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 昭和37年版 犯罪白書 第二編/第四章/三/2 

2 所在不明者の状況

 所在不明者のなかには,前述のように当初から保護観察所に出頭せず,そのまま所在不明となる者もあるが,このほか,保護観察所に出頭し,保護観察官または保護司との接触が始まった後に所在不明となるものもある。昭和三五年一二月末日現在でこれらの所在不明者を保護観察の種類別にみると,II-36表のとおり,仮出獄者の所在不明率(犯罪者予防更生法第四二条の二により保護観察を停止された者を含む)が最も高く一六・三%,これに次ぐのが保護観察付執行猶予者の一三・八%である。これに対して,保護観察処分の少年は六・〇%,少年院仮退院者は九・二%であって,少年が比較的好成績を示している。

II-36表 保護観察対象者中の所在不明者数と率(昭和35年末現在)

 保護観察付執行猶予者は,当初の出頭率が悪く,その多くは所在不明となるから,所在不明率が高くなることは一応理解できるが,仮出獄者が当初の出頭率が良好であるのにもかかわらず,その後の所在不明率が高いのは,どのような理由によるものであろうか。その主な理由としては,地方委員会が所在不明者に対して保護観察の停止決定をする場合があるが,この場合には残刑期の進行が停止することとなっているため,所在の発見または時効完成まで保護観察が終了せず,このため所在不明者の数が累年蓄積計上されることになっていることがあげられる(II-37表参照)。また,その理由の二として考えられることは,仮出獄の保護観察の期間は,残刑期期間であるため,一般的にいって短期間の場合が多く,十分な保護観察ができにくい事情にあることである。仮出獄者は釈放当初においては,監獄の長などの強い指示によって保護観察所への出頭は,比較的良好に確保されているものの,保護観察の期間が短いため仮出獄者は保護観察に頼ろうとする熱意に乏しく,また,これを担当する側も指導監督が十分に行なうことができず,これが所在不明者を多く出している理由となっている場合が少なくない。この意味から,仮出獄者に対する保護観察の期間を残刑期とせず,諸外国の立法例にみられるように,残刑期のいかんを問わず,一定の期間(たとえば,刑法改正準備草案は六カ月と定めている)とするような立法的措置を考慮すべきであろう。

II-37表 仮出獄対象者中の所在不明者数と率等(昭和31〜35年)

 次に,保護観察付執行猶予者の昭和三一年以降の所在不明率をみると,昭和三一年から昭和三五年まで漸増の傾向を示している。すなわち,II-38表にみるように,昭和三一年の八・三%から昭和三五年の一三・八%まで逐年上昇を示している。この原因については,さきに述べたように,言渡裁判所またはこれに対応する検察庁と保護観察所との間のバトン・タッチに問題があるのか,保護観察の方法に問題があるのか,または,保護観察になじみ難い対象者があるためか,必ずしも明らかではないが,今後検討を要する問題である。

II-38表 保護観察付執行猶予対象者中の所在不明者数と率(昭和31〜35年)

 仮出獄者が所在不明になり保護観察を行なうことができなくなったときは,前述のように保護観察所の長の申請をまって,地方委員会は,保護観察の停止の決定をすることができ,この決定があったときは,残刑期の進行が停止される。したがって,この場合には,刑の時効が完成するまでは,仮出獄の期間は満了とならないから,もしその後に所在が判明すれば,停止を解いたうえ,事情によっては,仮出獄の取消等の処分をすることになる。この保護観察の停止の決定は,法務統計によると,昭和三一年以降漸増の傾向にある。