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 昭和37年版 犯罪白書 第一編/第七章/七/1 

七 英独両国との生命犯に対する刑の量定の比較

1 外国との刑の量定の比較について

 外国との刑の量定の比較については,国情一般,法律制度,刑事手続の運用状況,犯罪の検挙率等のほか,比較しようとする各別の犯罪に対する国民の一般的な考え方,法定刑の相違等を考慮に入れる必要がある。財産犯罪については,国内の経済状態,国民の生活程度等も考慮しなければならないため,その刑の量定の比較は他の犯罪よりむずかしい。しかし純粋の暴力犯罪については経済状態の影響は少なく,一般の文明国ではあらゆる暴力は否定されるべきものとされているため,国民の考え方による相違も比較的小さい。とくに生命犯は,いずれの国でも最も重大な犯罪としてこれを重視し,最高の法定刑が定められ,最も強い態度がとられている。
 なお,もし同種の犯罪で未検挙の事件や検挙されても処罰されない事件が多数あると,この点が処罰される事件の刑の量定にも影響する。一般の財産犯罪については,日英独三国の検挙率には相違があり,また検挙された事件について,わが国だけが大幅に起訴猶予制度を適用しているような事情がある。しかし生命犯については,日英独三国の検挙率はいずれも良好であって大差なく,検挙された事件については,わが国においても特別の事情のない限り公訴を提起しているので,英独両国と大きな相違はない。したがって刑法の規定とその解釈に関する判例を調査し,科刑に関する統計を対比することによって,刑の量定についての概括的な比較をすることができる。