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 昭和37年版 犯罪白書 第三編/第一章/一 

第三編 少年犯罪者に対する処遇

第一章 少年鑑別所における処遇

一 少年鑑別所の鑑別の状況

 少年法にもとづいて昭和二四年に発足した少年鑑別所は,東京都をはじめ,全国の府県庁所在地(ただし福岡県は福岡と小倉)および札幌,函館,旭川,釧路の五〇カ所にもうけられているほか,少年鑑別支所が(福島県平市に)一庁ある。
 法務省所管のこれら五一の少年鑑別所および同支所では,医学,精神医学,心理学,社会学または教育学などの専門知識をもった技官一五八人(昭和三五年定員)が心身の鑑別にたずさわっており,昭和三五年中の鑑別(終了)人員は六五,九四一人に達している。また,同年中に家庭裁判所等から送致されてきた収容少年は四一,八一二人であるが,これらの収容少年の観護処遇には,五三〇人(同上定員)の教官があたっている。
 家庭裁判所は,その受理した非行少年や虞犯少年などの調査ならびに審判のために,その少年の心身の鑑別を必要と認めた場合は,観護措置を決定して,二週間(期間更新により最大限四週間)以内その身柄を少年鑑別所に収容してその鑑別を請求する。また,家庭裁判所は,非行少年や虞犯少年などを身柄在宅のままで,少年鑑別所を訪問させたり,あるいは家庭裁判所に出頭させて,少年鑑別所の鑑別を求めることもある。
 少年鑑別所は,このような家庭裁判所関係の鑑別のほかに,検察庁,保護観察所,少年院などの機関の依頼により鑑別を行なうこともある。また,学校その他の団体や一般家庭,職場などの依頼によって,教育相談,進学相談,職業適性などの鑑別を行なうこともできる。しかしこれらの場合には,身柄を所内に収容することはできない。
 家庭裁判所関係をはじめ,これらの鑑別の受付人員は,III-1表の示すように,近年とみに増加し,とりわけ一般からの依頼鑑別と法務省関係の諸機関からの鑑別は,急激に増加し,昭和三五年の鑑別受付人員は前年の約二倍,昭和二九年の十数倍に及んでいる。このことは,少年鑑別所がその地域の鑑別センターとして,少年の非行予防や教育・職業相談などについて学校や家庭などに活発に利用されてきたこと,ならびに少年検察や更生保護の業務に,少年鑑別所の技術を役立てようとする機運が高まってきたことを反映しているといえよう。

III-1表 鑑別受付人員と指数(昭和29〜35年)

 少年鑑別所の資質鑑別では,身体面については各種の臨床的検査・診断を行ない,精神面については精神医学的診断をはじめ各種の心理検査・適性検査のほか脳波や精神電流の測定などを問診や面接調査とともに実施し,とくに収容鑑別では,このような鑑別資料のほかに,収容少年の集団的および個別的生活場面を,あるときは意図的に構成したり,またある時は非構成のままで設定し,各場面での少年の行動を観察記録して,これを鑑別資料として利用している。このようにして蒐集した資料をもとに,鑑別技官,観護教官などの判定会議で鑑別結果を総合決定するわけである。
 全国の鑑別所で使用している心理検査は(昭和三五年三月法務省矯正局調査),三八種をこえるが,そのうち非常に多く用いられているのは,新制田中B式第一形式,ウエクスラー・ベルビュ,WISC,WAIS,鈴木ビネーなどの知能検査,内田クレペリン作業素質検査,YG性格検査,心情質徴標検査,MMPIなどの質問紙法,SCT,ロールシャッハ検査,TAT,PFスタディー,ゾンディー検査などのプロジェクト法である。なお,脳波測定装置は,収容数の多い少年鑑別所に整備されている。また道路交通取締法令違反少年に対する鑑別の要請が最近急速に高まってきたが,この種の鑑別器械(深径覚・撰択反応・処置判断検査器など)はさしあたり関係の深い数庁に備えられている。
 次に家庭裁判所関係の鑑別結果のうち,知能段階別および精神状況別の人員と比率は,III-2表のとおりで,昭和三五年の知能段階別人員の比率は,過去五年間のそれに比して,魯鈍級以下と優秀知以上がやや減少し,限界および準正常がやや増加している。また,精神状況別では,正常者の比率が過去五年間のそれより減少している。なお,昭和三五年だけについて見ると,女子少年は男子にくらべて,知能指数の低いもの,および精神薄弱と診断されたものの比率が高いことが示されている。

III-2表

 なお,道路交通取締法令違反少年を数年来調査研究している静岡少年鑑別所では,道路交通法違反少年二一四人を一般の非行少年一五〇人および高校生八七人と比較してテストした結果などから,この種違反少年の資質の特性を次のように報告している(昭和三四年日本心理学会,同年三月家裁月報等)。
(イ) 知能について―違反少年群の知能指数は一二五-六〇,平均九〇前後で,一般の非行少年群にくらべてとくに著しい傾向はみられない。しかし,知能検査結果を分析すると,違反少年群は,形態把握は非行少年群よりすぐれているが,変化の多い複雑なものの弁別能力や微細な差異を区別し処理する能力に劣っている。すなわち細心さと精密さを必要とする作業には不適と考えられる。
(ロ) 性格について―違反少年群の一般的性格類型は外向的,積極的であるが,反面軽率で調子にのりやすい傾向がある。高校生群と比較して精神的安定性に劣り,気が短かく抑制力の欠如,自己中心性,被刺激性などがみられる。
(ハ) 環境への適応について―違反少年群は高校生群ほどではないが,非行少年群よりは良好な対人関係をもつことができる。社会に対する態度では一応所属欲はあるが,支配干渉を嫌う傾向がある。