容率となった。 III-14表 少年院収容人員と率等(昭和32〜36年各年末現在) 次に,最近の四年間の少年院種別ごとの,退院・仮退院別の平均在院日数をみると,III-15表のとおりである。これによると,退院の方が仮退院よりも平均の在院期間が短い。また,初等少年院の退院については,その在院期間が大きく変動しているが,これはその人数がきわめて少ないために生じた現象であるから,これをもって初等少年院退院の一般を論ずることはできない。平均在院期間は,全少年院を通じたものをみると,退院三六七日,仮退院四〇九日であるが(昭和三五年),昭和三三年以降在院日数では次第に短かくなる傾向を示している。少年院の種別についてみると,医療少年院の在院期間は,退院,仮退院ともに最も長いが,これは心身に著しい障害があるものを収容している点からみて当然のことであろう。これに次ぐのは,特別少年院であるが,犯罪的傾向の進んだ少年とくに年長少年が多く収容されている点からみて,その在院日数の長くなることは当然のことである。III-15表 少年院種別・退院仮退院別平均在院期間(昭和33〜35年) |