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 昭和37年版 犯罪白書 第二編/第四章/二 

二 保護観察の実施状況

 保護観察をつかさどる機関は,保護観察所であるが,保護観察所で保護観察を主として行なうものは,保護観察官である。保護観察官の定数は,昭和三五年には全国で五五九人であり,昭和三六年に一〇〇人の増員が認められたから,現在では六五九人となっているが,この数は,保護観察の対象者の数からみると,著しく少ないといわなければなるまい。
 保護観察は,対象者を地域社会においたままでその改善更生をはかろうとするものであるから,保護観察官の仕事は,個々の対象者に対して保護観察を行なうことのほかに,その地域社会の犯罪予防活動をも行なう必要がある。法務省保護局が昭和三五年五月八日から一四日までの七日間(この時期は受理人員が年間平均に近く,かつ年間行事の少ない期間である)に保護観察官がどのような業務に従事しているかその実態調査をしたことがあるが,これによると,保護観察官の執務時間の四五・三%が保護観察の業務に,一二・二%が在監者または在院者の環境調査調整の業務にそれぞれ使われているという結果が出ている。結局保護観察にほぼ五割弱の時間が使われていることになるのである。この保護観察の業務とは,対象者との面接,保護票の作成,担当保護司に対する保護観察の委嘱関係書類の作成等であって,保護観察開始後の対象者に対する常時の実質的な指導監督,補導援護は,保護観察官により直接にはほとんど行なわれていない。これは,保護観察官が少数であるのに比し,保護観察対象者の数が前述のようにきわめて多いこと,しかも,対象者の居住地が各地に分散していてその連絡に時間を要すること等のため,自ら直接保護観察を行なうことができず,保護観察の実施を主として保護司にゆだねざるを得ない実情にあるからである。したがって,地域社会における防犯活動に従事する余裕のないことはいうまでもない。このような実情であるから,保護観察官が対象者と直接に接触するのは,保護観察の開始当初における面接ととくに成績の不良な対象者に限られ,それ以外に対象者と接触するのはほとんどまれといってもよい。
 保護司の定数は,五二,五〇〇人であり,全国九一四の保護区に配属されている。保護司は,犯罪者の改善更生をはかるとともに,犯罪予防活動に従事するものとされている。保護司は,保護観察を実施するにあたっては,保護観察官を助けて,対象者の指導監督,補導援護にあたることになっている。法務省保護局が昭和三五年一一月三〇日現在で行なった調査によると,保護観察を担当している保護司の二九%が四人以上の対象者を担当し,その七一%が三人以下の対象者を担当している。これを東京,大阪,神戸,名古屋,横浜,福岡の六大都市を管内にもつ保護観察所についてみると,四人以上の対象者を担当しているのは四二・八%の保護司であり,したがって,三人以下の対象者を担当しているのは,五七・二%の保護司であるから,大都市の保護司の負担量は,その他の地域のそれに比較すると,著しく加重となっている。
 保護司は,適当な方法で随時対象者と接触を保ち,また,必要に応じて指導監督,補導援護を行ない,その状況を毎月一回保護観察所にその成績報告書として提出することになっている。保護観察官は,この報告書によって対象者の状況を知り,成績のよい者については適当な時期に保護観察の解除等の措置を,成績の不良な者については呼出,引致,さらには場合により,仮出獄の取消の申請,少年院戻し収容の申出等の措置を,それぞれ考慮するのである。
 保護観察官または保護司と対象者との接触は,往訪または来訪等の方法によっているが,法務省保護局が昭和三六年七月に行なった調査によると,同月中に九六・五%の者に対して一回以上の接触が保たれている。すなわち,一回が二四・九%,二回が三二・一%,三回が一八・八%,四回が一〇・一%,五回が四・六%,六回以上が六・〇%である。これによれば,対象者の約七五%の者に対し一回ないし三回の接触が保たれていることになる(なお,同月中接触のなかった者は全体の三・五%である)。