前の項目 次の項目 目次 図表目次 年版選択 | |
|
2 入所時の処遇 あらたに刑が確定し,刑務所に入所した受刑者に対しては,第一に,その精神的安定をはかり,刑務所の目的と実際とを理解させ,受刑生活を有意義に送らせるためのオリエンテーション・プログラム(入所時教育)と,第二に,矯正の目的を達成するために,個々の受刑者に最も適切な処遇および訓練の方法を決定するための分類調査と収容施設の選定が行なわれる。
(一) オリエンテーション・プログラム オリエンテーション・プログラム(入所時教育)は,おおむね入所後十五日以内に次のような事項について行なわれる。すなわち,受刑の意義,矯正および更生保護の目的と機能,刑務所の機構と処遇の概要,刑務所内規則その他一般心得などについて,一定のプログラムに従って指導するほか,とくに拘禁に伴う心身の影響を除去し,その安定化をはかるための処置を講ずる。
このようなオリエンテーション・プログラムに平行して分類調査が行なわれる。 (二) 分類調査 分類調査の方法は,医学,精神医学,心理学,社会学,教育学などの知識をできるだけとり入れて調査し,調査の結果は,分類調査票に記録して処遇の基礎として活用するとともに,調査を入所時のほか定時および臨時に行ない,たえず修正を加えることが定められている。しかし,少年院と比較して専門家の配置の少ない刑務所では,まだ十分に行なえない現状にある。昭和三五年末現在では,心理学関係者三九人,精神医学関係者一四人の配置しかない。そこで一般職員のうちから適格者を選び,研修または講習による養成,あるいは最寄の少年鑑別所の専門職員の併任などによって,技術面の向上をはかっている。
分類調査の重要な資料は,犯罪の内容および経過,本人の生活史(家族歴,発育歴,既往症,教育歴,交友歴,非行・犯罪歴),心身の特質(知能,性格,学力,適性,生活態度,習慣,習癖,趣味,娯楽,宗教,思想,健康,現在症),家庭状況,近隣および所属集団などであり,また,刑務所,少年院などの収容の経験ある者については,とくにその記録が重要な資料となる。 分類調査の結果を生かすためには,徹底的に個別的な処遇を行なう必要があるが,現実にこの目的のために適切有効な方法として工夫されたのは,受刑者をグループに分類し,それらのグループを分離された施設に収容することである(施設分類)。 このような分類の基準としてとられているのは,国籍別,性別,年齢別(成人と少年の別),刑期別(長期,短期の別),心身の障害の有無による区別のほか,全般を通じて「所定の刑期を通じての矯正の可能性の見通し」による分類である。 現在行なわれている施設の分類は,次の一〇種であって,その施設数はII-10表のとおりである。 II-10表 分類級別刑務所数(昭和36年12月25日現在) A 性格がおおむね正常で,改善容易とおもわれるもの B 性格がおおむね準正常で,改善の比較的困難とおもわれるもの C 刑期の長いもの D 少年法の適用を受ける男子少年 E G級のうち,おおむね二三歳未満で,とくに少年に準じて処遇する必要のあるもの G A級のうち二五歳未満のもの H 精神障害者(精神病,精神病質および精神薄弱のもの)または精神障害者に準じて処遇する必要のあるもの K 身体の疾患または故障,老衰などにより療養または養護を要するもの J 女子 M 外国人 昭和三六年一二月二五日現在における受刑者分類級別人員は,II-11表のとおりで,B級が受刑者総数の五四・四%で最も多く,これに次ぐのがA級の一五・四%,G級の一一・〇%である。 II-11表 受刑者分類級別人員と率(昭和36年12月25日現在) (三) 分類センター 分類制度を前進させるために,昭和三二年から中野刑務所を分類センターとして発足させ,専門家による強力な分類調査と入所時のオリエンテーションを行なっている。すなわち,ここでは従来行なわれてきた一五日という分類期間を六〇日に延長し,次の三つの期間に分けて,期間別に適切な分類の手続と処遇内容を定めている。
(1) 第一次判定期間 一五日間 新入受刑者は,識別(本人であることの確認)が行なわれ,新入時面接によって居房配置が決定されたなら,おおむね次の日には,これから受ける分類調査,その期間中の処遇のオリエンテーションの概要の説明を受ける。そして,三日目から七日目までの間は,いろいろの集団検査と,処遇に関連のある各部局の担当者からオリエンテーションを受ける。八日目から一四日目までの間は,心理学,精神医学の専門家の面接調査あるいは個別検査を受ける。一五日目には,第一次判定会議が行なわれ,受刑者は次の訓練期間のコースに入れられる。 (2) 訓練観察期間 三五日間 適性試験工場を利用して,職業適性検査,刑務作業の主要業務の紹介,試行作業の説明,試行課程の実施,職業指導が行なわれるとともに,他方では綿密な行動観察が行なわれる。 (3) 総合判定期間 一〇日間 今まで行なった本人についての直接的な調査や検査の結果と,家庭,学校,勤め先などに紹介して得た資料を総合して,適切な収容施設とそこで注意すベき処遇上の指針や注意事項が決められる。また,この期間には移送先の施設についての知識を与え,移送時の心構えなどについての準備とともに矯正教育に対する明確な動機づけを与えるためのオリエンテーションを受ける。 現在,中野刑務所の分類センターは,施設の設備の関係上,一定の範囲の新入男子受刑者に限って分類調査を行なっているが,昭和三五年中の取扱人員は,二,七一一人,昭和三六年は二,五三三人である。 |